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邪恋の答え
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しおりを挟む「……勝手に、俺との未来を諦めんなよ」
「え……?」
力を入れすぎて白くなった冷たい手を包み込む。ぐいぐいと頭で肩を押せば、びくりと跳ねた後に一気にガチガチに固まった。その行動ひとつから、本当に俺のことが好きなんだと伝わってくる。
欠陥品なんじゃないか、こんな感情を抱くことすら罪なんじゃないかって、何度も自分を責めた。必死に忘れようとして、でも簡単には消えてくれなくて、苦しい思いもした。だから三枝のことを避けて、傷つけて、自分勝手に傷ついた。
でも、もういいんだ。だって、二人が同じ気持ちなら、無理に消してしまおうとしなくたっていいじゃないか。無くそうと思って簡単に無くせてしまう恋なら、こんなに苦しんでいない。
くよくよしてるぐらいなら、未来を憂うぐらいなら、そんな不安を吹き飛ばしてしまうほどに、もっと必死に今この瞬間を全力で愛せよ。
俺は覚悟を決めた。だから、三枝も……。やっと、この気持ちを素直に認めてあげられることが嬉しくて、俺まで泣いてしまいそうだ。
「くるちゃん……?」
「俺の気持ちも聞かずに、言い逃げなんてずるいだろ」
「…………うそだ、そんなわけない」
自分の予想を信じられないのか、期待して違ったときに絶望したくないからなのか。涙に濡れた声で自分自身に言い聞かせながら、首を横に振って必死に否定している。
さっきまでの自分と全く同じ心境なのだろう。そんな姿がかわいく見えて、くすりと笑った。
「お前は本当にこのままの関係でいいの?」
「っ、……いやだ」
「うん、俺も。欲張りだから、やっぱり全部欲しい」
「……、……」
「たくさん悩ませて、傷つけてごめん」
「…………」
「もっと早く、お前に気づけてたらよかったのに」
「……くるちゃん、」
「三枝のことが好きだよ」
どうしようもなく、愛おしい。言葉では言い表せないほど複雑で、とてつもなく大きな感情。それを伝える、最も簡単な言葉。
階段を下りて、三枝の顔がちゃんと見える位置に移動して言うと、大きく見開いた瞳から宝石みたいな雫がまたひとつ溢れ落ちた。ぐしゃりと歪んだ顔が見慣れなくて、手を伸ばして次々に流れる涙を拭う。
「……同情とかじゃない?」
「うん」
「……友だちとしてってこと?」
「ううん、違う」
「本気……?」
「本気」
あんなに距離を縮めようとしてぐいぐい来てたくせに、いざ思いが通じ合ったとなるとなかなか受け入れられないらしい。めんどくさいやつだなと思うけれど、胸の奥がキュンとなって、そんなところもかわいくて愛しく見えてしまう。
愛って、痛みだ。優しくて甘い痛みも、もがき苦しむ痛みも、全部ぜんぶ与えてくれる。それが三枝から与えられる痛みなら、どんなものでも愛おしくて大切な宝物に変わる。
頬に添えていた手に三枝の手が重なった。そっと頬から離して、手のひらを向かい合わせる。そのままきゅと握り締めれば、三枝も同じようにおずおずと指を絡めた。
「……くるちゃん、」
「ん?」
「俺と、付き合ってくれる?」
「うん、よろしくお願いします」
晴れやかな笑顔を浮かべてぺこりと頭を下げれば、手を引かれてぎゅうっと抱き締められる。
「都合のいい夢を見てるみたい……」
「俺も」
ぽつりと呟く三枝の言葉に同意する。こんな風に触れられる日が来るとは思ってもいなかった。学校一の人気者が俺を好きだなんて、奇跡が起きたとしか思えない。
「なぁ、三枝」
「ん?」
「いつもまっすぐ帰ってたけど……、今日は少し、遠回りして帰ろう」
「今日だけとは言わず、毎日遠回りしようよ」
「ふは、それもいいな」
本当はずっと、遠回りして帰りたかったんだ。図書室での勉強だけじゃない、もっといろんな時間を一緒に過ごしてみたかった。
でも、みんなの三枝を俺ばかりが独占するわけにはいかないから、我慢してた。だけどこれからはもっと、自分の気持ちに素直になってみてもいいのかもしれない。三枝ならきっと、何だって一緒に叶えてくれるはずだから。
「あー、でも、みんなの三枝を独り占めしたら絶対文句言われるよなぁ」
「してよ、独り占め。俺がいいって言ってるんだから、外野なんて関係ない」
俺のぼやきを聞いた三枝が、むっとして唇を尖らせる。
「本当に三枝を独り占めしていいの?」
「うん、出会った時からずっと、骨の髄まで俺はくるちゃんのものだから」
晴れ晴れとした笑顔を向けられて、胸が高鳴った。
・
・
・
嗚呼、どうしようもないなと漠然と思う。
嬉しい気持ちも、切ない感情も、全部ぜんぶお前が与えてくれる大切なもの。
これはきっと、どうしようもない愛なのだ。
【完】
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