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1章 コスで生活

2話 子供たち

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「さて、ユニークスキルに入るわけだけど・・・取り敢えず、不眠不休は何となく分かるよ、木のしたで寝た時、変な感じだったもん、きっと寝ても寝なくてもどちらでも良いんだ、感覚で疲れたと思い込んでたのかもしれない」


こっちに来る前、全力で走った疲れが残っていたのかもしれません、だから感覚がごちゃごちゃになったんだ、お姫様コスは化粧が落ちて不完全になってるし、コスのせいではないと思います、それ以外考えられないという訳です。
試しにドレスを脱いで、下着のままで腕立てを始めてみます、今までは1回も出来なかったんだよ、でも今はいくらでも出来る感じで疲れない、息も切れませんでした。


「やっぱりだ、それに永遠の16歳って事は・・・僕って不老なんじゃないかな」


死なないとは思えません、だけどちょっとゾクっとしました、でもそれならここを出ても生きていけそうです、お腹もあまり空いた感じはしません。
食べたい衝動はあるけど、身体は動くし食事を取らなくても良いのかもです。
最後は不思議のダンジョンです、これはきっとダンジョンに入れると思うんですよね。


「ダンジョンと言えば、異世界でも定番だよね、それに入れればお金には困らない、とても素晴らしい物、シスターおばあさんにお礼が出来るかもだよ・・・っと思うんだけど、どうやるんだろう?」


スキルと同じ様にまずは唱えてみます、なんと目の前に大きな門が床から出現しました。
2mの門の間は、七色の渦がグルグル回っています。
渦を通ればダンジョンに入れるんだと、僕は門を消します、さすがに装備なしで下着のままでは危ないですよね。


「ダンジョンは出せた・・・お酒ダンジョンって事は、お酒に関係したモンスターが出るのかな?それともお酒が落ちてるだけとか?」


どんな仕様なのかちょっと楽しみです、そう思いながら、ベッドに置いた服を掴むと、窓の外に動くモノが見え視線を向けます、僕を助けてくれたシスターのおばあさんが見えます、腕にカゴをぶら下げ庭を歩いていました。
フラフラと辛そうに歩いてるのはカゴが重いからかもと、僕はお手伝いをしなくちゃっと考えました。
ドレスをささっと着て部屋を出ます、道はさっきの逆です、小部屋の扉が並ぶ廊下を通り、礼拝堂に出て教会の入り口を開けようとノブに手を掛けます、丁度シスターが開けるタイミングとかぶり、おばあさんを驚かせてしまいました。


「ご、ごめんなさい、僕も手伝いますシスター」

「あらあらありがとね、そう言えば名前を伝えてなかったわ、私はササピーと言うのよ」


やっと名前が聞けたと、僕は笑顔になってカゴを受け取ります、カゴの中にはパンとトマトが入っていました、朝食の買い物をしてきたんだと納得です。
朝市とか僕も行ってみたいです、異世界の市場とか楽しそうだよね。


「それでササピーさん、ちょっと言っておかないといけない事があるんです、聞いて貰えますか」


男性である事をここで明かしました、でもササピーさんはそうなの?っと、なんだか反応が薄いです、そしてどちらでも良いわよっと返されてしまったんだ。
小部屋が並ぶ廊下の一番手前を右に曲がり、扉の無い部屋に入ります、そこは食堂だったけど、長テーブルとイスがあるだけの物が全然ない寂しい空間でした。
追い出されなくて良かったけど、反応が無いとそれはそれで困ります、僕の事を他の人がどう思うのか分からないんです。


「でも、あれだけ反応が薄いと、何だか僕が悩んでたのがバカみたいだ・・・でもなぁ、そう言うわけにはいかないと思うなぁ」


食堂の奥は台所になっていて、僕はササピーさんの後に続きます、異世界でも男性が女性の格好をするのは変なはずなんです、きっとササピーさんが特別なだけです、ここにいる子供たちだって、知ったらどんな目をしてくるか分からないですよ。
ササピーさん以外には言わないようにしようと、僕は心に決め台所に立ちます、でも台所はボロボロで使えるのは、レンガ造りの窯と火を使うかまどが2つだけです。
それ以外は破損が酷いと鑑定で分かり、レンガの釜も何とか使える程度だったんだ、ササピーさんはフライパンを持ち、トマトを温めながらつぶしています。
僕は何をしたらいいのか分からず、ワタワタしちゃったよ。


「エリナは鍋に水を入れておくれ、重い物はワタシ持てないのよ、歳っていやね」

「はいササピーさん」


ササピーさんが指を差した先には調理台があります、そこには包丁やまな板が無造作に置いてあるんです、その向かい側には大中小の鍋が裏返しで並べられてます、洗い終わったらここに置くのが決まってるんでしょう。
大鍋を持ち水道で水を入れようとして、僕はちょっと嬉しくなります、鑑定を使って直ぐに分かったんですけど、水道は蛇口のハンドルに魔石【極小】が付いていて、それで水を出してるみたいです。


「魔石で水を出すなんてさすが異世界だね、でもそろそろ使えなくなりそうかも」


鑑定の詳細で魔力の残量が表示されていました、魔石の魔力が少量と記載されていたんです、ササピーさんに報告しようと鍋を持って近づくと、フライパンのトマトを僕の鍋にボトボトっと入れました『それだけじゃ味が薄いよ』っと思ったんですけど、これは食料が無いって事なんだと理解し、暗い気持ちになったんだ。


「そのまま鍋をかまどで温めてちょうだいね、ワタシはパンを切るからね」

「は、はい」


フランスパンの様に長いパンを2つ小さく切り17個に分けていました、僕の見ているトマトのスープも、塩を少し加えてお終いです。
これでは子供たちがお腹を空かせてしまう、そう思いました。
底の浅いお皿にトマトスープを注ぎ、隣の食堂まで持って行くと、2人の子供が座っていました、他の子はまだみたいです。


「あなた誰?」


率直なご意見だと、下から上までを見てくる子に僕は名前を答えたよ、もちろんコスネームでね、子供たちも綺麗な服を着た女性だと思ってくれたみたいです、子供2人も自己紹介をしてくれてお話をしたんだ。
ふたりとも女の子で、元気な子はサーヤと言います、赤毛を二つに分けている可愛い子です、もう一人は短いポニテの子です、ちょっと無口でシャイな様で言葉が単調でした。
ミーオと小さく名乗る仕草は、僕と似てるかもしれない、そんな事を親近感を抱きながら思ったよ、どちらも11歳で最年長だそうです。


「あの子はヤーサ、あっちはオベミにローイ」

「3人とも女の子だよ、男の子はベリヌとサンダとジャックでね、赤ちゃんを抱いてるアルミクとドミノンがアタシたちと同い年なんだ、赤ちゃんはエーナとシーヌって言って女の子ね」


僕の服を気にしながら、入って来る子供たちの名前を教えてくれました、最後にササピーさんが女の子3人を連れてきました、ササピーさんが抱っこしてる子はアーシュ、ササピーさんの手を握ってる子はジミーで、その子の服を掴んで後ろを歩いてる子がディディーだそうです。
みんな8歳以下で席に座ってソワソワしてます、ササピーさんはお祈りを始め、僕たちは食べたけど、味は予想通り最悪です。


「でも・・・みんなはしっかりと食べてる、それだけお腹が空いてるんだね」


すごい勢いで食べてあっという間になくなっています、僕はそれに倣って一気にスープを飲み、一握りのパンを口に入れます、みんな笑顔だけど何処となく疲れてます。
こんなんじゃ足りない、それは分かります、何か出来ないかと子供たちの顔を見て思ったよ。


「じゃあみんな、お片づけをしましょうね」


ササピーさんの声を聞き、みんなが食器を持って台所に向かいます、僕もサーヤたちと一緒に運び、洗うのを手伝ったよ、年長者の4人が担当でみんな慣れたモノです。


「そのお洋服ステキね、エリナさんは何処から来たの?」

「おいっサーヤ!余計な事聞くなよ、言えない事に決まってんだろ」


アルミクが気をきかせてくれます、僕はそこである設定が瞬時に頭に浮かび話したんだ。
これはコスプレスキルのおかげかもです、思い付いた内容が今着てる元ネタだからですね、僕の好きな漫画のお姫様衣装だから、当然と言えなくもないです。
このお姫様は、愛する男性に会う為に城を抜け出しいつも盗賊に掴まるんです、それを知った王子様はお姫様を救い出してくれる。
城に戻っても、お姫様は何度も繰り返してしまう、そんなおてんばお姫様のお話です。
王子様はそのお姫様を愛しているのに、お姫様はそれに気づかず他の男性に会いに行く、王子様はお城から抜け出すお姫様を止めないんだ、救出する時が唯一会える時だからね。
子供たちにはそのまま話さないで、ある場所から逃げて来たと短縮します、ササピーさんに倒れてる所を助けてもらったとだけ伝えたんだ。
ここで暮らす事になったからよろしくねと笑顔を見せます、だけど短縮し過ぎたのか、みんなが頭を抱えてしまい困った感じです。
僕は、助けてもらったからここで暮らして恩返しをしたいと言い直します、みんなはやっとわかったみたいで頷き合ってました、僕はホッと一息です。


「じゃあエリナ姉だね」

「うん、エリナ姉」


ここで一緒に暮らすと分かり、サーヤとミーオが僕の呼び名を決めてくれました、アルミクもドミノンも賛成し、僕の呼び名は決まったみたいです。
それからはさん付けは無くなり、気楽な喋り方になったんだよ。


「ササピーさんは子供たちと遊んでるんだね?」

「そうさ、俺たちはこれが終わったらばっちゃんと交代するんだ、小さい奴らばかりだからな」


アルミクに僕も手伝うと言ったら喜んでくれました、昼に小さな子たちはお昼寝をするので、それまで一緒に遊ぶのが子供たちのお世話です。
言われるがままに、おままごとやかくれんぼを楽しみました、すごく久しぶりにやりましたね。
そしてお昼からは年長者の4人はお勉強タイムです、場所を礼拝堂に移って、机に石板を置きます。
そう言えば、僕って文字や言葉が分かるんだよね、今更ながら不思議に思い、ササピーさんの授業聞きました、サーヤたちは石板を見て頭を抱えたりしてます。


「文字だけなのに、やっぱり難しいのかな?」


僕から見ると、文字が日本語に略されます、でも書く文字はこっちの世界の文字なんだ、スキルには無いから仕様なのかもしれません。
文字のお勉強を済ませると、次は剣術です、みんなで素振りをして汗を流します。


「とうっ!たぁ!」

「こらアルミク!あぶないでしょ、まじめにやりなさい」


みんな横一列で素振りをしてたんだけど、アルミクが縦振りを止め、横に振ったらサーヤの木剣に当たりました、怒ったサーヤがすかさずアルミクを上段から攻撃したよ、アルミクは紙一重で躱し、サーヤの脇腹を狙って剣を振ったんだ、でもサーヤはそれを読んでいました、剣を身体の横に縦に構えアルミクの剣を防いだんだ、僕はそれを見て素直にすごいと思いましたね。
この子たち、僕よりも強い!?そう思って冷汗が出ます。


「オイラなら、サーヤの初撃は受け流す」

「うん、ミーオもそうする、ふたりともまだ動きが大きい」

「え!?」


大人しいふたりのそんな会話を聞き、僕は当然驚きましたよ、そしてふたりの方が強いのかもしれないと冷汗が流れました。
僕もダンジョンに入るんだから、あれくらいは出来ないといけない、そう思って頑張って上段からの振り下ろしだけの素振りをしました。
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