チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク

文字の大きさ
44 / 93
第五章 日向ぼっこ好きは台風の目の夢を見る

第四十二話 下着姿で抱き合う二人は

しおりを挟む
 カーテンと見紛みまがう程の激しさで豪雨が降り注いでいる。

 貧弱な造りのバス停から出ることもできず、少年少女は下着姿で向かい合っている。

 陸はボクサーパンツだけになっており、特に鍛えていないだらしない体を露出させている。

 音流は飾り気のない薄ピンクのブラとショーツだけを身に着けており、濡れた黒髪が肌に貼り付いている。

 さっきまで身に着けていた服は二人分がまとめて置かれている。びしょびしょに濡れていて、男女の服が溶け合って見える。

「同志、先に座ってください」

 陸は促されるままベンチに座った。気を使われているのかな、程度にしか考えていなかった。しかし音流が接近してきたことで察した。とっさに目を閉じると、少女の弱々しい吐息を近くに感じられる。

 膝の上に重さを感じて目を開けると、予想通りの光景が映っていた。

 音流は、向かい合うようにして陸の膝の上に座っていた。確かに体を温めるのであれば最も効果的だろう。しかし思春期の陸には余りにも刺激が強すぎる。

 音流は迷いなく、陸の背中に手を回し体を密着させた。

 下着越しの――布一枚を挟んでいるだけの、豊満な胸の感触。触れ合う肌と肌。少女一人分の体重。消え入りそうなシャンプーの甘い香り。濡れた肌に触れると体の芯まで痺れる。

 そのすべての要素が、陸の弱いところをくすぐる。

 陸は吃音きつおんを漏らしながら、体を強張らせて衝動に耐え続ける。しかし徐々に慣れはじめ、恐る恐るだが音流を抱きしめようとする。最初は触れるのすら慎重で、少し触っては離し、触っては離しを繰り返していた。触れていいことが確信できて、ようやく背中に腕を回した。

 そうこうしている内に、音流の肌は赤みがかっており、熱を帯び始めていた。

(冷たくない。良かった)

 徐々にだが状況が好転している。

 落ち着く姿勢を見つけると、環境音だけの時間が続いた。

「いい音」

 音流が小さく呟いた。

 轟々と雨音が鳴り響き、強風が吹きすさぶ中でも、囁くような声は陸の耳にしっかり届いていた。

「同志の心臓の音は、すごく落ち着きます。じいじにとっても似てます」

 陸は喜んでいいかわからず、「あ、うん」と曖昧な相槌をうった。

「頭を撫でてください」

 言われるがままに音流の頭を撫でる。猫の赤ちゃんの産毛を撫でるようにそっと撫でているつもりだが、どこかぎこちない。

 音流はゆっくりと息を吐きながら、陸の胸に顔をうずめた。

「撫で方もじいじに似てます。手がもっとシワシワゴワゴワだったら完璧です」
「悪かったな」

 不機嫌になった陸は手を離そうとした。音流は「ぁ……」と名残惜しそうな声を漏らした後

「やめないでください。今は同志に撫でられていたいんです」とおねだりした。

 陸は照れながらも、再び音流の髪に触れる。

「音流って、下の名前で呼んでくれませんか?」

 陸は無言のまま渇いた唇を舐めた。先ほどからの怒涛のおねだりに、どうにかなりそうになっていた。

「ウチの名前、読んでください」

 普段の陸ならば、音流の要求にこたえられなかっただろう。しかし今は非現実的な状況に寄っているし、疲労で判断力が鈍っている。

 陸は唾を呑んで、意を決する。

「うん、わかったよ。音流」
「はい、同志」

 音流は目を皿にしながら、コクコクと力強く頷いた。まさか本当に呼んでもらえとは思っていなかったのだ。

「もう一回呼んでください」

 ほんの少しだけ間があった。しかしすぐにわずかに震える唇を開く。

「なに? 音流」

 音流は感極まった様子で、陸の胸に額を擦りつけた。

「この名前はじいじがつけてくれたんですよ。産声が川のせせらぎのようにキレイだったからって……。音色が川のように流れるという意味で、音流とつけたそうです。本当に孫バカですよね」
「本当に好きなんだね。じいじのこと」
「はい、好きです。好きでした」

 陸は自分のおじいちゃんの顔を思い出した。音流の切ない笑顔に重なって見えた。

「でも、じいじは死んじゃいました。ウチの目の前で、恨み言を遺して……」

 音頭を撫でていた陸の手を、音流は包むように握りしめた。

 陸は手の冷たさに悪寒を感じながらも、強く握り返した。

「聞いてくれますか?」

 陸は音流を強く抱き寄せた。少しでも近くで声を聞けるように。

 音流は安らかに目を閉じて、ポツリポツリと語り始めた。

 じいじが死んだ、その日の話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...