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3章 コスで反逆

51話 世間体では

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「じゃあ、みんな一緒に発音するよ」

「「「「「はいエリナ先生」」」」」


お祭りが終わった次の日から、僕は王都の子供たちから先生と呼ばれるようになりました、今孤児院は子供たちが集まる場所になりつつあります、最初は昼食前に門の前で見てた子供たちを食事に誘った事から始まったんだ。
その子たちはお祭りの飴目当てだったんだけど、せっかくだから勉強と稽古に参加してもらったんだ、それからその子たちの友達も集まりだしたんだよ、それがずっと続いてどんどん増えて行きました、7日が過ぎた今では、庭に簡単な教室を作り子供たちを全員入れるようにしてるんだ。
子供たちは全部で55人が朝食後に遊びに来てます、先生と呼ばれちょっとテレますけど、それは内緒です、王都の子供たちに無償で教育が出来る良い機会です、食事も作れて経験になるんだよ、街の人たちに会うとお礼を言われるようになったんだ。


「良い発音だよみんな、じゃあ次は石板に書いてみようか」


子供たちの良い返事を聞いて大きな黒板に文字を書きます、子供たちが掛けているか、ミーオと僕で見て回ります、ちょっと離れた衝立の先では、アルミクとドミノンが剣の稽古をつけ、一番奥の遊具が並ぶ遊び場では、小さな子たちをササピーさんとサーヤが見てくれてます。
何だか平和だよ、青空を見上げて呟きたくなりました、あれから貴族たちの動きはありません、エリーヌさんたちや皇帝陛下が動いてくれたおかげです、分身で手助けもしたけど頑張ってくれました。
今日もいい天気です、洗濯物を子供たちと回収し畳みながら夕食を何にするのは相談します、子供たちが来るようになって夕飯の支度を早めにするようになったんだ、出来上がったら僕は酒場にお仕事に行きます、子供たちは夕飯を食べてお家に帰るんだ。
今日はお肉たっぷりのビーフシチューにしよう、そう決定していると教室の扉を叩く音がしました、それはかなり激しく叩かれ、焦っているのが感じ取れます、子供たちも初めての事で驚き怖がってしまいました、僕は急いで扉を開けると、アルミクたち位の男の子が4歳か5歳位に見える子供を抱えて立っていました。


「どうしたのかな?」

「あ、あの・・・妹を助けてください!」


突然の事でびっくりです、ここは病院でもないし、回復魔法で怪我や病気を治す本物の教会でもありません、建物が教会だからきっと勘違いです。
でも男の子の必死さは伝わってきます、きっと事情があるんです、ササピーさんも様子を見に来てくれました、僕は妹さんのおでこに手を当て鑑定を掛けます。


「熱があるね、それも結構高い」

「そうなんだ、昨日はこんなじゃなかった、今日起きたらぼーっとしてて、それから食事も食べなれてない、どんどん熱が上がって来てさっき倒れたんだ、オレどうしたらいいか分からなくて」


鑑定では高熱病と出ました、どんどんと熱が上がり、治療をしないと死に至る病だと書かれています、治療法は解熱剤か状態異常回復魔法を使う事で普通にしてたら治らないそうです。


「ササピーさん、奥のベッドで寝かせます、料理の方はお任せしていいですか?」

「もちろんですよエリナ、助けてあげてください」


ササピーさんたちにこの後行う料理を任せ、僕と男の子は奥の部屋に向かったんだ、教室の奥にはボウボウドリの布団が敷かれたベッドが並んでいます、小さな子供たちのお昼寝用です、妹さんを清潔なベッドに寝かせ、男の子には名前を聞きます。


「サラ辛かったね、今助けてあげるからね【キュア】」


白い光が妹のサラを包みました、万能シスターさんは何でも出来るんだ、この教育施設もちゃちゃっと作ったんだ、1階建てなんだけど、敷地よりも中は広くなってる、圧縮空間も作れる完璧超人です、孤児院を直した時も活躍してくれたんだ。
光が収まり、もう大丈夫と兄のサンダを撫でながら伝えました、サラの顔色が良くなってるのを見て泣きそうです。


「姉ちゃんありがとう、ほんとにありがとう」


サンダは何でもするとか言い出します、別にいらないと答えてもダメみたいだよ、だから事情を聞くのを報酬にしたんだ、サンダはお金がないから教会には行けないと思ったそうです、そして病院は教会よりは安いけどそれでも高くて行けなかったと話しました、病院は物での支払いも可能だけど、急な事でそれどころじゃなく、サラがここの事を言っていたのを思い出し、無我夢中で来たそうです。


「親を頼る方法は無かったの?」

「父ちゃんと母ちゃんは畑に行っちまってるからいなかった、それにオレだって仕事からたまたま帰ったんだ、荷物運びの仕事が早めに終わって、今朝体調がおかしかったサラが気になってさ」


ほんとは昼から他の場所で荷物運びの仕事があるそうです、それをすっぽかしてここにいるから、親方に怒られると暗くなり始めました。
もう働いてるんだねっと年齢を聞きます、サラは5歳でサンダは10歳、未成人だから見習いとして仕事を始めたと話してくれました。


「じゃあ、いつもサラは一人で家にいるの?」

「そうだけど、そんなの他の奴もそうだよ、だからサラはここに遊びに来れるようになって喜んでた」


サラが楽しそうに話していたから印象に残り、ここに助けを求めに来たという訳だね、なんとなく事情を理解した僕は、今日はサラをここで預かる事にしました。
サンダもその方が良いと言いますが、表情は少し暗いです、サラが心配なのはすぐに分かったので、仕事が終わったら様子を見に来るよう提案します、サンダと食事を一緒に取ればサラも安心するだろうからね、でもサンダは頭を左右に振ります。
他の悩みだと思った僕は、仕事に遅刻している方が思い浮かびます、僕が親方に口利きすれば少しは考慮してくれます、でもサンダはどうやら報酬の事が気になってる様です。
報酬は情報として確かに貰ったと伝えると、そんなんじゃ足りないっとちょっと声を荒げ、自分たちの生活の苦しさを語ります。
親二人が朝から晩まで働いて、やっと生活が出来る暮らしを続けています、そして成人前に子供も働くようになっている、平民の生活の大変さが伝わって来て悲しくなります、だからここに来る子供たちは小さな子ばかりで親は来ないんだ、みんなお祭りでここを知り集まりだした、勝手に来てる子もいるけどちゃんと知ってる親もいます、しっかりとお話をして預かってるんだよ。


「だからオレに出来る事は少ないけど何とかする、親父に言って小遣いの前借りとかすれば少しは」

「サンダ、ここは孤児院だよ、人を助けるのにお金のやり取りはしてない、でも人手は欲しいからサンダが暇な時があればここに来てよ、子供たちの相手をしてくれればすごく助かる」


それで良いかな?っと笑顔で質問しました、サンダは手伝いと知り絶対来ると約束してくれました、これで仕事にも行けると走って部屋を退出したんだ。
手を振って見送ったけど、僕はみんなの生活を少しでも楽にさせたい、分身と少しずつ作っていたコスをここで使う事を振っていた手を握りしめ決めたんだ、サラの様な小さな子たちは病気1つで致命傷です。


「お金がないから治療が出来ない、出来ても借金で生活が苦しくなる・・・最悪だよね」


だから孤児院に子供たちが集まるんだ、新年祭が終わって冬が始まるこの時期が一番危険です、遠くの村ではいらないと判断された子供たちが捨てられるます、その子たちの救済は既に始まってるけど、王都は農業者が少なくて時間が掛かっていました。
少し足りませんけど、食料の減っていく冬を前に丁度良いです、早速子供たちにコスを託し今日はお家に返します。
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