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4章 コスで救済

66話 遠征

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宿でリュウ君から貰った装備を着こみ、俺はやっぱりこいつはすごいと装備を触った、鎧としての重さを全然感じないんだ、とても軽く動きやすい、まるで俺が動く方向を知ってるみたいだ。
部屋の扉がノックされ、扉を開けるとファンシャがいた、その表情は装備以外で何か言いたそうに見える、俺は無言で頷き話しを聞く事にした。


「リュウ君は何かを隠してるわ、このままで良いのかしらイーザス」

「あの実力もそうだが、何かあるんだろう・・・今回の遠征で聞ければ良いんだが、警戒はしておくさ」


ファンシャは頷いた、俺たちに装備を渡したんだ、実力は遥かに上だろう、だが訓練で強いのは分かっている、味方なら良いが敵なら問題だ、しかしその問題は無いと思っている、彼は姉思いの良い奴だからな。
山に着く前に話が出来る場を設けたいものだ、西門に移動中そんな事を思っていた、悪い奴ではないのは知っているんだが、目的の違いで変わるのが余の中だ。


「イーザスさん!」

「アースロ、お前はリュウ君をどう思ってる」


西門手前でアースロと合流した、挨拶もそこそこに俺は質問した、アースロはリュウ君の姉に好意を持っている、だからリュウ君と対立しても俺たち側には来てくれないかもしれない、だが情報は欲しいんだ。
アースロは良い奴だと答えた、暴力を好まず仲間を大切にしている、俺の知ってる情報しか出てこなかった、姉の話ばかりになってしまったので話を終わらせる。


「わ、分かったよアースロ、ありがとな」

「もう良いんすか?俺はもっと話したいんだけど」


いや遠慮するっと俺は即答した、これ以上は頭が痛くなる、西門にも着いたからな、リュウ君はスチールクラスのPTに参加してると言う話なので探した、集合してる冒険者は、みんなリュウ君の装備の様だったよ。
国の兵士は見えない、見回して直ぐに気付いた、どうやら兵士は違う場所から進軍するようだ、リュウ君ではないがこれは何か匂う、そう直感したよ。


「イーザスさんお待ちしてましたよ」

「リュウ君か、今日はまた違う装備なんだな」


訓練で使っているハカマと言う服ではない、魔法士の青いローブを纏っている、それも高位の魔法士が着るような力をすごく感じた、これは魔法士のメンバーが欲しがりそうだ。
後衛で戦うからとリュウ君は言ってきた、魔法も使えるのかと驚いたが心強い、冒険者はどうしても物理に傾く、魔法士が多い方が戦闘に有利なんだ。
俺の直感で不安を感じた事を話し、今日の夜に2人だけで話をしようと誘った、リュウ君は拒否しなかった、恐らくリュウ君も感じているんだ、何せ3日前に既に言っていたからな。


「リュウ君それにしてもだ、この装備はすっげぇな、ミスリルメイルは元々軽いがそれを差し引いてもすごい軽さだ、どうやって作ったんだよ」

「それは極秘です、でも僕は皆さんを守りたい、だから渡しました、頑張りましょうね」


その言葉と笑顔は、俺の不安を取り除く物だった、遠征の成功が近づいたと嬉しくなったよ。
1日目の遠征は何事もなく終わった、テントにリュウ君が入って来たが様子がおかしい、オドオドしていていつもの感じではない。


「どうしたリュウ君、緊張してるのか?」

「い、いえその・・・はい、緊張しています・・・こ、コスをしないで狭い空間に2人きりは、はは初めてで・・・ぶぶ、分身ではなく本体で来てますし・・・【ブツブツ】」


良く分からない事をブツブツ言っている、だが誠意を見せてくれたのは分かったんだ、座るように勧め茶を出した、リュウ君はコップを両手で持ち震えている。
これがあのリュウ君の本質なのか?俺を信じて無防備な状態で来てくれたのは分かる、しかし事情を聞いていいのか心配になるほど震えている。


「いい、イーザスさん・・・ぼ、僕が今日来たのはお礼を言う為です・・・ええ、遠征に参加してくれてありがとうございました」

「俺たちに指名が来ただけさ、お礼は不要だぞ?」

「そそ、それでも言わないといけないんです・・・ええ、エリーヌさんから聞きました・・・拒否しようと思えば出来たって、だから」


ありがとうっと、またお礼を言われた、そして孤児院の為にもなると嬉しそうだ、全ては姉の為だと言う事がその時再確認できたよ。
彼が無防備に俺の前に来たのは、それだけ俺を信用しての事だろう、その誠意に答えなくては男じゃない、必ず遠征を成功させると誓ったんだ。


「よよ、よろしくお願いします」

「こちらこそだぞリュウ君、頼りにしてるぜ」


握手を交わし、男同士の約束をした、ちょっと頼りないが戦闘での彼は違う、まるで伝説にある勇者であるかのように強いんだ、だが今の彼は普通よりも頼りない男に見えた。
戦いではしゃんとしろよと忠告したが、本人も分かってるようで頷くだけだった、それがダメなんだと背中を叩いてやった、ビクビクし過ぎだな。


「何が怖いのか知らないが、乗り越えろよリュウ君、じゃないと隙が生まれるぞ」

「そそ、装備を着けていれば平気です・・・そそ、それよりもイーザスさん・・・ここ、これを」


リュウ君が後ろ腰から取り出したのは短剣だ、受け取って鞘から取り出したんだが、刃先が無かった。
どういうことだ?言葉にならないくらい不思議に思いリュウ君を見た、どもって闘気を刃にする柄だと言ってきた、俺はこの場で闘気を込めて見た、白く光る刃が伸び俺はびっくりだ。


「そそ、それはレーザーブレードと言います・・・きき、切れ味抜群なので、きき気を付けて扱ってください」

「それは分かったけど、どうしてこんなものを俺に?」


いざという時の備えだとリュウ君はどもって言ってきた、刃先が無いので邪魔にはならない、最後の切り札という訳だ。
リュウ君は、俺と同じで嫌な気配を感じている、だから遠征のリーダーの俺に切り札を預けたんだ、任せろと剣を受け取りリュウ君はテントを出た、頭を下げていたがほんとに頼りない感じだ。


「入るわよイーザス」

「ファンシャか・・・リュウ君は味方だったよ、あいつは俺たちを絶対に裏切らない」


俺たちが裏切らない限り、その条件が付くがそれは確実だと思った、敵は貴族かもしれないとファンシャに話したよ。
やっぱりとすぐに納得されてしまった、いつも邪魔をするのはそいつらだからだ、最悪向こうで合流する兵士たちは敵だ。


「そうなると、モンスターがどんなのがいるかで難易度が上がるわね」

「そうだな・・・だがこっちだって精鋭だ、邪魔になる奴は入れてない」


ファンシャがそこは良かったと素直に答えた、ギルド側もそこは分かっていたのかもしれない、ここで国王陛下に抵抗する奴らをあぶりだす、そんな事を考えているのかもしれない。
めんどくさい物に巻き込まないで欲しい、だがまぁクエストを受けた以上は全力で行く、覚悟を決めファンシャを抱き寄せた。


「もう、まだ1日目よイーザス、今日は我慢しなさい」

「いてっ!?」


首に痛みを感じた俺はその場に倒れた、薄れゆく意識の中でファンシャが「リュウ君の奥の手すごいわ」とか言ってるのが聞こえた。
それはないだろリュウ君、意識を薄れていく中でそう呟いたよ、朝起きたら横にファンシャが寝ていた、そんな表情を見せられたら、俺は手を出せないとリュウ君を恨んだぞ。


「この遠征が終わったら、絶対お礼をしてもらうからな、それまで我慢する」


ファンシャとリュウ君が泣くほどの事を希望してやる、ファンシャの頬を引っ張り誓ったよ。
山に着くまでモンスターも出ず遠征は進んだ、しかしそこからが本番だったよ。
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