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邪恋の答え
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しおりを挟む「え、男?」
ホールのみんなを手伝うために全てを捨てる羽目になったんだ、仕事だけはちゃんとやろう。大変そうにしているところはどこだと、まずは状況把握からだと教室内をぐるりと見渡していれば、驚きに満ちた声が耳に入る。
気まずいなと思いながらも確認すると、まだ何も置かれていない窓際の席にちょうど腰掛けようとしていた他校の男子高校生グループがこちらを見ていた。俺の視線が向いたからか、「おぉ!」と声が上がるのを無視して、おしぼりとカトラリーを持っていく。
「メイドさん、かわいいね」
「……どうも」
「まじで男じゃん」
「女装のクオリティすげーな」
他校に来て、気が大きくなっているのだろうか。下品に騒ぎ立てる男たちに冷たい視線を送っていれば、それに気づいた一人が立ち上がる。
「とか言って、本当は女なんじゃねぇの?」
「は?」
「付いてるかどうかは、見てみないと分かんねぇじゃん」
蔑んだ目のそいつは、俺が唖然としている間にパッとスカートを捲った。短い丈はあっさりとスカートの中を晒す。ばっと慌ててスカートの裾を抑えるが、ばっちり中は見えただろう。
「まじで男だったのかよ」
「お前、それはまずいって」
「下着も女性用だったらよかったのにね」
「バカお前、こんな格好してボクサー履いてるのがいいんだろ」
「きっしょ、お前の発想変態すぎるだろ」
俺のことなんてそっちのけで、ギャハハと笑い声を上げるグループ。何が面白いのか、全く理解できない。男同士だからそこまで精神的ショックがないとはいえ、これが本当に女子だったらどうしていたんだと沸々と怒りが湧き上がる。けれど、こんな奴らも一応はお客さん。作り笑いを貼り付けて声をかけようとした、その時だった。
ぐいっと腕を引かれて、大きな背中に姿を隠される。ドンッと壁を蹴る音が教室内に響き、騒がしくしていたそいつらは一斉に口を閉じた。
「三枝、」
「帰れよ」
こんなに冷たくて、怒りに満ちた声を聞いたことがない。痛みを感じるほど、強く掴まれた腕。静かな物言いにビビったのか、教室にいる全員の冷ややかな視線を集めた他校生は何も言わずにその場から逃げるように去っていく。その姿を見送って、くるりと振り返った三枝は感情を全て消した顔で俺の手を引いた。
「墨田、休憩もらうから」
「どうぞご自由に」
金にがめつい墨田だ、今三枝が抜けたらその分稼げなくなると分かっているだろうに、有無を言わせぬ圧に負けたのか、あっさりと許可を出した。三枝が俺の腕を引いたまま歩き始めると、みんな邪魔にならないようにサッと避けていく。
「ちょ、待てって」
俺まで抜けたら人が足りなくなるんじゃないか。長時間、あれだけの人に囲まれて対応するなんて精神的にも肉体的にも疲れるに決まっているから、三枝が休憩を取りたいのは分かる。けれど、俺は別にそこまで疲れてないし、さっきの奴らだって腹は立ったけど抜け出すほどのことじゃない。
ずんずんと歩くスピードを緩めない背中に声をかけるけれど、三枝は聞く耳を持たなかった。執事服を着た三枝は相変わらず注目を集めているが、その表情はかなり厳しいものなのだろう、誰も声をかけようとする人はいなかった。
――パタン。
静かにドアが閉まる音がして、階段を上りきった三枝がやっと足を止めた。図書室に二人で来るのは久しぶりな気がして、緊張が走る。駄目だ、この場所には思い出が詰まっている。そわそわして、落ち着かない。
そんな俺を他所に、カーテンをシャッと閉じた三枝はくるりと振り返り、ふわりと俺を抱き締めた。突然の行動に驚いて、固まることしかできない。しかし、心臓の音がバクバクと大きくなって、これが三枝に聞こえるんじゃないかと思ったら、一刻も早くその腕の中から抜け出す必要があった。どうにか逃れようとじたばたと藻掻くけれど、更に腕の力を強くされて無意味に終わる。
「三枝?」
「…………」
「俺なら平気だからさ、そんなに気にすんなって」
名前を呼べば、肩に顔を埋められる。首筋に当たるサラサラの髪がくすぐったい。頭をぽんぽんと撫でて宥めるように話せば、三枝は「……許せない」と低い声で呟いた。
「お前がそこまで怒ることないだろ」
「……ある」
「何を、」
「あいつら、汚い言葉を吐いて、くるちゃんに触りやがった」
俺以上に怒っているのが伝わってくるから頭が冷えてきて、スカートを捲られたときに感じた怒りはすっかりどこかへ消えてしまった。イヤイヤと首を振る三枝はまるで幼稚園児だ。もうこれは三枝が満足するまで諦めるしかないと、俺は肩の力を抜いた。相変わらず顔は熱いし、心臓はうるさいけれど、俺だってこの温もりから離れがたいと思ってしまった。
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