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青春ブラックホール
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しおりを挟むいつもの散歩ルートを大福が先導する。車や信号に気を配りながらも、俺の脳内はやっぱり三枝で埋め尽くされていて逃れられそうにない。だけど、いつまでもうじうじ悩んでいるのも性にあわないし、はっきりしない自分にイライラが募ってきた。
もういっそ、帰ったら適当にメッセージを送ってみようかな。半ば自暴自棄な結論を出したところで、大福に引っ張られるまま歩いているといつものルートから外れていることに気がつく。最近はもっぱら来なくなった河川敷。昔はよく一緒に走ったり、ボール遊びをしたりしたなぁと懐かしい記憶が蘇る。
大福も、あの頃の思い出をちゃんと覚えているのだろうか。胸の奥がじーんと熱くなって、ゆっくりと頭を撫でた。
「よし、久しぶりに走るか」
そう言って走り出せば、嬉しそうな大福がすぐに俺を追い越していく。やばい、大型犬の本気、舐めてた。たったの数秒ですぐに後悔に襲われる。無理、体力も走力もない俺がついていけるはずがない。螺良ぐらいのスポーツマンじゃないと腕と脚がちぎれる。
「ごめん、大福、待って」
息も絶え絶えに声をかけると、お利口な大福はすぐに足を止めた。しかし、恨めしげなその目は全然物足りないと語っていて、心が痛む。
「もう帰ろうって言ったら、怒るよな」
そう言った途端、ごろんと寝転んで「まだ帰りません」の意思表示。だけど、これ以上走ったら明日の俺が筋肉痛で後悔するのは目に見えて分かっている。
お前が赤ちゃんの頃はイヤイヤしても抱きかかえて帰ることができたけど、もう今はそれができないんだって。駄々をこねる姿を前に頭を抱えてしまった。
「大福、頼むよ」
「……」
ピクリとも反応しない、完全に無視。ワガママお姫様に打つ手なし。ため息を吐き出してから、また名前を呼ぶ。
「大福、」
「くるちゃん?」
それとほぼ同時に自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、心臓が跳ねる。その呼び方で、声で、振り返らなくたって、誰がそこにいるのか分かっている。
「……三枝」
久しぶりに見る三枝は少し髪が伸びていて、初めて見る私服も相俟って、なんだかすごく大人びて見えた。一学期の間に慣れたと思っていたけど、二週間も離れていると関係値が全てリセットされたみたい。こいつの顔面偏差値がおかしいことを改めて実感したら、なかなか直視できなくなった。
「この子、くるちゃん家の子?」
「そう」
「触っても平気?」
「多分大丈夫だと思う」
寝転んだまま動かなくなった大福に気づいた三枝がそっと鼻先に手を伸ばす。くんくんと匂いを嗅いだ後、好きにしろと言いたげに、大人しくお腹を見せる大福の警戒心のなさにこちらが心配になるほど。嬉しそうにわしゃわしゃと撫でる三枝は、年相応に見えてなんだかほっとした。
意外と動物好きだったんだと、またひとつ、三枝のことを知る。一緒に過ごす時間が増えるにつれて、そんなつもりはなかったのに、いつの間にか三枝について詳しくなっていた。
好きな食べものはハンバーグで、トマトが苦手なこと。あんまり人混みが得意じゃないこと。朝が弱くて、授業中に時々睡魔に負けそうになっていること。今は帰宅部だけど、中学の頃は陸上部で短距離をやっていたこと。姉と妹に挟まれた中間子だから、ヘアアレンジとか化粧が得意なこと。意外と読書は好きなこと。要領がよくて、飲み込みが早いこと。そして、一年前から片思いをしていること。全部ぜんぶ、ちゃんと覚えている。
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