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1章 コスで生活

1話 飛び込んだ先は異世界

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「はぁ~今回も楽しかった~」


僕はエリナ、これはコスプレをしてる時の名前で、本名は遠藤竜(えんどうりゅう)です、分かると思いますが男です。
カッコイイ名前だけど、僕の容姿は小さくて声も高いんだ、だから学生時代よく虐められてた。
それのせいで男性の格好をしてる時は、ものすご~く人見知りでコミュ症です、声が全然出なくて笑われてました。
勇気を出して喋っても、声を聞いて誰もが笑うんだ、だから人とは接触しない仕事に就き、自宅で出来る事をしています。


「今度はどのキャラになろうかな~」


そんな僕にも楽しみがあるんだ、それは好きなキャラの格好をしてイベントに出ることです、好きなキャラになりきれば、人見知りもコミュ症もなくなります。
黒い長髪を撫で、帰り道を歩きながら次のコスを考えます、そこに会場でも気になった人が横の道から現れ、僕はびっくりして咄嗟に隠れたんだ、それは高校時代の同級生でした。
今の格好はお姫様コスだから、どう見ても僕は女性です、髪型も昔とは違い長いから気付かないかもです。
段々近づいて来てる同級生に、僕は逃げを選択しました、後ろで足音がする気がします、でも相手が追いかけてなくても走ります、走って走って走り切りました。


「はぁっはぁっはぁっ・・・ふぅ、ここまでくれば」


息を整え気付くと、そこは木で出来た橋の上でした、こんな橋あったかな?っと手摺りに手を置き夜空を見上げます、すごく綺麗で見とれてしまったよ。
しばらくして、同級生は追いかけてこなかったと、来た道を戻ったんだ、でも橋の先には見た事の無い建物ばかりが建っています。


「レンガ?日本でレンガ造りなんて・・・それに明かりが街灯以外ないんだけど、どうなってるの?」


星空が綺麗なはずです、周りの明かりが少なかったんですよ、街灯も僕の知ってる日本のモノではなく、何処となくシックな造りで道もコンクリートじゃありません、まるで昔の映画に迷い込んだみたいな感覚になります。
それでも街を歩き、何処なのかと見回します、人は誰もいません。


「ど、どうしよう誰もいないよ、それに・・・あそこに見えるのってお城だよね」


噴水のある広い広場に出ると、正面の高い丘の上に大きなお城が見えました、石造りでほんとに映画の様です、僕はどうしようと慌てます。
そうこうしていると、後ろから【ガサガサ】っと物音が聞こえました、雰囲気もあって背筋がゾクッとします、物音のヌシに助けを求めるよりも怖さが押し寄せ、その場から逃げました、ホラー映画だと後ろを確かめますけど、僕は無理!
夜に歩いてる人は良い人じゃありません、必ず悪い方で襲われます、だから振り返らず全力で逃げます。


「ま、また走るなんて、今日は最悪だよ」


さっきも全速力で走ったので、もうヘトヘトです、息を切らせもう走れないと止まった場所は、庭の広い教会でした。
映画でこんな場面は良くあります、必ず襲われる場所ですよね。
着いた場所がここって雰囲気ありすぎっと、かなり冷汗が流れます、だけどもう疲れて走れません、木の下で座り休むことにしました。


「もし変なのが出て来ても、ここからなら見渡せる、それに入り口にも走れるから、簡単に逃げられるよね」


フラグの様な言葉を口にし、木を背にして座り、正面の教会をジッと見ます、明かりは見えないし何も起こらない。
フラグは起きなかったと、ホッとして疲れも出て来ました、段々と眠くなってきてウトウトし始めたんだ、そして気付いたら寝ていました。


「あなた、ちょっとあなた起きなさい」

「う~ん、あと5分」


肩に衝撃を受け、お年寄りの声がしました、僕はまだ眠いと拒否します、再度肩を【トントン】とされて目をあけると、シスター服のおばあさんが立っていたんです。
やっと起きたと、おばあさんは笑顔を見せてくれます、その笑顔を見て、僕は少し安心したんです、ゾンビとか幽霊には見えなかったんですよ。


「あなた、こんな所で寝てると風邪をひくわよ、おうちにお帰りなさい」

「すみません、僕ちょっと事情があって家に帰れないんです、ここはどこなのでしょうか?」


僕の変な質問に、おばあさんは頬に手を当てて考えています、敷地内に突然人が寝てれば警戒しますよね、それに何処なの?とか聞いて来たら、それこそ警察を呼ばれます。
おばあさんは何か思いついたのか、また笑顔を見せてくれて、教会に招いてくれたんです、中はボロボロでいかにも出そうです。
僕、もしかしておばあさんに食べられちゃう?っと、また怖くなり、ちょっと震えてしまいました。


「あなた、お名前は?」


振り返るおばあさんの顔を見て、恐怖の感覚は吹き飛びます、それだけ爽やかな笑顔でした。


「え?えっと・・・エリナ、です」


僕は咄嗟にコスネームを言います、今の格好はお姫様が着る様なピンクのドレスです、メイクは走ったので落ちてますけど、女性にしか見えない格好なので仕方ないよね。
おばあさんも不思議に思わず、すらすらと紙に何かを記入してます、そして教会の壇上に掲げると、紙が指輪に変わりました、僕はビックリですよ。
おばあさんは手品が出来るの?もしかして僕は、あそこにいるのかも?っと思っちゃったんだ。


「はい、これであなたはここの住人です、ネームリングは無くさないよう、しっかりと指に付けなさいね」

「え!?・・・はい」


どういうことなの?っと思う前に、どんどんとおばあさんが話を進めます、僕を奥の部屋に案内し、そこに住んでも良いと言うんです、僕は色々急すぎて追いついてません。


「食事は朝夜共に7時だから遅れないように・・・でもごめんなさいね、食事はあまり用意できないから、期待はしないのよ、国からの援助金が来なくなってしまってねぇ、でも安心して、神様が助けてくださるわ」

「は、はぁ~分かりました」


お風呂は無く、トイレは共用だそうです、おばあさん以外に15人の子供がここで暮らしているそうですよ、そしてどうやら僕は孤児だと思われたようです、良く頑張ったわねもう安心よと言われました。
勘違いですよっと僕が言う前に、おばあさんは自己紹介もせず、後2時間で朝食だと告げて部屋を出て行きました、僕はベッドに座り考え込みます。


「魔法みたいなリングにお城・・・これって異世界に来たみたいだよね、というかそれしか考えられないかも」


もうそれしか考えられません、マンガやラノベでもあります、でも僕の場合ただ走ってただけなんです、小道は通ったけどそれだけです、それで異世界に飛ばされるなんて無いですよね。
もしかして途中で車に?とか思い返します、でも事故った覚えはまったく無い、だけどここは紛れもなく異世界の孤児院です、そこに御厄介になったのは確実です。


「見ず知らずの僕に身分証もくれたし、良い人だよね」


指輪が身分証って普通はないです、そう思いながらも指輪を指に嵌めました、すると異世界定番のステータス欄が指の上にデカデカと現れ、僕の異世界転移が確定しました。


《ステータス》(コスプレ中)
【名前】遠藤竜(エリナ)
【年齢】16歳
【性別】男(女)
【種族】ヒューマン
【職業】コスプレイヤー(お姫様)
【レベル】1(5)
【HP】100(500)【MP】50(250)
【力】100(500)【防御】100(500)
【素早さ】150(750)【魔法抵抗】50(250)
【魔法】
なし
【スキル】
(剣術レベル1)
(盾レベル1)
収納レベルMax
(鑑定レベル2)
裁縫レベル5
調理レベル2
(礼儀作法レベル1)
(社交レベル1)
【ユニークスキル】
コスプレ
永遠の16歳
不眠不休
不思議のダンジョンレベル1
《酒ダンジョン》
【称号】
破滅のランナー
[限界まで走った者に送られる称号]
世界を越えたコスプレイヤー
[異世界に入ったコスプレイヤーに送られる称号]


「なにこれ~数値低くない?異議あり~」


ツッコミどころが満載過ぎて、僕は現実から逃げたくなり、ちょっとだけ投げやりです。
まず年齢がおかしいですよね、女性なら喜ぶかもです。
僕は高校を卒業して、10年間一人暮らしをしています、つまりほんとの年齢は28なんです、それなのに16歳と記載されてます、そして名前は遠藤竜です、エリナの名前がカッコで括られ、コスプレ中って事になってる事からも、年齢はそこに属してないです。
コスプレ中と言えば職業も変です、お姫様って何ですか?僕どこかの王族になった覚えはありませんよ、服がお姫様コスだからですか?ユニークスキルのコスプレが関係してるって事ですか?意味が分かりませんよ。


「それに、スキルがカッコに入ってるのと、そうでないのがある、それに数値もだよ、これってどういうことなのかな?」


考えられるのは、お姫様コス限定の数値とスキルと言う事です、ユニークスキルはカッコに入ってないので、僕個人が保有してるんでしょうか?
着ているコスで能力が変わるんじゃないのか?そう考えを廻らせます。


「別で考えるのが当たりかな・・・称号に限界まで走ったってのがあるのは、ちょっと問題だよ・・・僕、走り過ぎて死んだんじゃないかな?だから異世界に来てしまったとか?」


あまり深く考えたくない案件です、深入りせず【今生きてるし、これで解決!】っと思う事にしました。
それに身分証が手に入り、女性として作れたのは良かったです、僕は男性として生活ができません、コスプレをしていても男性の格好では、オドオドしてしまって駄目なんです、それは異世界でも変わらない、考えるだけで震えてきますよ。


「僕が男だって事、シスターのおばあさんにだけは言っておかないと・・・でも追い出されたら困るから、もう少し自分の置かれた状況を整理したい」


という事で、僕はまずスキルを確認することにしたんだ、裁縫とかは、僕がコス製作で使ってたので、覚えているのは分かります、問題は収納と鑑定です。


「唱えれば使えるかな?【収納】」


試しに【収納】と唱えると、右手の前に丸い円が現れ空間が歪んでいました、手を入れると中の様子が分かったんです。


「中には何も入ってない、試しに携帯と財布を入れてみよ」


歪んだ空間に、今の所持物である携帯と財布を近づけます、僕の手から離れ吸い込まれました、そして頭の中には空間の情報が入って来たんです、同じ要領で【鑑定】を使って見ます、部屋の中の物が分かるようになりました。


「まぁ・・・ベッドもタンスも見れば分かるけどね」


ベッドはシーツの下が藁でした、敷き詰められていると記載されたんだよ、フカフカとはいかない物で、改善したいなと思います。
タンスも【ボロボロのタンス】と表示され、壊れてる部分も分かります、ボロなんだねっと、ちょっとここの生活が心配です。
スキルは大体分かった、僕は前向きに次に進みます。
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