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第8章 聖教国にて
第114話 聖王城内
しおりを挟む城門の中は人の気配がなかった。
「これは、どうしたことだ?」
平時でもこれほど兵のいない時などないのだ。それが、シン……、と静まりかえったように静かになっている。
これは好都合だ。いっきに城の中庭を駆け抜けていく。すると中庭の奥で戦闘らしきものが見えた。
だが、ワシの目に映るのは何かが敵兵の中をすり抜けるように駆け抜けていく影。その影が通り抜けた後には動かなくなった敵兵の山が築かれていくのだ。
先ほどの勇者も凄まじかったが、ここにいる男は得体が知れなかった。なにせ、影しか見えぬのだ。あまりに早すぎる移動しているのだろう。そして、剣が赤い位しか判断がつかないのだ。
その凄まじいまでの速さを持つ影は数百騎はいたかと思われる敵兵をものの数秒で葬り去ってしまったのだ。
「まさに閃光。これほどの男がいようとは……」
あっけにとられるワシの前にようやく立ち止まった男は赤い鎧に身を包んでいた。そして、両手に持つ剣もまた赤。ヘルメットを脱ぎ去ると燃えるような赤い髪の毛、そして赤い瞳を持った男だった。
そして、その赤き男がこちらに向かって手招きをする。
この男もソウ殿の仲間だというのだろうか。
男の手招きに従い、近づいていく。
「アナタが公爵さんだろ? ソウの言っていた特徴と一致する。間違いないか?」
物言いこそぶっきらぼうな印象を受けるが、その瞳には確固たる意思を感じるほど真剣なものだった。
「あぁ、いかにもワシがシュヴァルツヴァイン公爵じゃ。そなたもソウ殿の仲間ということでよろしいか?」
「あぁ、まぁ、そんな認識で間違いない。ま、俺としちゃあ、仲間なんて言われるよりライバルと言って欲しかったけどな」
自信に溢れる顔つきからもウソは言っていないだろう。この男も先ほどの勇者や女二人と共に、超常の武士であることに間違いない。
「協力、感謝する!」
「あぁ、いいってことよ! それより、この国の平和はアナタにかかっている。頼んだぜ?」
赤き騎士の視線がワシから外れない。
そうか、期待されているのだな……。ソウ殿の話を聞き、この場に来る前に覚悟はすでに決めてきている。
「あぁ、全力を尽くすことをここに誓おう。たとえワシが志半ばに倒れようとも、娘が必ずワシの意志を継ぎ、この国に平和をもたらしてみせよう」
赤き騎士は頷いた。
「まだ、敵兵が残っている。俺はそっちを片付けてからすぐに後を追う。先に行ってくれ。道は開けているはずだ」
残る所は本城のみとなった。そこまでの道は完全に開けている。邪魔するものは全てこの赤き騎士が片付けてくれたのだ。
だが、ここからは敵兵も精鋭や近衛騎士団が現れるだろう。気を引き締めねばな。
ワシは自分の頬をバシッと叩くと、気合いを入れ直し、本城の扉を開くのであった。
***
城内は静まりかっていた。
ワシの歩く音だけがカツカツと誰もいないホールに響く。ふと階段の上に誰かがいる気配がした。
「あ、やっときたか! アンタが公爵だよね?」
「姉さん、仮にも公爵閣下なのですからその物言いは……」
一人は背の低い女の子のような見た目。もう一人はしっかりとした大人の女性のようだが、背の低い女の子が姉、なのだろう。ま、今はそれどころじゃない。
「あぁ、ワシがその公爵で間違いない。君達もソウ君の仲間なのかね?」
「あぁ! ボクはリズ。言っておくけれど、ボクがみんなをまとめているリーダーだからね。よろしく!」
「姉さん、リーダーとかチームは今は関係ないでしょう? すぐに公爵さんを案内してあげないと」
リズはハッと気付いたように口を開けると、
「そうだったね。よし、ソウに連絡入れてと……。オッケー! 5分後に到着って連絡したからね!」
むぅ! 何かしらの魔法で連絡を取ったというのか! その魔法……、知ることは出来ないのだろうか? もし普及すれば、人々の暮らしは今よりもずっと豊かになるやもしれん。
「よし、じゃあこっちだよ! 着いてきて」
「うむ」
少女の後ろをついていくため、階段に上がる。そこには驚愕の光景が待っていた。
横たわる人間達。それは、王国でも最精鋭の騎士達と王家直属の近衛騎士団の者たちだったのだ。
前を歩く二人は息一つ切らしてはいない。苦戦した様子もなければ、返り血の一つもあびていないのだ。それは全く苦戦もせずに二人だけで倒したことを意味している。
計り知れぬ二人だ。
ワシは背中がヒヤリと感じるのを悟られないように二人の後をつけていくのだった。
「あ、ここ。この部屋だよ! じゃ、行こうか?」
「うむ。ソウ殿が待っておるのだな?」
「えぇ、首を長くして待ってたんじゃないかしら? 詳しくは知らないけれど気合いを入れて準備に当たってたわよ?」
ソウ殿が気合いを入れて準備? うぅむ、一体何の準備なのかわからんが、ワシはソウ殿に言われたとおりにここまで来た。そして、ソウ殿から言われた仕事はあと一つを残すのみだ。
「では、行くとするかの」
後ろには黄金の勇者、二人の女魔法使い、赤い騎士も追いついてきたようだ。
ワシは満を持して王宮の最奥の扉を開くのであった。
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