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Show must go on
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昨夜は暗くて見えなかっただろうけれど、すっかり明るくなった部屋では帝王切開の跡がよく見える。二年という時を経て少し分かりにくくはなったものの、それでも僕にとっては勲章の証だった。
「これ……」
信じられないものを見るような目で、翠が恐る恐る傷跡をなぞる。少しずつその瞳に涙が溜まっていくのを、僕は黙って見つめていた。朝日に照らされてキラキラと輝いているのが、あまりにも綺麗だった。
「……痛む?」
「ううん、平気だよ」
「陽は……、ずっと、ひとりでいるんだと思ってたんだ。だけど、違ったんだね」
よかったと零しながら、僕を抱き寄せる翠が肩に顔を埋める。
「翠がくれた宝物がずっと一緒だったよ」
「っ、」
だから、僕はここまで頑張れた。番から離れた代償はあまりに大きくて、ずっと心にぽっかりと穴があいたみたいだったけど、それを埋めてくれたのは間違いなく玲だった。
「ありがとう」
「翠……」
「大切な人がふたりになってるなんて思ってもいなかったから、嬉しくて……」
「…………」
「好きな人との子どもができるって、こんなに幸せなんだね」
涙が溢れ落ちることを気にも止めず、翠は花が開くように本当に幸せそうに笑った。
そんな翠に胸が痛む。まだ挨拶を交わしていない我が子の存在をこんなに喜んでくれているのに、僕はあまりにも身勝手な決断をしたんだ。堕ろす選択肢なんて端から考えなかったし、翠への連絡手段もなかったから、僕にはどうすることもできなかったのだけれど。それでも申し訳なさと罪悪感が募っていく。
「ごめんね、何も言わずにひとりで産んで……」
「謝らないで、ふたりが元気ならそれだけで十分だから。産まれてから今日までの成長を見守れなかったことは正直ちょっと寂しいけど、これからたくさん思い出を作ろうよ」
「っ、うん」
乾いたはずの涙が再び戻ってくる。
本当はずっとやりたいと思っていたこと。全部ぜんぶ、叶えよう。玲にも翠にも寂しい思いをさせた分、これからたくさん楽しいことをしよう。
「……もしかして、今隣の家にいる子がそう?」
「そうだけど、もう会ってたの?」
「うん、どこかで見た顔だと思ったんだ。そっか……、あの子は俺たちの子なんだね」
しみじみとそう言う翠は、もう既に親の顔になっている。そうだよ、あの子は奇跡みたいにやってきた、僕らの愛の証なんだ。
「もう起きてるかな」
「今は……、まだ五時か」
老夫婦は早起きだから起きていても不思議はないけれど、玲にとってこの時間帯はまだぐっすり夢を見ている時間だ。
一人息子の世話を押し付けて、こんな早朝に訪ねるなんてあまりにも無礼だろう。それでも、早く玲に会いたい。誤解をといて、仲直りをして、それから翠のことを紹介したかった。
「これ……」
信じられないものを見るような目で、翠が恐る恐る傷跡をなぞる。少しずつその瞳に涙が溜まっていくのを、僕は黙って見つめていた。朝日に照らされてキラキラと輝いているのが、あまりにも綺麗だった。
「……痛む?」
「ううん、平気だよ」
「陽は……、ずっと、ひとりでいるんだと思ってたんだ。だけど、違ったんだね」
よかったと零しながら、僕を抱き寄せる翠が肩に顔を埋める。
「翠がくれた宝物がずっと一緒だったよ」
「っ、」
だから、僕はここまで頑張れた。番から離れた代償はあまりに大きくて、ずっと心にぽっかりと穴があいたみたいだったけど、それを埋めてくれたのは間違いなく玲だった。
「ありがとう」
「翠……」
「大切な人がふたりになってるなんて思ってもいなかったから、嬉しくて……」
「…………」
「好きな人との子どもができるって、こんなに幸せなんだね」
涙が溢れ落ちることを気にも止めず、翠は花が開くように本当に幸せそうに笑った。
そんな翠に胸が痛む。まだ挨拶を交わしていない我が子の存在をこんなに喜んでくれているのに、僕はあまりにも身勝手な決断をしたんだ。堕ろす選択肢なんて端から考えなかったし、翠への連絡手段もなかったから、僕にはどうすることもできなかったのだけれど。それでも申し訳なさと罪悪感が募っていく。
「ごめんね、何も言わずにひとりで産んで……」
「謝らないで、ふたりが元気ならそれだけで十分だから。産まれてから今日までの成長を見守れなかったことは正直ちょっと寂しいけど、これからたくさん思い出を作ろうよ」
「っ、うん」
乾いたはずの涙が再び戻ってくる。
本当はずっとやりたいと思っていたこと。全部ぜんぶ、叶えよう。玲にも翠にも寂しい思いをさせた分、これからたくさん楽しいことをしよう。
「……もしかして、今隣の家にいる子がそう?」
「そうだけど、もう会ってたの?」
「うん、どこかで見た顔だと思ったんだ。そっか……、あの子は俺たちの子なんだね」
しみじみとそう言う翠は、もう既に親の顔になっている。そうだよ、あの子は奇跡みたいにやってきた、僕らの愛の証なんだ。
「もう起きてるかな」
「今は……、まだ五時か」
老夫婦は早起きだから起きていても不思議はないけれど、玲にとってこの時間帯はまだぐっすり夢を見ている時間だ。
一人息子の世話を押し付けて、こんな早朝に訪ねるなんてあまりにも無礼だろう。それでも、早く玲に会いたい。誤解をといて、仲直りをして、それから翠のことを紹介したかった。
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