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1章 コスで生活

4話 僕の事情

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「え!?朝市じゃ売る事は出来ないんですか」


カゴの食材が昨日と同じだ、そうショックを受けて昨日と同じ朝食を作ってる時、ササピーさんに朝の市場の話を振りました、今度から買い物をして孤児院の為に頑張りたいって宣言したんだ、だけど市場では物々交換はする人はいるけど、売るのは基本露店を許可された人達だけらしいです。


「そうだよ、ワタシたちは商業ギルドにも所属してない、エリナは持ってるのかい?」


持ってないと即答です、でも物々交換が出来るならとダンジョンで手に入れた木の食器を出します、ササピーさんがそれを見て、やれやれって顔しました。
状態が良くても食器では交換してもらえないと僕はショックです、普通のお店に行ってお金に変えないとダメなんだそうです。
朝市について行かなくて良かった、正直ホッとした瞬間です、そして今日の予定は決まりました、昨日と代り映えのしない朝食を食べ、僕は子供たちから情報を集めます。


「魔石は冒険者ギルドで売れるんだねアルミク」

「そうだぜエリナ姉、木の食器は食器屋かな?」


朝食の食器洗いをしてる時、4人にドロップ品を何処で売ればいいか聞いたんだ、もちろんダンジョンの事は伏せています、低い収納スキルを持ってると嘘をつき、お城から持ってきたことにしたんだ、予想通りの答えばかりが返って来て安心しました。
マンガ知識万歳です。


「ありがとうアルミク」


手を拭いてからアルミクの頭を撫でてお礼を言いました、アルミクは嬉しそうにして、なんでも聞けよって言ってくれたんだ、それからここの事も聞きます、ここはゴローズという国のチュチュール王都です、ヒューマンたちが暮らし、物価が高くて大変だとアルミクは話てくれました。
値段が高いと言う事なので値段を聞くと確かに高いと分からないままで相槌をうちます、おかげでお金に何を使っているのか、単位や価値がどれくらいかが分かりましたよ。
お金の単価はメニーと呼び、銅貨が一番低いお金です、そこから大銅貨・銀貨・金貨と上がって行くそうです、100枚で次の硬貨の価値になり、アルミクたちは大銅貨までしか見た事がないと言っています。


「へぇ~・・・じゃあ、今日食べたパンっていくらなのかな?」


例えとして身近な物を選び聞いたんだけど、どうやら聞いちゃいけない質問だったようです、アルミクたちの顔色が変わりとても苦しそうです。
どうしてなの?っと思っていると、サーヤが耳打ちしてくれました、僕はそれを聞いてササピーさんを見ます、笑顔で食器を拭いてました、何も苦労していないと思わせる笑顔なんです。
あのパンは、ササピーさんが住民の家を周り、頭を下げて分けてもらった物だったんだ、市場に行って買った物じゃなかったんだよ、僕はさっきのやり取りを恥ずかしいと思ったけど、ササピーさんはそんなの比べ物にならない辛い事をしていたんだ。
僕は情けないよ!そんな事も知らずにいた事がすっごく情けない、サーヤたちもそれを知ってるんだ、僕はここで初めてみんなと気持ちが一緒になります、だから食事が少なくても何も言わないんだって分かったんです、それだけ孤児院の運営は大変な状態なんだ。


「それなのに、僕なんかをここに住まわせてくれたんだね、自分たちが苦しくなるのが分かってるのにさ」

「シスターは、辛い人を救いたいの」


ミーオの小さく短い言葉に、僕は沢山の思いを感じました、自分たちも辛い、でも助けを求めてる人がいれば救いたい、そんな気持ちが詰まっている様に感じたんだ。
僕もそんな風になりたい、そう思って絶対に助けると決意をしたんだよ。


「分かったよミーオ、僕も出来るだけ協力する、今日品物が売れたら沢山食べ物を買って来るよ」


ササピーさんに僕は救われました、今度は僕が助ける番です、僕の事情を聞いても無関心だったのは、理由関係なく救うのがササピーさんの心情だったからなんだ、辛い思いをしてる人ならどんな事情があっても気にしないんです。
僕もその気持ちを支えていきたい、そう決めて僕は孤児院を出ました、シスター服はそのままだけど、今までのシスターさんではありません、髪を三つ編みに縛り帽子は小さいのをかぶったんだ、これは交渉に特化したシスターさんなんだよ。


《ステータス》(コスプレ中)
【名前】遠藤竜(エリナ)
【年齢】16歳
【性別】男(女)
【種族】ヒューマン
【職業】コスプレイヤー(やり手シスター)
【レベル】1(20)
【HP】100(2万)【MP】50(0)
【力】100(2万)【防御】100(3万)
【素早さ】150(4万)【魔法抵抗】50(0)
【魔法】
なし
【スキル】
(短剣術レベル1)
(格闘レベル2)
収納レベルMax
(鑑定レベル4)
(交渉術レベル4)
裁縫レベル5
調理レベル2
(礼儀作法レベル3)
【ユニークスキル】
コスプレ
永遠の16歳
不眠不休
不思議のダンジョンレベル1
《酒ダンジョン》
【称号】
破滅のランナー
世界を越えたコスプレイヤー
お酒ダンジョン制覇者
[お酒ダンジョンを制覇した者に送られる称号]


「やっぱり、コスに近ければステータスも違うね」


ダンジョンを出てもレベルは上がっていませんでした、つまり僕のレベルはコス次第なんです。
サングラスとブーツを付ければ完璧なやり手シスターさんになります、今は無いけど近いコスになってるのでスキルもステータスも格段に上がっているのが分かります、装備する小物が少なければいけるかもと試してみて正解です。
これで行けると気持ちを切り替え王都を歩きます、まだまだ未完成で彼女の様に【腹黒】っとまではいかないかもです、だけど落ち着いて交渉できる様な気がしています、だって見て来る人達の視線が怖くないんだよ。
イベントでもないのに、僕が視線を怖がらないなんて今までありませんでした、スキルに勇気を貰っているんだと、まずは魔石を売りに行きます。


「うわ~ラノベ通りだ~」


アルミクたちに聞いた中央広場の噴水に来て、僕はビックリです、レンガ造りの建物が並び、どれも3階までなんだ、高い建物は遠くに見えるお城だけです。
僕が最初にいた橋はここから西にあります、そっちは冒険者たちが集まる区画でちょっと危険みたいだよ、北は貴族区画、南が平民区で東が商業区になります、孤児院は商業区と平民区の間に位置してるんです。
冒険者ギルドは広場の西側にあり、僕は早速入りました、革や金属の鎧を着た人たちが沢山います、正面奥に木の机が並びそこは受付です、女性が4人いるので受付は4つですね、右側には大きな掲示板と階段があり、左にモンスターを査定するテーブルがあります、2階の上がる階段は掲示板の奥に位置していて、階段の下にも扉の無い道があります、そこは訓練場と書かれた看板が立っていました。


「訓練場とかもあるんだね、それにしても僕の格好が場違いだからか、すごく注目されてるよ」


シスター服なので当然です、でも男の姿では来れませんし、お姫様だと尾行されて攫われるかもしれないんだ、サーヤに注意されてしまい、お姫様コスでは外は出歩けません。
普通の僕なら視線に怖がっていたかもしれない、それ位怖い視線を受けます、でも腹黒シスターさんのおかげで今は全然平気です、4つある受付に何事もない感じで向かい、女性の前で笑顔を見せると、受付の女性もニッコリと笑顔を見せてくれました。


「何か御用ですかシスターさん」

「シスターのエリナと申します、孤児院に魔石が寄付されたので売りに来ましたの、買取はここでよろしかったですかしら?」


モンスターを査定してる左側かもとは思いました、でも大きな包丁を持ってる人達がいて違うのは分かります、優しそうな受付のお姉さんが「ここではないですよ」と答えてくれます。
お姉さんはニッコリと指を2階に向け売店がある事を教えてくれました、僕は頭を下げてお礼を言って早速階段をあがりましたよ。


「2階は図書館になってるんだね」


冒険者さんたちの目線が痛かった1階とは違い、2階には人がいません、ほとんどの空間を本が占領していて誰も読んでいませんでした、階段を上がった右側に小さくショップと書かれたお店があるだけですね。


「あの~魔石を買ってほしいのですけど」

「は~い」


売店の職員さんはテーブルに寝ていました、女性が起き上がり返事をしたけどまたテーブルに倒れ込みます、やる気のない返事ですねと心の中で毒を吐きたくなったよ、何とか抑えて魔石をテーブルに置きます、店員は寝ながら魔石を見始めたので、ちゃんと仕事してよと心の中で突っ込みます、お客さんが来なくて暇なのは分かるけどね。


「ふむふむ・・・小ですから1万メニーですね、銀貨1枚か大銅貨100枚、どっちが良いですか?」

「え!?」


僕は聞き返してしまったよ、まさか魔石【小】程度で銀貨1枚もするとは思いません、ここに来るまでにパン屋を覗いたんだけど、僕たちが朝食べたパンは、1つ銅貨5枚、つまり親指くらいの魔石で2000個買えるんですよ。


「何を驚いてるんですか?魔石【小】はそれなりの強さのモンスターから取れます、砕けば水道など10ヵ所で使えるでしょ?それ位当然ですよ・・・それで、どちらにするんですか?」

「だだ、大銅貨でお願いしましゅ」


さすがのシスターさんでも焦ってしまい噛んでしまいました、でも職員さんは気にせずにお金を袋に入れてくれたんです、僕はお礼を言って離れます。
階段手前まで来ると店員さんに止められました、僕はビクってして振り返りましたよ。


「な、なんでしょうか?」

「シスターさんだから盗みを働いたとは思いません、でも次売りに来る時は、是非とも冒険者ギルドのカードを作ってからにしてくださいね、1割増しになります」

「は、はい・・・考えておきます」


僕に出来るのはその返事だけでした、動揺し過ぎるとスキルもそれほど効果がないのかもです、高価な物を売ったので確実に疑われてる、そう思いました、魔石を手に入れるにはモンスターと戦わないといけません、シスターが戦えるわけないんだから疑って当然です。
冒険者ギルドを出て、今度は向かいの建物の商業ギルドです、そこでビールとワインを売る予定です。


「うわっ!冒険者ギルドよりも広々だ」


天井がとても高くて広いです、2階もあるかもだけど上がる階段は見当たりません、僕の中でこれに似てる建物は銀行です、受付に椅子があるのは違うけど、低いテーブルの受付が10ヵ所もあるのはまさに銀行です、4ヵ所では座って対面して話してる人もいました、冒険者ギルドとは違い椅子に座ってのんびり交渉です。
今度は失敗しないように落ち着いて行きます、深呼吸をして空いてる受付に突撃しました。


「あの~」

「商業ギルドへようこそシスター様、どのような御用ですか?」


椅子に座り僕は考えます、冒険者ギルドで疑われたのは、持っている理由を話さなかったからです、言い訳は直ぐに頭に浮かびました、これもスキルのおかげです、もっとなり切れれば腹黒まで行けそうだよ。


「僕の知り合いが教会に寄付をしてくれたのですが、お金ではなくお酒だったんです、シスターの僕たちは飲めません、だからこのままでは腐らせてしまうとここに来たんです」


困ったわっと、頬に手を当て仕草で語ります、せっかく寄付してくれたのに神様も喜ばない、そう伝えたんだ、だから商業ギルドで買い取って欲しいと口にします、これなら理由としては十分です。
職員さんもなるほどっと頷いてくれました、そして書類の紙を出してきたんです、僕は売り買いの契約書かな?と思って見たんですけど、それはギルドの登録書でしたよ。


「これに必要事項をご記入ください、そうしましたらカードをお作り出来ます、その後で商品の買い取りを致しましょう」

「そうなんですね・・・ちなみに、記入にミスがあった場合はどうなります?」


僕は書類の書けない部分が多いです、名前もそうですけど性別も違います、職員さんは間違っていた場合、承認水晶が受け付けず書類が戻って来ると話してくれました、そして間違ってる部分を直せばカードが手に入ると付け足したんです。
僕の場合コスプレ中です、だからどちらが正解か分からないんだ、どちらかがしっかりと承認されると思うけど、正直躊躇う案件です、しかも男性の方を登録する場合コスを止めなくちゃいけないかもです。
それは無理!絶対無理です、収納に入れて置けば腐らないので、僕はここで登録を諦めます。


「どうされました?」

「登録は事情がありまして出来ないんです、お酒は誰かに譲る事にしますわ、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」

「そうですか、それは残念です、またのご来店お待ちしていますよシスター様」


頭を下げて僕はギルドを出ました、少し汗が出ましたよ、コスプレ中の場合どうなります?とは聞けませんからね。
腹黒シスターさんになってて良かった、僕は本気で思います、直ぐに言い訳が思いつきましたからね、元キャラには感謝です、もっとうまく使える様にコスを完璧にしたいと思ったよ。
小道具を揃えるのも必要だけど、下着や化粧とかもしっかりとしなくちゃだね。


「それにしても、カードを作るのに水晶を通すなんて聞いてないよ、これじゃ冒険者ギルドもダメかも」


腹黒シスターさんの力でも、今の段階では諦めるしかないと言った感じで何も思い浮かびません、お酒を後回しにして、残った売り物の食器を適当なお店で売る事にしました。
食器屋さんはお皿とナイフとフォークの看板です、ナイフとフォークだけの看板は食事屋さんになります、アルミクたちに違いを教えてもらったんだよ、ちなみに壺の看板は装飾品のお店で宿屋はベッドです。
見つけた食器のお店の中に入ると、筋肉質のおじさんが正面に見えました、レジの椅子に座り腕を組んで、こっくりこっくり居眠りしています、起こすのが怖いよっと、素直な感想が頭を過ります、お店を見て回り早く起きてよと、無言で思念を飛ばしました。


「綺麗な食器が並んでる、あのおじさんが扱ってるとは思えないね」


木や焼き物、銀や金属と結構種類があります、汚れてもいないししっかりと管理されてるのが分かりました、人は見かけで判断してはいけないって事でしょう、でも見た目が怖いのは変わりません、それに一向に起きませんよ。
腹黒シスターさんの心の声では、音をワザと出そうっと提案がされてます、でも触らぬ神に祟りなしと言うのも浮かんでる、起きるのを待つ方が良いので慎重に音をたてる事にします。
深呼吸をして覚悟を決め食器を当てる音を出したんだよ、狙い通りおじさんが起きてくれたけど、僕を睨んできて怖いです、木の食器は買ってくれるでしょうか。
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