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邪恋の答え
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しおりを挟む「でも、それがまさか同じクラスになるなんて……。くるちゃんと初めて話した日のこと、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「ふふ、あの時の俺、内心めちゃくちゃ緊張してたんだよ。表にこの感情は出したら絶対に駄目だって、必死に平静を装ってた。少しでも気を抜いたら、気持ちが溢れちゃうって思ったから。……でも、やっとくるちゃんの視界に入れたんだって、すごく嬉しかったなぁ」
随分と前のことなのに、今なお心底嬉しそうに話す三枝の声からいろんなものが伝わってきて、胸の奥がひどく痛む。熱いものがじんわりとこみ上げてきて視界が滲むけれど、三枝が気づいたら話を中断させて俺を心配するだろうから、歯を食いしばって必死に涙が零れ落ちそうになるのを堪えるしかなかった。
「この際だから、全部白状するね。俺が副委員長に立候補したのも、下心があったから。くるちゃんはみんなの委員長だから、何にもしなかったらただのクラスメイトの一員になっちゃう。それだけは、どうしても嫌だった。副委員長になったら、委員長のくるちゃんとセット扱いされて少しでも近づけるんじゃないかなって、気づいたら手上げてた」
「…………」
「真面目に委員長やってるくるちゃんからしたら、こんなのが隣にいて気持ち悪いよね。くるちゃんが嫌なら、誰かに代わってもらうから、」
「俺だって、別にやりたくてやってるわけじゃないけど……、委員長をやるなら三枝とがいいって思ってる」
「ッ、ありがとう」
震える声で感謝を述べる三枝の痛みが伝染する。三枝とじゃなかったら、押し付けられたクラス委員長なんて面倒な仕事はもっと退屈でつまらないものだっただろう。恋愛感情を抜きにしても、楽しいと思えたのは三枝のおかげだっていうのに、それを無視していなくなろうとするのは許せなかった。
「お前が副委員長じゃなかったら、勉強を教えることもなかったかもな」
「そうだね。俺にとって、放課後のあの時間は何よりも大切だった。くるちゃんのことを少しずつ知って、いろんな表情を間近で見て、好きだなぁって気持ちがどんどん大きくなってた」
「…………」
「でも、教える側のくるちゃんにとってはやっぱり負担だったのかなぁって、断られて初めて気づいたんだよね」
「ちがう、負担になんか思ってなかった」
「ふふ、くるちゃんは優しいなぁ」
俺の否定を本気だと受け取ってくれないことが悔しい。だけど突き放したのは自分だから自業自得、被害者面するのはおかしい。
「……体育祭の借り物競争のお題、まだ知りたいって思ってる?」
「……うん」
「『好きな人』だよ。こんなの、くるちゃんに教えられるわけがないよね。その時にはもう、この気持ちは死ぬまで秘密にしていようって決めてたから」
「な、んで……」
「だって、くるちゃんの迷惑になるでしょ。俺たち男同士だし、いつかくるちゃんはかわいいお嫁さんをもらって幸せな家庭を築く。その未来に俺がいていいはずがない」
「…………」
「だから、ごめんね。どうしようないぐらい、くるちゃんを好きでごめん。言わないって決めたのに、結局困らせてごめん。……それと、最後まで聞いてくれて、ありがとう。おかげで、全部、ぜんぶ、……ッ、手放せそう」
ぽろぽろと三枝の瞳から零れ落ちた涙が、固く握り締められた手を濡らす。未練しかないって、途切れ途切れの言葉からもはっきりと分かるのに、それでも俺のために重たい恋心を捨てようとしているのだ。
いつも飄々としていて、余裕があって、大人びている。それが俺の見てきた三枝だった。こんな風に誰かを思って、静かに涙を流す男だとは思っていなかった。
俺に告白して、困らせたと思って後悔している姿に庇護欲が湧く。あまりにも大きな感情を抱えたまま、迷子みたいに彷徨っている。そんな三枝を愛おしいと思う。もらった愛を同じだけ、いや、それ以上にして返したいと思う。
巻き込んでごめんって、未来で謝ることになるかもしれない。そうなったら、そのとき一緒に考えよう。他に何を捨てても構わないけれど、今、三枝のことだけは何がなんでも繋ぎ止めたいと心から思った。
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