チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク

文字の大きさ
23 / 93
第三章 へたっぴ歌唱狂騒曲

第二十二話 化け物退治 in 夜の校舎③

しおりを挟む
 声が近づくたびに恐怖心が膨れ上がっていく。

 いや、正確には陸達が声の主に近づいているのだが、音流に引きずられている陸にとっては、大差ない認識だった。

「同志。ふと疑問が湧いたんですけど、化け物はなんでずっと声を上げているんでしょうか」
「どういうこと!?」
「だって、そこにいるだけなら声を上げる必要はないじゃないですか。ウチみたいな人をひきよせることになります。いや、ウチはおびき出されているのかもしれませんね。それとも他の目的があるのでしょうか」
「そそそんなの、ばけぇものしかわからないいぃぃ」

 音流は化け物の習性を考察するのが楽しいのだろうが、恐怖に震える陸にそんなことを考える余裕はない。

「確かにそうかもしれません。ですが、何か引っかかるんです。よくよく聞くと、この音は聞いたことがあるような」
「聞いたことがある……?」

 音流の言葉が気になって、つい化け物の声に耳を澄ましてしまう。

 化け物の声は断続的に鳴っている。一瞬だけ聞けば不気味なだけの音だが、よくよく聞くと音の正体が見え始める。

「違う音がふたつある……?」
「そうなんですよね。もう少し近づけばもっとわかると思います」

 化け物の居場所まで、あとほんの数メートルのところまで近づくと、一つ目の音の正体がわかる。

「鳥が羽ばたいている音ですね」

 音流の答えに、陸はコクンと頷いて同意した。一つ目の音は明らかに羽音だった。しかもかなり激しく羽ばたいていることがわかる。

 しかし問題はもう一つの音だった。

「もう一つは、ちょっとリズムがありますね。音程もあるかも……?」

 羽音を除くと、不可解な音が鮮明になる。それにはリズムや音程がわずかに見られ、何かの意図が込められているのは明白だった。つまり、この音はただ垂れ流しているものではなく、誰かに何かを伝えるために発している音だと推察できる。

 それを理解した陸は、さらに強く音流に抱き着いた。

「まあ、羽音が聞こえる時点で昨日の化け物と一緒みたいですね。だったらそんなに怖くないです」

 音流が昨日見た化け物の頭部には羽が生えていた。羽音はそれを羽ばたかせているだけだろう。

 話している間に化け物がいる音楽準備室の前に到着した。

 ドアについたガラスからはわずかに光が漏れ出ている。しかしそれは天井の電灯の光ではなく、地面に置かれた小さい何かから発せられている光だった。

 音流達は誘導灯にかすかに照らされた一角で立ち止まった。わずかに明るいため、陸の体の震えが和らいだ。そして音流の顔を見て、ホッと息をついた。

「よし、着きましたよ同志。覚悟はいいですか。大捕り物になる予感がビンビンです」
「もう十分でしょ!? これ以上は危険だって」

 音流は慣れた手つきでポケットから光り物を取り出して器用に操り始めた。

 突然目の前で刃物を振り回されたことに驚き、陸は「うわっ」と素っ頓狂な悲鳴を上げた。

「パパの部屋から盗んできました」

 音流は茶目っ気を込めて、バラフライナイフを見せつけた。

 バタフライナイフとは、折り畳みナイフの一種だ。グリップが二つに分かれていて、回転させることでグリップ内に刃を収納することができる。片手で開閉することもでき、開閉アクションの見栄えの良さから愛好家が多いナイフだ。

 音流は華麗な開閉アクションを披露しはじめた。

「危ない!」と陸が叫ぶと「これは練習用なので切れませんよ」と音流が舌を出しながら補足した。

「切れませんけど、脅しには使えると思います」
「いや怖いからやめて。お願いだから……。せめて振り回さないで」

 陸の懇願を受けて、音流はしぶしぶながらバタフライナイフをしまった。

「……最悪投げて使います」

 音流は苦し紛れに言うのを見て、陸はあることが気になった。

「そういえば、どうやって化け物を倒すつもりなの?」
「清めの塩です!」

 音流はポーチからポリ袋に詰まった塩を取り出して、得意げな顔で見せびらかした。

「ちょっとかける練習をしてみますか」
「うわ、口の中に入った」

 突然、音流は陸の顔面めがけて一掴みの塩をかけた。

(もしかして結構鬱憤うっぷんたまってる?)

 謝罪の一つでもした方がいいだろうか、と考えたのだが、すぐに口の中の違和感に気づいたことで、音流に向けた視線は申し訳なさそうなものから憐れむものへと変わっていった。

「これ塩じゃなくて砂糖だよ。すごく甘い」
「またまたー。さすがのウチでも塩と砂糖を間違えませんよ」

 そう言いながらも音流は確認にために一口なめた。一瞬甘さに口角を上げた後、徐々に顔が青ざめていく。

「甘い、甘いです! 塩が甘いなんて、これは化け物の仕業でしょうか!?」
「塩と砂糖を間違えただけでしょ!?」

 音流はなるほどと手を叩いた後、頬をひきつらせ始めた。

「砂糖で化け物を退治できませんよね」
「糖尿病で死ぬかもな」
「それ、何年後の話になるんですかぁ」

 自分の失態を自覚した途端、音流は膝を抱えて落ち込んだ。

「……なんでこんなドジばっかりするのでしょう、ウチ」

 化け物が目と鼻の先にいる状況なのだから落ち込んでいる余裕はないだろうに、音流は膝を抱えて項垂うなだれてしまった。

「別にドジでもいいじゃん。ほら、僕が塩持ってきてあるから」

 陸はズボンのポケットに忍ばせていた塩を手渡した。少量だけだがラップに包んで持ってきていたのだ。

「ありがとうございます。同志も考えること一緒だったんですね」
「倒すつもりはなかったけど。逃げる時に使えるかな、ぐらいの考えで持ってきた」

 音流は受け取った塩をじっと見てから、陸の顔に視線を移した。

「一緒に来てもらえてよかったです。いざって時は頼りになりますね」

 素直に褒められたことで照れくさくなり、陸は顔を背けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...