37 / 41
邪恋の答え
3
しおりを挟む◇◇
「すごーい! 委員長かわいい!」
「ベリーショートの女の子ですって言われたら、信じちゃうレベルだよ」
「ほら、表情管理しっかりして。委員長ならナンバーワンメイドになれるから!」
気が乗らないまま、なぜかぴったりサイズのメイド服に着替え、光好さんのされるがままメイクを終えた俺を女子たちが取り囲む。よっぽどげんなりした表情をしていたのだろう、「笑って」とみんなに言われて口角を上げようとするけれど、顔がぴくぴくと引き攣ってしかたない。
このメイド服に生気を吸い取られてる気がしてならない。ナンバーワンメイドとか、絶対になりたくないんだけど。
「まぁまぁまぁ……!」
「紅野さん……」
「最高の出来です、委員長! 私の目に狂いはなかった!」
すると、俺を辱めている張本人がタイミングよくキッチンに戻ってくる。俺の姿を一目見た瞬間、ぱあっと顔を輝かせ、その頬は興奮で紅潮している。
短いスカートの裾をぎゅっと握り締め、唇をきゅと噛み締めていれば、紅野さんに「さぁさぁ」と背中を押される。
え、本当にこの格好で人前に出るの? 未だに受け入れられてなくて、最後の悪足掻きでブンブンと首を横に振って、その場に踏み留まろうとする。
しかし、そんな俺の行動はお構いなしに、その細腕のどこにそんな力があるんだというほどぐいぐいと押されてしまい、あっという間に俺はキッチンを出て、ホールに立っていた。
「えー、かわいい!」
「新しいメイドさんだ!」
席が近かった他校の女子高生二人組がすぐに気づいて声を上げる。羞恥心が上限突破して、ぷすぷすと火が出ているんじゃないかってぐらい顔が熱い。今すぐにでもキッチンに戻りたい。
「メイドさんもチェキ撮れるんですか?」
「え、いや、俺は、」
「もちろんです! 何枚ご希望ですか?」
断ろうとした瞬間、金の匂いを嗅ぎつけた墨田がさっと登場し、俺の代わりに交渉を始める。敏腕マネージャーも驚きの早さに若干女子高生も引き気味だ。
チェキコーナーは三枝の待機列ですごいことになっているからと、あれよあれよという間に勝手に話が進んでその場でポーズを取らされる。
「はい、チーズ!」
一緒にハートを作ってほしいと言われて、渋々手を差し出せばそれだけできゃっきゃっと喜ばれる。こっちは死んだ目で無理やりな笑顔だっていうのに、随分と楽しそうだ。
「わー! ありがとうございます!」
「みんなに自慢しちゃお」
「かわいい男の子とチェキ撮れるなんて知らなかったから、めっちゃラッキーだったね」
そして制限時間が迫っていたのか、チェキを確認した二人はるんるんと足取り軽く教室を出て行った。取り残されて、はぁ……と深く息を吐いていると、ぽんと肩に手が乗る。
「委員長、荒稼ぎするぞ」
「最低だよ、お前」
グッと親指を立てて、にかっと笑う墨田の腹を肘で押して体を離す。そのまま隅の方に移動しようと歩き出せば、「不機嫌なメイドも案外需要あるぞ」と後ろから声が飛んできた。馬鹿みたいにとことん下衆な奴だと呆れてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる