神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】

新羽梅衣

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夢を見るのは貴方のとなりで

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 それから一週間後の金曜日。
 仕事が巻いたと連絡があって、僕は律の家にお邪魔していた。

 何度来ても、律の香りに溢れるこの場所は緊張してそわそわする。だけど生活感のなかったこの部屋に、僕の歯ブラシとか服とか、少しずつ自分のものが増えていくことが嬉しかった。


 「紡は寒いの平気?」
 「うん、割と」
 「いいなぁ、紡に体温分けてもらわないと」


 おいでと手招きされて、ソファに座る律の前に立つ。腰に手を回されてそのまま引き寄せられれば、倒れ込みそうになって慌てて背もたれに手をついた。


 「ちょ、危ないよ」
 「ふふ、大丈夫だよ」


 覆い被さるような体勢になった僕を見上げて、律が両手で頬を包む。そして注意する僕の言葉を聞き流して、かわいらしい触れるだけのキスをした。

 たった数秒でも、律に触れられると歓びに震えてしまう。ぽわっと染まる頬が熱を持っていることなんて、そこに触れている律にはバレバレだ。

 もっとしたい。律が足りない。
 口には出せない欲望が湧き上がる。

 もう一回してくれないかな。何も言えずにじいっと見つめれば、困ったように眉を下げた律が額にキスを贈る。欲しいのはそこじゃないのに。欲深い自分が顔を出す。

 だけど、その先に進む気配はやっぱりなくて、曖昧に笑う律に誤魔化すようにぎゅっと抱きしめられた。
 
 ハグはしてくれる。
 キスも軽いのならオッケー。
 同じベッドで寝るのが普通。
 だけど、性的な触れ合いはゼロ。
 
 隣にいられるのが幸せなのに、僕ばかりが煩悩で溢れているみたいで苦しかった。どうしても律を抱きしめ返すことができなくて、何をやってるんだろうと自己嫌悪でまた傷ついた。


 「あ、」
 「ん?」
 「……っ」
 「どうしたの、紡」


 律の隣で目が覚めて、向かい合って朝食を食べているときにふと重大なことを思い出して息を飲んだ。

 さあっと血の気が引いて、心臓ど真ん中に隕石が落ちてくる。そんな衝撃に青ざめる僕を確認した律が手を止めて、席を立つ。


 「紡?」


 最近染めたミルクティーグレージュの髪が相俟って、僕の前に跪いている姿はまるで王子様。心の中でシャッターを切るのはオタクとして流石に止められないけれど、やってはいけない過ちに動揺を隠せない。


 「……律の、」
 「ん?」
 「律の誕生日、今年祝ってない……」


 毎年欠かさず、本人不在の誕生日会をひとりで行ってきたのに。今年はいろんないざこざがあって、すっかり忘れてしまっていた。自分のことばかりだった、あの日の僕をぶん殴りたい。

 東雲律が生まれた一年で最も大切な日をお祝いしないなんて、僕は最低なオタクだ。

 どうしようと狼狽えていると、律が「なんだ、そんなことか」と安堵する。


 「別に誕生日なんか気にしなくていいのに」
 「そんなことじゃない、律の生まれた日なんだからお祝いしたいに決まってるだろ」


 十月四日、それは僕にとって何よりも大切な一日。僕の熱意に珍しく律が押され気味だ。


 「その気持ちだけで俺は満足だよ」
 「律がそう言うって分かってるからこそ、ちゃんとお祝いしたかった」


 ずーんと落ち込んでしまう。
 もう律から離れるつもりだったとはいえ、誕生日を忘れるなんてオタク失格。

 過去の自分への怒りで泣けてくる。
 涙を浮かべて唇を噛み締める僕の手を握った律が「じゃあさ」と提案する。


 「俺の願いを叶えてくれる?」
 「うん、何でもする」
 「ふふ、言ったね、紡」


 にやりと口角を上げる律に嫌な予感はするけれど、どんなことだって受け止める。それほど、僕は罪悪感と後悔に苛まれていた。


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