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第五章 日向ぼっこ好きは台風の目の夢を見る

第三十六話 《サイアク シニタイ》

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《さいあく しにたい》

 台風前夜。

 生暖かい突風が肌を撫でると、不穏さを掻き立てている。夕焼けは分厚い雲に隠されており、今が昼なのか夕なのかも曖昧あいまいだ。そんな夜の始まり。

 陸は気分が落ち着かず、自室でSNSを覗いていた。

(開くのも久しぶりだ)

 陸は特にSNSを見るのを好きではないし、自分から発信しないため通知もほとんどない。たまに気分転換に覗いてみる程度だ。普段だったらゲームをやったりマンガを読んだり、他の娯楽を楽しんでいただろう。しかし台風の目で日向ぼっこする前日であるためか、ゲームをする気分にはなれなかった。

(なんかいつのまにかフォロワーが増えている)

 陸のフォロワーは友人がほとんどで、学校の繋がりで相互フォローになっているユーザーが一部いるだけだ。滅多に更新もしないため、フォロワーが基本的に増えることはない。

 陸は新しいフォロワーを見てみることにした。

 アイコンは獅子舞だった。デフォルメされていて、ニコニコ笑顔をしている。しかし最新のメッセージは明るい第一印象とは真逆なものだった。

《さいあく、しにたい》

 最新の投稿はそんな不穏な文章だった。しかもたった数分前に送られたものだ。

(誰なんだ?)

 放っておけなくなった陸は、そのアカウントの過去のメッセージを確認し始めた。そのほとんどが恨みつらみばかりで、深夜に投稿されていた。

(夜に眠れていないのか?)

 さらに深堀しても手掛かりはない。自分のアカウントをフォローする意味が分からず、陸はさらに首をひねった。

 ピポン、と新たなメッセージが流れてきた。

《しぬなら、台風の目で》

 読んだ瞬間、背筋に冷たいものが駆け抜けた。

 陸の脳裏には日向ぼっこ好きな同級の姿が浮かんでいた。同時に混乱もしていた。自分の中の音流のイメージと、今見ているアカウントの人物は言動がかけ離れすぎていた。いまいち確信を持てず、スマホの画面を見たまま固まっていた。

 容赦なく次のメッセージが流れてくる。

《おひさまみえない》

 今日は接近中の台風の影響で曇天模様だ。太陽は分厚く暗い雲の向こうに隠れており、夕日すらも見えない。

《ひなたぼっこでしにたい》

 息を呑んだ。

 疑惑は確信へと変わった。いや、変わってしまった。

 陸は音流の普段の様子を思い浮かべた。

 日向ぼっこが大好きで、明るくて、ドジで、ちょっと卑屈で、自分のことを同志と呼んで慕ってくれる――かけがえのない少女。

 彼女が死にたいと呟いている。

 陸はとてつもない不安に駆りたてられ、SNSでダイレクトメッセージを送った。

 返事はすぐに来た。

《これからあえませんか》

 近くのコンビニで会おうとメッセージを送った後、陸は駆け出した。
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