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青春ブラックホール
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ぼーっと、ベッドに寝転がってスマホとにらめっこ。その画面には三枝の連絡先が表示されていた。せっかく連絡先を交換したというのに、今更何を連絡すればいいのか分からなくてうだうだしていると、気づけば終業式の日から二週間近く経とうとしていた。
時間が経てば経つほど、送る内容のハードルが上がっていく気がして、日に日に指を動かせなくなっていく。今日なんてピクリとも動かなくて、一文字も入力できなかった。
そりゃ俺とは違って、顔の広い三枝には数え切れないほどの友だちがいるだろうから、夏休みも隙間なく予定で埋め尽くされているだろう。あれはただの気まぐれ、クラスメイトで俺の連絡先だけ知らなかったからコレクション的な意味で聞いてきただけだ。そう思うと余計にメッセージを送るのが怖くなってしまう。
勝手に浮かれて、夏休みも会えるかもなんて考えていた浅はかな自分が恥ずかしい。何も自分から行動してないくせに、受け身ばかりのくせに、厚顔無恥が過ぎるだろう。
でも毎日顔を合わせていたから、突然会わなくなるとなんだか心の中にぽっかりと穴が空いたみたい。退屈な日々が物足りない。俺って、案外三枝のことを気に入っていたのかも。なんて、近くにいすぎて気づかなかったことを今更実感して笑ってしまう。
……会いたいなぁ。今、何してるんだろう。
そう思うけれど、文明の利器を持っているくせになかなか連絡を取れない理由は自分が一番よく分かっている。怖いのだ、返事が来ないことが。勇気を振り絞ってメッセージを送って無視されたらどうしようって、そればかり考えてしまう。
何度も文字を入力して、その度に消すのを繰り返す。震える指先で送信ボタンを押そうとしても、終ぞ一歩は踏み出せなかった。
俺ばかり悩まされている、この状況がもどかしい。今まで、こんな感情に振り回されたことなんてなかったのに。あの日、三枝の残した熱はとうの昔になくなって、触れられた感覚もすっかり忘れてしまった。それを寂しく思う自分がいることが不思議で、そんな自分を消してしまいたくなる。
どうしようもない感情全て、ブラックホールに飲み込まれてしまえばいいのに……。普段じゃ絶対に思いつかないことさえ浮かんできて、脳がこの暑さにやられているのだと言い訳したくなる。
誰かと関係を築くのって、こんなにままならないものだったっけ。目が覚めてからしばらくベッドの上でスマホを片手にごろごろしていると、なかなか起きてこない俺のことを見かねた母さんが不機嫌に一階から呼んでくる。
「一織、あんたいつまで寝てるの!」
「起きてるよ」
「ベッドから出てないのは起きてるとは言わないの! そんなに暇そうにしてるなら、大福の散歩行ってきてちょうだい!」
母、強し。どこの家庭もきっと変わらないヒエラルキー。逆らった後が怖いので、俺は大人しく体を起こす。のろのろと服を着替えて自室のドアを開ければ、大きくて白いふわふわの塊が前に寝そべっていた。俺が出てきたことに気づいて、顔を上げる仕草がかわいくて荒んだ心も癒される。
「大福~」
「そこでずっとあんたのこと待ってたわよ」
「大福……!」
ふわふわの体に抱きつけば、ぺろぺろと顔を舐められる。そんな俺たちを見ていた母さんから聞いて、初めて知った大福の行動に胸を打つ。俺にはお前だけだよと、わしゃわしゃ撫で回せば大福は満足そうに笑顔を見せた。
「よし、散歩行くか」
そんな誘い文句にひと声吠えて返事をした大福が立ち上がり、伸びをする。待ちくたびれたよと言いたげに先を歩く大福のしっぽは、ぶんぶんと勢いよく振られていた。
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