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青春ブラックホール
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しおりを挟む「これから帰るところだった?」
「うん、ちょっと遠くまで来すぎたから」
「送って行ってもいい?」
「……え?」
「家まで着いていくとは言わないから、ちょっとその辺まで。途中まで帰り道一緒だし、せっかく会えたんだからもうちょっと一緒にいたいなぁって」
駄目かなと首を傾げる姿に胸がきゅんと鳴る。その申し出が嬉しくて、気分が一気に上昇する。単純な自分に笑いながら、立ち上がった。
「いいよ、行こう」
「やった!」
もう散歩は終わり? と若干不満気な大福だったが、のそのそと歩き始めてくれてほっとする。三枝と並んで歩くのも久しぶりで、前までどんなスピードで歩いていたか、ちょっと今は思い出せない。けれど、大福の歩幅に合わせれば随分とゆっくりになるから、比例して一緒にいる時間が増えることに密かに喜んでいた。
「くるちゃんは夏休みの課題、全部終わった?」
「うん、先週終わらせたけど」
「やっぱり。なんか集中力が持たなくて、全然進まないんだよね」
あーあ、と大量の課題を出してきた先生たちの愚痴を聞いていれば、三枝がふとため息を漏らした。
「くるちゃんと一緒だったら、あんなに捗るのになぁ」
「……じゃあ、一緒にやる?」
平静を装いながら、精一杯の勇気を振り絞って小さな声で提案する。これを逃したら、新学期が始まるまでまた会えなくて悶々とする日々が続くだろう。断られたら終わりだななんて、三枝の反応が怖くて呼吸の仕方を忘れそうになる。
「いいの?」
「お前の課題が終わってなかったら、面倒見ることになるの俺だろうし……。ほら、また桃ちゃん先生が言ってきそうじゃん」
言い訳じみたことを並べて、桃ちゃん先生を盾にする卑怯な俺。
「迷惑なら全然断ってくれていいから」
「迷惑なんて思うはずない。ありがとう、くるちゃん」
柔らかな微笑みが隣から降ってくる。真正面からそれを受け止めた俺は、言葉に詰まってしまって、慌てて前を向いた。
「本当はせっかく連絡先交換したからメッセージ送ろうって思ってたんだけど、何て送ればいいのか分かんなくてずっと悩んでたんだよね」
「……俺も」
「ふふ、今日会えてよかった。また連絡するね」
「ん、待ってる」
あんなに悩んでいたのは自分だけじゃなかった。三枝も俺と同じだったんだ。それを知ったら、あのモヤモヤに包まれた日々も一気に愛おしく思えてくる。
「じゃあ、俺はこの辺で」
そう言って、来た道を引き返していく後ろ姿を見つめながら、はと気づく。戻っていくってことは帰り道って言ってたの、嘘じゃん。どうしてそんなことをと疑問に思いながら、嘘をついてまで一緒にいようとしたという事実に口角が上がる。
残されたのは、たった数週間の夏休み。俺はどれだけ三枝と一緒に過ごせるだろうか。次に会える日を待ちきれなくて、今からそわそわと気が急いてしかたなかった。
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