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第8章 聖教国にて

第106話 鍛治師

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「ここが、ワシの鍛冶場だ。一通りは揃ってる。見てやってくれ……。どうだ?」

 リーダーはこの爺さんに強引に引っ張られて連れ込まれた。だが、リーダーを一人にするわけにもいかず、俺と霞さんも王宮内の鍛冶場を訪れていた。

 この鍛冶場は王宮内とはいえ、外れのほうにひっそりと佇んでおり、裏口から爺さんの紹介ということでノーチェックで入ることが出来た。

 っていうか王宮のボディチェック、緩すぎじゃないか? いくらこの爺さんの紹介とはいえ……。

 王宮内の鍛冶場というだけあって、ドアを開いた部屋には所狭しと鉱石が木箱に入った状態で山積みになっていた。

「これがミスリルだ。そっちはダマスカス。で、この箱がアダマンタイト。嬢ちゃんの刀はこれだったよな。残念だが、オリハルコンは使っちまったんだ。先日勇者の剣を作れって依頼があってよ。デカい剣が欲しいなんて言うから在庫あるだけ使っちまったんだよ。んで、こっちの箱からは魔石が詰まってる。魔石は火や水といった属性と大きさごとに箱が分けられてっからよ。混ぜるんじゃねぇぜ?」

 大広間になっている部屋が全て材料で埋まっている。さすが王宮というべきか。ってあのバカでかい勇者の剣ってこの爺さんが作ったのかよ! まったく、やっかいなもん作りやがって!

 俺の思いとは裏腹にリーダーは目を輝かせていた。

「こ、これほど集めてるとは……驚きだ。これ、全部……好きに使ってもいいのかい?」

 リーダーが目を丸くし驚きながらも、興奮気味に聞いた。

「あぁ、もちろんだ。その代わり、嬢ちゃんの腕前、見せてもらうぜ?」

「あぁ、いいよ! 盗める所があったらいくらでも持ってってよ!」

 リーダーは鼻歌をフンフン歌いながら鉱石を選んでいく。

 どうやら、大量のミスリルの前で考えている所を見ると、今回はミスリルで造るのだろうか。

「よし、決めた! 皆も運ぶの手伝ってくれないか? この箱と、その箱! それから、この魔石も持って行ってね!」

 俺たちは言われた鉱石と魔石を次々に鍛冶場に運び込んでいく。

 リーダーは鍛冶場に火を入れた。

 どんどん高温になるよう、燃料に魔力を少し込めてから入れている。しかも、どこに入れてもいいわけではなさそうだ。

「ふぅむ。まさか燃料にも魔力を込めるのか……。その並べ方は……」

「あぁ、普通の木炭を使う場合、細かく切って並べて風が通り過ぎずかといって滞らずっていうふうに使うんだけど、これは魔力を入れてるからね。そのままの形で使うんだ。その際により強い火力で安定する並べ方ってわけさ」

 爺さんの目つきが怖いほどに真剣だ。

「なるほど、勉強になるぜ」

「じゃ、ミスリルを入れていくよ。これにも魔力を込めてから入れるんだ」

 一般にはミスリルは魔力を通しにくいと言われている。それに魔力を通すってことは、並大抵の魔力では無理なんじゃ……。

「アンタ、すげぇ魔力だな……。なるほど、これくら魔力を通すのか」

 爺さんは魔力の込められたミスリルを手に持った。片目でジッと見つめ、やがて頷いた。

 この爺さん、持っただけで込められた魔力量が解るのか。王宮で鍛冶師を務めていることもあるし、ますますただ者ではないな。

「ここからが大事だよ! よく見てて!」

 リーダーの指導にも熱が入る。リーダーは鍛冶神の称号を持っている。その称号のお陰で鍛冶を行う際、力は増幅され、高温の熱にも耐えうる体になっているのだ。

 普通の人間であるこの爺さんについていけるのだろうか?

 リーダーが火のそばにいても、目を全く離さずにジッと見つめることが出来るのも称号のお陰があるからだろう。爺さんはリーダーほど火に近づけていない。

「よし、ここだ。行くよ!」

 リーダーは熱せられたミスリルを引き出した。それをハンマーで叩いていく。ハンマーで叩いていく度に火花が散り、そして、魔力も散っていった。

「なるほど、魔力を込めて熱を入れたのはこのためか! ハンマーで魔力が滞留している所を打ち、全体に均一な魔力になるようにしてるのか!」

 爺さんの目がイキイキとして見開く。

「よくわかったね。鍛冶の加護がないとここの魔力調整が難しいんだ。でもどうやら大丈夫そうだね」

「あぁ、こちとらガキの頃から鍛冶場で育ってきたんだ。知らねぇうちに加護がついてやがったよ」

 そして幾度も熱し、打ち、折り曲げ、冷やし、といった行程を繰り返していく。

 通常15回ほど繰り返すこの行程も、ミスリルという素材に魔石を組み合わせているせいか、20回以上も繰り返した。

 爺さんはいつの間にか、助手のポジションで相づちを真剣に打ちこんでいく。

 剣の火作業が終わっても爺さんは食い下がる。研ぎ、仕上げ、装飾が終わるまでリーダーを質問攻めにした。その熱量たるや鬼気迫るものがあった。

 そして半日が経過する頃……、

「出来た!」

「おおっ! これがアンタの剣……」

 爺さんはその剣をまじまじと見つめる。

「じゃ、ちょっと休憩でもしましょうか? あ、お茶でも飲みます? 俺、アイテム袋に温かいの淹れてあるんですよ!」

 俺は休憩を申し出たのだが、

「いや、すまねぇが。休憩してる暇はねぇ。アンタ達もここまで付き合わせてすまなかったな。ありがとよ。ワシはこれからここに籠もる。だから帰ってくれ」

 マジか……、休憩も取らないとは。

「お? やる気に火がついたようだね! ま、一週間後にまた来るとしようじゃないか」

「すまねぇな。アンタ、名前は?」

「リズ。爺さんは?」

「ワシはスミスってんだ。色々とありがとよ」

 スミスはそっけなく礼を言うと、炉に火を入れた。

 どうやら、こちらも帰るしかなさそうだ。

「じゃ、ウチらも行きますか。とりあえず、宿をとらなきゃいけないしね」

 外はもう空が赤くなり始めてきていた。

 王宮の門に近づくと、何やら騒ぎが起こっているようだ。言い合いをしている声が聞こえてくる。

「どうしたんだ? いったい……」

 門では、門番の兵士と勇者パーティが勢揃いで何やら言い合いをしている所だった。

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