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まもりたいもの

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 「……この写真を、どうするつもりですか」
 「うーん、どうしようね。週刊誌に売ってもいいし、『吉良紡』のアカウントで投稿してもいいし」
 「…………」
 「JTOの参加者・吉良紡は規定に反した動画で応募したにも関わらず、準優勝に輝いた。何故か、それは審査員の東雲律と親密な関係にあったから……。軽く記事にするならこんなもんかな」


 つらつらと述べる先輩はなんでもないように、まるで今日の晩ごはんの話でもしているかのような気軽さで話している。

 そんな彼がただただ不気味で、気持ちが追いつかない。


 「あれ、もしかして自分がルール違反したまま勝ち進んだって知らなかった?」
 「…………」
 「はぁ、才能があるから通過させたってこと? そういうところもムカつくな」


 図星をつかれて、何も言葉が出てこない。
 宇田が応募したから、僕はルールを確認していない。何も知らないまま参加したから、自分が規定に反していたことを今初めて知った。

 僕の反応で答えが分かったのだろう。
 大袈裟にため息をついた先輩は、試すような視線を僕に送る。


 「ああ、もっといいアイデアを思いついた。東雲律は男と付き合っているってスキャンダルの方が売れるかもね」
 「…………っ」
 「ほら、こんな東雲律、初めて見た」


 ズームされて表情がはっきりと分かるようになった律は、テレビでは見せたことのない笑顔でそこに写っている。

 こんな時じゃなければいい写真だと感激したのだろうけど、今はただ胸が苦しい。

 律の笑顔を見るのが、しんどい。


 「この歳になったら、たとえ友だちでも手なんか繋がない。これを見れば、誰だってお前らが深い仲だって思うだろうね」


 目の前に悪魔がいる。
 ただ僕を傷つけることだけに執着した悪魔が。
 
 全身から血の気が失せる。
 喉がはくはくと動くのに言葉は出てこない。
 それをいいことに悪魔は言葉を続ける。


 「JTOの結果は出来レースだったんだって思うよ。叩かれるのは紡だけじゃない。スタッフさんたちも大変な目に遭うね」
 「…………」
 「俺はどっちでもいいけどどうする? せっかくだし両方記事にしてもらおっか」
 「…………」
 「ふふ、スーパーアイドル・東雲律の初めての炎上だ」


 東雲律といえば、清廉潔白なアイドル。
 今まで一度もスキャンダルを報道されたことがないし、それが律へのプロ意識の高さに対する信頼に繋がっている。

 週刊誌にスーパーで買い物する姿を撮られたぐらいで、あまりの隙のなさに業界でも一目置かれていると聞いたことがあるぐらいだ。

 そんな律の初めてのスキャンダルの原因が僕だなんて。そんなの、ファンである僕自身が一番許せるわけがない。


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