神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】

新羽梅衣

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神さまの思し召し

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 他の参加者より数分遅れて控え室に入ると、もう帰り支度の済んだひとが数名いる。


 「吉良さんも打ち上げ行きますか?」
 「あー、僕は明日朝早いのでやめておきます」
 「わかりました! じゃあまた!」


 僕以外のみんなは、知らないうちにすっかり仲良くなっていたらしい。
 
 気落ちしていることに加えて、そんな出来上がった関係の中に飛び込んでいけるわけがなくて、僕はやんわりと打ち上げの誘いを断った。

 次々に控え室を出ていく参加者たち。
 最後に残されたのは、僕と白鳥さん。
 未成年の彼女も打ち上げには参加しないらしい。


 「吉良さんと決勝で戦えてよかったです。ありがとうございました」
 「こちらこそありがとうございました」


 気まずいなあと思っていれば、支度を整えた彼女が声をかけてきた。歳下とは思えないほど大人っぽくて礼儀正しい姿に、更に気後れしてしまう。

 彼女と同じ年齢の頃、律はデビューしたんだ。そう思うと、歳ばかり取って、中身は全く成長していない自分が嫌になる。


 「お先に失礼します」


 ぺこりと控えめに会釈した白鳥さんは、まるでステップを踏んでいるかのように軽やかな足取りで控え室を出ていった。


 「はぁ……」


 誰もいなくなった控え室。
 張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れて、僕はぐでーんと脱力しながら椅子に座った。
 
 すると、目から勝手に熱いものが流れ落ちてくる。


 (負けたんだ……)

 律の前で歌うチャンスをもらったのに、自分の持っている全てを魅せることができなかったこと。
 ずっと秘めていた夢を公の場で口にしたくせに、不甲斐ない結果で終わったこと。
 どうしようもなく悔しくて、涙が止まらない。

 もっと上手く歌えたら。
 もっと気持ちを乗せて歌えていたら。
 結果は変わっていただろうか。

 強く握った掌に爪が食い込む。
 まさか自分がここまで本気になるとは思ってもいなかった。

 神さまの世界に足を踏み入れたのが間違いだった。近づけるかもなんて、罰当たりなことを考えたのが馬鹿だった。
 僕みたいな凡人には、相応しくない。改めてそう告げられた気がした。

 いつまでもここにいるわけにはいかない。
 僕はまた大きく息を吐き出すと、立ち上がった。


 (顔を洗って、帰ろう)
 
 涙でぐしゃぐしゃの状態で帰るわけにはいかなくて、僕は控え室を出て、トイレに向かった。


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