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特別はいらない
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しおりを挟む昨日と同じ今日を生きる。
明日も明後日も変わらない毎日。
気がつけば、太陽は沈んでいる。
たまに見ることができる、空色と夕焼けの薄桃色が混じり合う瞬間の空が好きだった。
この部屋は僕の住む家よりもずっと空に近い。窓から外を眺めれば、ぽつんとひとり、取り残されたような気持ちになる。
合鍵をもらった僕は大学の授業を終えた後、この場所に向かうようになった。
コンシェルジュに止められないかと不安に思っていたけれど、翠と一緒にいたところを覚えていたのか、丁寧な会釈で見逃された。さすが超高級マンション、しっかりしている。
初めてここに来た日のこと。
翠の住む部屋は僕なんて必要ないぐらい綺麗に整頓されていて、家事といっても何をすればいいのか分からなかった。
「え、適当に寛いでていいよ」
遠慮がちに尋ねて、返ってきた答えがこれ。
仕事の指示を与えない上司は嫌われると、どうやら彼は知らないらしい。
「じゃあ勝手にします」と啖呵を切った僕は買い物に出かけて、適当にご飯を作った。
この家の冷蔵庫には食べるものがちっとも入っていない。翠の帰りを待っている間に腹は空くし。こちとら、まだまだ成長期だと信じたい年頃なのだ。
少し不機嫌に作った生姜焼きは塩っぱくて、気分が沈む。何もうまくいかない。だだっ広い部屋にひとりぼっちだという事実が、余計に胸の奥をちくちくした。
作っている最中は楽しかったのに、ひとりで食べるのは味気ない。お腹が空いていたはずなのに、箸が止まりかける。義務のように咀嚼して、無理やり喉奥に流し込んだ。
洗い物をしてから少し溜まった洗濯物を見つけて、そのままにするか悩んだ末、洗濯機を回すことにした。
翠の残り香を嗅ぐとどうしても心が震えるから、そのまま放置しておくのは毒だった。
洗濯を終えても、ほんの少しだけ残るそれに反応してしまって唇を噛む。部屋から漂っているものなのか、服からなのか、正解は分からないけれど。くらくらと、熱が溜まっていく感覚がしたのを覚えてる。
何もすることがなくなったけど、翠に待っててと言われたから、しかたなく僕は部屋の主の帰りを待っていた。僕も翠の顔が見たいからとか、別にそんなんじゃない。
高そうな革張りのソファに座ってぼーっとしていれば、急激に眠気が襲ってくる。
今寝たら帰れなくなる。寝たらだめだとうつらうつらしながら戦っていたけれど、それは無駄な足掻きだった。
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