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ブルースター
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しおりを挟む多くの学生でごった返しになった校門前。
その場にいる全員の視線を集めるのは、この場に似合わないスーパーアイドル。カラフルな傘の隙間から見えたそこに確かに律はいた。
知らないうちに金髪から黒髪に戻っている。目の下に隈ができて、少し痩せたように見えた。
それでも彼の放つ圧倒的オーラは色褪せない。誰も近寄ることなんてできなくて、周りにバリアが張られているみたい。
まるで映画のワンシーン。傘もささず、雨に濡れながら下を向いて立っているその人は、こんな時なのに息を飲むほど美しかった。水も滴るいい男とはよく言ったものだ。
ぽたりぽたりと髪先から垂れる雫が律の涙に見えて、きゅうっと胸が締め付けられる。虚ろな瞳がぼんやりと空を見つめていた。
……苦しい。
貴方が僕に会いに来たって分かるからこそ、それを叶えられない自分がやるせなかった。
律がいるという噂は今この瞬間にも瞬く間に広がっているのだろう。ひと目見ようとミーハーな学生がどんどん増えていく。だけど、律はそれを気にする素振りすら見せなくて、ただぼーっと立っていた。
……帰ろう。
白状な奴だって、恨んでくれて構わない。
僕は律を守るためなら何だってするから。
バレることのないよう、僕は傘で顔を隠しながら人混みを抜けた。
最後に一目だけ……。
名残惜しく思う気持ちは誤魔化しが効かなくて、後ろ髪を引かれるように背後をちらりと振り向いた。
独りぼっちで、捨てられた子どものような顔をする律。こんな律、見たことがない。
独りよがりに考えた結果、律から離れるのが最善だとばかり思っていた。僕が離れれば全て元通りになるって、律は幸せになれるんだって、そう信じてた。
だけど、そんな考えが間違いだったんじゃないかと今更思う。今まさに、律を傷つけて苦しめているのは他でもない僕なのだから。
もっと他にできることがあるんじゃないか。そんな淡い願いさえ抱いてしまうほど、僕は律の傍にいることを望んでいた。
目の前にある、ずっと越えられなかった壁を乗り越えたい。向こう側の世界で同じ景色を隣で見たい。そう思うほどに焦がれていた。
ずっとずっと大好きな、かけがえのないひと。
……ごめんね、律。
僕は貴方を不幸にする。
過去を知ったら、僕を嫌いになるかもしれない。
だけど、今にも泣きそうな律を放っておくなんてことはやっぱり僕にはできなかった。
律は僕の道標。初恋を捧げた、唯一無二の神さま。彼のいない人生なんて考えられない。奇跡のように生まれた出会いなのに、悪魔に壊されたままにしたくない。
こんな終わり方ってないだろう。考えるより先に足が動いていた。ぐるりと方向転換して一直線に向かうは、大好きな人のもと。周囲から上がる黄色い声なんて耳に入ってこなかった。
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