47 / 75
第2章 蠱毒の頂
第8話 想いを孕む
しおりを挟む渓青への仕返しを心に決めた翠蓮は、渓青の胸の上にふたたび乗ると、まずはゆっくりと口づけを繰り返した。
舌を絡めるか絡めないかのところで戯れあい、そうこうしているうちに胸をまさぐって渓青の上衣をはだけさせていく。合わせ目から手をさしいれて大きく開くと、渓青の厚い胸板を撫ですさり堪能した。
渓青の体はどこにも無駄な肉がついていない。翠蓮にあれだけ「鍛錬」をさせているところを見るに、もともと体を鍛えるのが好きなのだろう。武官であったころより体を使う機会ははるかに少なくなったはずだが、その体には衰えたところは微塵も感じられなかった。
その胸に、硬い腹に、翠蓮は一つずつ口づけを落としていく。渓青は翠蓮の好きにさせているようで、時折髪を優しく梳かれる以外は、制止の声もかからなかった。
それをいいことに翠蓮は腰帯に手をかけて抜き去ると、下衣もはだけさせて渓青の下帯を露出させてしまった。それをすぐに解くことはせず、下帯の上からなにもない渓青のそこに優しく口づけを繰り返す。はじめびくりと体を揺らした渓青だったが、すぐに大人しくなった。
渓青の慌てもしない態度に、翠蓮はかすかに苛立つ。それは、ここにものがあった時にも、そしてなくなった今でも、誰かに触られるのが初めてではないということを示していたからだ。
無論、その嫉妬がお門違いだということは翠蓮も十分に分かっていた。渓青はただの「共犯者」なのだし、翠蓮の下僕でもなければ恋人でもない。
まして翠蓮だって復讐のためとはいえ、琰単と先帝には何度も抱かれた。だから渓青に他の女の影がどれだけちらつこうとも、策略のために後宮の妃嬪たちの閨を訪れようとも、翠蓮はなにも言わないし、言えない。
それでもなんでも、ただこの時、翠蓮はたしかに「苛つき」を感じていた。
その感情を覚えること自体に翠蓮はさらに苛立ち、下帯の隙間から手をさしこむと渓青の傷痕をそっと撫でた。肉がひきつれたような歪な傷痕は、今はもうすっかりと塞がってしまっているが、こんな大きな傷を負ってもなお人間は生きていられるのだということが翠蓮には不思議でならないほどの有様だった。
翠蓮はすこしずつ下帯をずらし緩めていく。中ほどに開いた孔には決して触ることはせず、指先でくるくると傷痕を撫でた。
そうして翠蓮が孔には触らないと渓青を十分に油断させたところで――翠蓮は一気にそこを攻めた。
「……っ! 翠蓮、様……っ」
焦る渓青の声を聞き流し、翠蓮はその孔へと窄めた舌先を捻じこんだ。舌先を尖らせてぐりぐりと抉り、猫のようにぴちゃぴちゃと舐める。
「翠、蓮様……いけま、せん……っ」
はじめて渓青の焦った声が聞けたことに翠蓮は満足した。こころなしか渓青の息も浅くなり、胸が当たっている太腿も強張っている。
ちらりと目線だけをあげて見た渓青の顔に――翠蓮は思わずどきりとした。
眉根を寄せて耐えるような表情を浮かべる渓青は、いつも見ている穏やかな顔とも、後宮の薄汚さを皮肉る嘲り顔とも、そして翠蓮を翻弄するときの憎たらしくさえ思える笑みとも違っていて、雄の色気に満ちていたからだ。
今、攻めているのは翠蓮の方なのに、体の奥に火が灯った気がした。それを悟られまいと、翠蓮は必死に舌を動かす。いつも渓青にされているように舌先でちろちろとくすぐり、ぐるりと孔を舐めまわし、仕上げとばかりにちゅうと吸いあげると、渓青の太腿がびくびくと震え、苦しげな声が降ってきた。
「……っ、く……っ!」
ぴゅぴゅっと口の中になにか粘液が吐き出された。翠蓮は思わずそれを舌先に乗せる。やがて荒い息を堪えていた渓青が、がばりと翠蓮を引き剥がした。
「……翠蓮様っ、申し訳、ありません」
謝らなくてもいいのに、と翠蓮は思いながら、渓青に見せつけるように口の中に放たれたものを、ごくりと喉を鳴らして嚥下した。飲み終えて渓青を見やると、愕然とした顔をしている。この顔を見られただけでもやった甲斐があった、と翠蓮は溜飲を下げた。
それにしても、この喉にすこし絡みつく感覚は、と思う。
「……これ、もしかして精液ですか……?」
「…………そのようなものかと」
やや赤い顔で渓青が俯きながら答える。翠蓮が慌てて渓青の孔を見つめると、そこには乳白色の粘液がすこしついていた。それを指でそっとすくいとる。
「で、では……これを集めて私の中に入れれば……っ!」
渓青の子を孕めるのではないかと、翠蓮はわずかな希望にすがった。もし渓青の子を授かれるのであれば、復讐など……と思いかけたところで、渓青が寂しそうな顔で首を振っているのに気づいた。
「……年長の宦官に聞いたことがあります。陰嚢を失った宦官でも、精液の残りかすのような液体がこうして排出されるのだと。けれども子種は陰嚢で作られるそうですから、これには……生殖能力はありません」
「そう……です、か……」
どうして絶望は簡単にやってくるのに、希望はあっという間に去っていくのだろう、と翠蓮は運命を呪った。
「……ですから、もうこのようなことは……」
慰めるような諦めさせるような声音で渓青は言ったが、翠蓮は「いいえ」と強くかぶりを振った。
「現実に貴方の子を産めなくとも。渓青の一部はこうして私の体の中に入り、私たちは真に一つになりました。そうして私は「復讐」という二人の子を産み落とすのです」
「翠蓮、様……」
「私たちは一蓮托生。貴方の想いを……私が孕む」
「…………っ!」
翠蓮は渓青に強く抱きしめられた。渓青の肩がすこし震えている。
翠蓮は思う。
たとえこの世に二人の血を分けた子供が残せなくとも。二人の想いを乗せた「復讐」という子は、きっとこの国になにかを残すだろう、と。
その夜、二人は穏やかに求めあった。
汚れきった後宮の中で、互いを求める心以外に純粋なものは他になにもありはしないというように、手を握りあって朝を迎えた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる