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甘い熱を帯びたまま
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しおりを挟む「で?」
お手本のように綺麗に口角を上げて、にこやかに微笑んでいるのが逆に恐ろしくて背筋が凍る。言い訳をしようにも、きっとこの様子だと全てバレている。
顔合わせを終えて、心身ともに疲れて帰った僕を待っていたのは、ご機嫌な律だった。だけど、僕には分かる。これは上機嫌を装っているだけ。
正直に話すしかない。
腹を括った僕はソファで足を組んで座る律の前に正座した。
「担当するメンバーが決まりました」
「うん、それで?」
「みんな……いい子です」
苦し紛れに吐き出した言葉を聞いた律が大きく息を吐いて頭を抱える。
「いい子、ねぇ」
含みを持った言い方に冷や汗が頬を伝った。楠木さんが口を滑らせたか、田島さんが話題にしたか。僕だってついさっき驚いたばかりなのに、あまりにも耳が早い。
「っ、ごめんなさい」
恋人が公開告白のようなものをされていたら、そりゃあ誰だって嫌だろう。たとえ本人が悪くなくても、複雑な心境になる。律の気持ちを考えたら、怒って当然だ。
がばっと頭を下げて謝れば、律はふうと自分を落ち着かせるように息を吐いて僕の前に跪いた。
「ごめんね、意地悪しすぎた」
「律が謝ることじゃない」
即座にそう言い返せば、律は首を横に振る。
「ううん、紡は何も知らなかったんでしょ。知っててアイツを選んでたんだったら、話は変わってくるけど」
茶化すような言い方をされて、さっきまでの緊張感はすっかりなくなってしまったことに気づく。
これは律の優しさだ。新しいことを始めようとしている僕の邪魔にならないよう、我慢してくれているんだ。
堪らなくなって、目の前の美男にぎゅっと抱きつけばすぐに背に腕が回される。
「僕は……、律だけが好き。律しか見てない」
「ん、分かってるよ」
「ごめんね、ちゃんと全力でやり遂げたいからまた嫌な気持ちにさせるかもしれないけど、気をつけるから」
律を心配させたくない。
僕が気持ちを向ける先は、ずっと律だけだから。
必死に縋るように言葉を紡いでいると、律の優しい手が頭を撫でる。顔を上げると、いつまでも見慣れない大好きな瞳と目が合った。
「紡」
「……はい」
少し照れながら返事をすれば、キラキラと輝く星空のような瞳が甘く蕩けた。
君が愛おしいと、その瞳から伝わってくる。それが嬉しいのにむず痒くて、なんだか無性に泣きたくなった。
「俺は紡を信じてるよ」
「……うん」
「愛してる」
その言葉は大切なお守りだ。
猪突猛進な神代くんを相手にどうすればいいのか分からないことはたくさんあるけれど、律の言葉だけで僕は頑張れる。
潤んだ瞳を見つけて困ったように笑う律は、慰めるように目元にキスを贈る。そして触れ合う唇がお互いの気持ちを確かめているようで、心の奥がじんわりとあたたかくなった。
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