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第7章 聖魔大戦編
第94話 勇者 VS 魔王
しおりを挟む広い平野のど真ん中。激しい火花が幾度も散り、黄金の剣が反射する光がどこからでも見えている。
「ぬぅりゃああああっっっ!!!」
勇者の目は血走ったように真っ赤に染まっている。魔力を最大限にまで込めた聖剣はその刀身を3倍の長さにまで伸ばし、相手の間合いの外から必殺の一撃を幾度も放っていく。
対して受けるのは新魔王城の市長である。市長は普段の温和な性格からは考えられないほどの激しい形相で、勇者の剣を一身に集めていた。
両手にはホーリーソード。勇者の剣より3倍も太く、そして短い。
攻撃するための使い方ではなく、完全に防御するための剣として出している。そして、激しい勇者の攻撃を幾度も防ぎきっているのだ。
市長の後ろには魔王レイが構えている。市長が攻撃を防ぎ、レイが魔法で攻撃する。そのパターンで勇者を見事に押さえ込んでいた。
「はぁっ、はぁっ、しつこい奴らだ。クソッ! 俺は勇者なんだ! こんな所で負けるわけにはいかねぇんだよ!」
勇者はジャンプしながら剣を振り下ろす。その剣の狙う先は市長を飛び越え、魔王レイを狙ったモノだ。だが……、
「そうはいかん。お主、気が早すぎるな。そんなことでは上に立つ者は務まらんぞい」
市長は額に汗を流しながらも、レイの目前にまで下がり、勇者の剣を弾く。
「むっ、そこじゃ!」
アースジャベリンが勇者へ飛んでいく。勇者はすかさず、剣でジャベリンを切るが、切った途端に爆発を起こし、辺りが土煙に覆われる。
「くっ? 小賢しい真似を!」
辺りを見回す勇者の頭上からアイシクルランスが降っていく。
勇者は持ち前のカンの良さもあり、すぐに頭上へ剣を構え、氷の槍を叩き割っていった。
30発にも及ぶ氷の槍を割り終える頃には、勇者はすっかり肩で息をしながら、睨み付けてくる。だが、まだその目は死んではいない。
「今度はこちらの番だ! ぬりゃりゃりゃりゃりゃ!」
長い聖剣による連撃。1発1発が速く、重く、辺りに爆風や爆煙をまき散らしながら次々に放っていくその剣を市長が弾いていく。
「魔王様、今のうちに!」
「あぁ、市長! 耐えるのじゃ!」
魔王レイといえど、MPは無限ではない。これほど魔法を放ち、戦闘が長引けば底をついてしまう。
そこで、リズが開発したというこのポーションの出番だ。
レイは懐から紫色の液体が入った小瓶を取り出し、すぐに飲み込んだ。
「かはっ!」
体中が熱くなり、大きく呼吸すると、外気中にある魔力が全て自身の魔力に置き換わっていく。そして、手足の先まで魔力が満ちあふれ、完全にMPが回復するのだった。
この小瓶に入っていたのはMPを回復するためのマナ取り込みポーションだった。
これが対勇者戦の切り札だ。いくら勇者といえど、MPは無限ではない。だが、レイと市長よりMPが多い上、多重強化付与魔法で作られた防具もあるため、こちらが先にMP切れを起こしてしまうのは必至だった。
それを打開するためにリズが開発したこのポーション。その価値は値千金。国宝級のシロモノだ。
一応、刺激が強いため、1日1本までという制限をリズは設けていた。そのため、レイと市長は1本ずつ懐に忍ばせていたのだ。
「市長! お主の番じゃ!」
完全にMPを回復したレイはまた、宙にファイヤーボールをいくつも浮かべ、勇者に放っていく。
「助かりますぞい! もうホーリーソードを維持する魔力が切れそうでしたからな」
市長も素早くマナ取り込みポーションを飲み込んだ。
「むおおおおおっ! これは凄いワイ! 魔王様! ここからが本番ですぞ!」
「あぁ! 必ずこの戦、勝つのじゃ!」
市長の体はまた魔力が充実し、闘気が溢れ出る。
「くっそぉ! 何だ貴様等。ここに来て回復だと? ふざけるなぁ!」
勇者はまだまだ魔力を充分に剣に乗せ、振り回す。
「ほっほっほ、こりゃリズ様に感謝ですなぁ!」
市長は元気を取り戻し、勇者の攻撃を弾いていく。その勇者は息が荒くなり、ようやくその勢いに陰りが見えるのであった。
「くそっ、くそっ、俺が、俺様がっ! 何だってこんな奴らを倒せないんだ!」
本来、戦闘技術でいえば勇者RENは相当なものがある。だが、今は混乱し、ただ魔力を剣に乗せて打ちまくるだけの砲台に成り果てていた。
それゆえ、市長が防ぎきるのは容易になっていたのだ。元々、市長は攻撃しようとも考えていないのも大きい。防御だけに専念出来れば、いかに勇者RENの攻撃といえど、致命傷を喰らうことはなかった。
連撃に次ぐ連撃を防がれ、勇者RENは大きくジャンプしながら飛び退いた。
「む? どうしたことですじゃ?」
「……、市長! 気をつけて! 何か企んでいるわ!」
勇者RENは地面に聖剣を突き刺し、自らの総魔力を両手に集めだした。
地鳴りが鳴り響き、暴風が吹き荒れ、大地がグラグラと揺れ出す。
「なんと凄まじい魔力ですじゃ! こ、この平原ごと吹き飛んでしまいますぞ!?」
市長の顔が驚愕に染まる。
「市長、残りの魔力を全て集めるのじゃ! 妾も加勢する!」
その時、魔王の背後へ集まってくる者たちがいた。皆、騎士達と闘っていた、元村人達だった。
「皆、逃げるのじゃ。このままではこの平原ごと無くなってしまう!」
魔王は叫んだ。だが、下がる者は誰もいない。
皆は懐からあの紫色のポーションを取り出し、飲んでいく。
「な、何をしておるのじゃ! 早く逃げろと言っておるじゃろ!」
魔王の悲痛な叫びにも元村人達は誰も退かない。
「魔王様。アナタが退かない限り、我等も一緒に戦いますよ。どこまでもね……」
前に出て来たのはドウムだった。かつて村の門番をしていたこの若者は、現在、魔王の近衛騎士団の団長を務めている実力者であった。
元村人達は全身の魔力を手に集めだし、広い範囲にバリヤーを次々に張っていった。総勢30人による、30重ね張りのバリヤーだった。
「ふむ、ではワシも……」
市長もそれまで手にしていたホーリーソードをしまい、全身の魔力を集め、バリヤーを張る。
「魔王様。この一撃、何としても耐えてみせますぞ。その後はお願いしますじゃ……」
「ああ! 任せておくのじゃ。皆の忠誠、しかと受け取ったぞ!」
魔王レイは決死の覚悟を決めた。その目で勇者をジッと見つめる。
勇者RENは焦った。何せ魔王軍の精鋭30名が一斉に集まってきたのだ。
「くっ! 他の奴らは何をやっている!」
そして、辺りを見回すと……、辺りに見えるのは元騎士だったものばかり。動く者はすでにいなかった。遠くでは二人の魔術師が敵と交戦しているのが見える。が、離れすぎている。
「全滅……だと? 我が軍の精鋭たる騎士達が……。うぬぬぬぬぬぅ! 我が全力を持ってなんとしても魔王の首、上げてやるわ!」
もう体に魔力を残しておく必要などない。生きるか死ぬか。それしか残されていないのだ。
体中の魔力をかき集め、その全てを聖剣に乗せる。
聖剣は、俺の意思に答え、より長く、より大きく、より重く変化していき、雲の高さにまで高くそびえた。
聖剣は周りの雲から発せられた雷を纏いだし、剣の周りが黄色い竜が渦巻くかのように絡みついていた。
「もう、容赦はせん! いくぞぉ!!! 魔王よ! 喰らいやがれぇ!!! ディバインスラーーーシュ!!!」
聖剣がついに振り下ろされる。
聖剣は空気を切り裂き、凄まじい速さでバリヤーに衝突した。
「ぬううううりゃああああああぁぁぁっっっ!!!」
勇者の渾身の一撃はバリヤーを次々に割っていく。
元村人達も一人、また一人と魔力切れを起こし、ばたばたと倒れ込んでいく。
「皆の者、堪えるのじゃ。ここが踏ん張り時ぞ!」
市長が皆を鼓舞し、なんとかバリヤーを維持するが、勇者の一撃は重かった。いや、重すぎた。次々と割れていくバリヤーはすでに5枚しか残っていない。
「くっ……、市長! 後は頼んだ……ぜ」
ドウムも魔力切れを起こし、ついに倒れ込んだ。
さらに他の村人も倒れ、ついに残ったバリヤーはたったの一枚。市長だけが残された。
「ぐぅぅっっっ、勇者の力。見誤りましたな……」
「市長ーっ!」
「魔王様……すみませぬ。皆の者もすまぬ……。これまでか」
市長は膝をつき、魔力が完全に切れてしまうと、バリヤーが全てなくなってしまった。
「グワーハッハッハッハ! 消えていなくなれ!!!」
勇者の最後の一撃が魔王レイに襲いかかった。
レイは聖剣を見つめた。上空でバリヤーを打ち破り、目前にまで迫る光。
「旦那様……。レイはここまでのようです。どうか、ご無事で……」
レイが祈りを捧げた瞬間、視界が黒く染まった。
「ん? ……こ、これは……?」
レイが周りを見渡しても真っ暗な闇しか見えない。
「あの聖剣にぶつかってしまえばあっという間に体は蒸発し、消えてしまうはず……。じゃが、妾は生きている……のか? この暗闇は一体?」
「待たせたね。レイ」
後ろを振り返る。そこにいたのは……。
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