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悪戯な皐月

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 緊張している四人に頑張れと心の中で声援を送る。すると突然スタジオ内が暗くなった。


 「さて、それでは皆さんお待ちかね、本日の主役の登場だ!」


 まさか、もう出てくるの。
 何度現場に足を運んだって、この瞬間は全く慣れることがない。

 セットに用意された扉をスポットライトが照らす。バンと開いたそこに現れる長身のシルエット。スモークが漂う中、三河さんが一際テンション高く叫ぶ。


 「……東雲律!」


 まるでランウェイのように堂々と歩き始める姿に歓声が上がる。彼の顔が見えた途端、隣の子が泣き始めた。


 「東雲律です、本日はよろしくお願いします」


 恭しくお辞儀をした彼に盛大な拍手が贈られる。スリーピースのスーツが様になっていて、最高のビジュアルを常に更新していると感動する。

 いつの間に髪を染めたのだろう、白髪が新鮮だ。彼が動く度にサラサラの髪が揺れて、それすらもオタクの心を惑わす材料になる。王子様としか形容できないビジュアルにただただ平伏したくなった。


 「泣いてる方もいますね」
 「今からクイズなのに大丈夫ですか?」
 「っ、初めて、生で律……さんを見て、感動で……」


 ぽろぽろと涙を零す女子高生がいじらしくてじーんとする。

 そうだよね、生の律の美しさはえぐいよね。太陽みたいに眩しくて目がくらむよね。
 そんな親戚のおばちゃんのような心地で見守っていれば、ファンサの鬼が動いた。


 「じゃあはじめましてだね。今日は会いに来てくれてありがとう」
 「~ッ、」


 頭をぽんと優しく叩いた律は、罪作りな男。本人は何でもないようにしているのだから余計に。天性のアイドル、そう言ってしまえば納得してしまうのだけれど。

 女子高生の顔が可哀想なくらい真っ赤に染まっている。肉眼でその光景を見守っていたこちらもその神対応っぷりにため息を吐き出してしまうのだもの、彼女のこれからが心配になるのも無理はない。

 これだから東雲律は、と自分の好きになった人に頭を抱えていれば、律は玉座のような椅子に腰掛けた。一般人が座っても格好がつかないそれも、律にはしっかり似合っている。

 あーあ、またスクショでカメラロールが埋まってしまうなぁ。放送日までに減らしておかなきゃとスマホの容量を心配していれば、再びスタジオの電気が消えた。

 律も知らない段取りのようで、何だなんだと首を傾げている。そんな彼の反応を確認して、悪戯に口角を上げた三河さんが、声を張り上げる。


 「それでは最後にこの方をお呼びしましょう! 最強の挑戦者、吉良紡!」
 「え!?」
 「キャー!」


 ガタンと音を立てて律が立ち上がるけれど、黄色い歓声によって掻き消される。だけどその顔が「そんなの知らない」と何よりも雄弁に語っていた。


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