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神さまの思し召し

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 「紡?」


 二人分のグラスとボトルを持った律がやってくる。
 
 表情を曇らせた僕が気になったのか、テーブルにそれを置くと、隣に座った律は少し躊躇いがちに僕の頬に触れた。


 「どうして君がそんな顔をするの」


 律は困ったように眉を下げて笑う。
 神さまもそんな顔をするんだ、なんて。場違いなことを考えてしまう。
 
 今の状況から現実逃避したいぐらいなのに、それ以上になんだか心がざわついている。


 「……わかんない」


 真正面から初めて冷静に律の瞳を見た気がする。
 口では分からないと言いつつ、だからこそわかった。
 
 ちゃんと目と目が合えば、すぐにわかる。
 瞳の奥に棲む孤独が滲み出ている。

 悲しくて、虚しくて、寂しくて、脆くて、痛い。
 胸の奥がぎゅんと重たくて、目頭が熱くなる。

 この感情が何なのかはわからない。
 だけど、きっと、誰だって知ってる。
 居場所がない、誰にもわかってもらえない。
 そんな孤独を僕は知っている。


 「紡は優しいんだね」


 そんなことないと首を横に振れば、律は両頬に手を添える。瞳が微かに孤独を訴えている。

 その表情は、表舞台に立つ彼がこれまで一度も見せたことの無いものだった。


 「いなく、ならないで」


 境界線の向こう側で、なんだか律がふらっと消えていなくなってしまいそうな気がした。

 なんの考えも無しにその言葉だけがぽろっと溢れてしまう。

 すると、律がはっと目を見開く。
 次の瞬間、突然すぎて何の抵抗もできないまま、僕は憧れのひとに抱き締められた。

 訳が分からない。
 何が彼をそうさせたのかも、そもそもどうしてこんなことになっているのかも全くもって意味が分からない。

 顔を真っ赤に染めた僕は、ガチガチに固まったまま身動きすることすら許されなかった。


 「ふふ、かわいい」


 ようやく解放されて、安堵したのも束の間。耳まで赤に染まった僕を見て、律は甘く微笑んだ。ぶわっと熱が上がる。

 もう、さっきまでの負のオーラは漂っていない。そのことに安堵するけれど、鼓動は忙しなくてうるさいまま。

 そういえば、ハグをするとストレスが減るって聞いたことがある。動物セラピーみたいなかんじかも。絶対そうだ。そうじゃなきゃ、律が僕なんかを抱き締める意味が無い。

 そう言い聞かせていると、慈愛に満ちた瞳の律が僕の髪を撫でた後、流れるような仕草で頬に手を添えた。
 

 「紡は不思議だね」
 「え?」
 「……欲しくなっちゃうな」


 ぽそりと呟かれた言の葉は聞き取れない。
 聞き返そうとすると、世界で最も美しいご尊顔が近づいてくる。
 
 まさかそんなわけないと思いつつ、身を捩りながら口元を手で抑えると、律はむっと不機嫌そうに口を尖らせる。


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