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4章 コスで救済

70話 戦いにはならない

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「降伏するべきです陛下!」


上級貴族たちは口を揃えて降伏しようと言ってきます、世界の統一が勇者によって可能になるのだから良い事だと、僕の引き渡しは犠牲にならない、そう思っての提案です。
国王陛下は悩まずに反対していました、そいつがほんとに勇者なのか、確証を持てなかったからです、あいつがやったことはゴールドクラスの襲撃という、勇者と呼べる行いではないからです。
それを聞いた上級貴族たちは、降伏ではなく協力だと言い変えます、自分たちの国から勇者が現れた事は好機だと言ったんだ、彼らは世界のトップになれると勘違いしています、もし他の国と戦争になっても勇者はこちらにいるので負けるはずはない、そんな妄想をしてるんだ。
国王陛下に賛成を求めたけど頷きません、貴族たちが国のためを思っていたなら頷いたかもです、でも自分たちの利益しか考えてませんでした。
それに今まで勇者を隠していた事が気になっていたんだ、おかしくはないか?っと一言述べました。


「で、では戦うのですか?」

「戦う必要はない、我々に必要なのは勇者ではなく平和だ、今世界は統一されている、それなのに勇者と名乗った彼は暴力という力で覆そうとしているのだ、それは他の種族や魔族との戦争でも分かる通り、受け入れてはいけないものだろう」


ひとつ間違えば全世界が勇者討伐に乗り出す、そんな事になったらとうする?国王陛下の質問に誰も答えが出せません。
魔王が世界を征服しようとした時代、魔王を倒すために勇者は召喚されました、でもそれは200年前のお話です、今は魔族と不要な接触をしないで平和に暮らしてます、古文書に記載された異世界から召喚された勇者が英雄になったんです、でも今回は内容が違います。
何の為に召喚されるのか、古文書には書かれていません、だからこそ慎重に行動するべきと国王陛下は注意してます、世界で悪と呼ばれる者が存在していない今この時、彼はほんとに勇者なのか、何を成して勇者とするのか?貴族たちはこの疑問に答えられなかったんだ。


「ワタシは彼が勇者とは思えない、その最大の理由は相手となる敵の存在だ、皆は今どんなものが敵になっていると思う?」


貴族たちは他の国と答えます、でもそれは警戒しているだけで敵と呼べる存在ではなかったんだ、どの国も自国を守っているだけなので勇者が倒せるはずありません。
国王陛下に学園都市と答えた貴族もいました、でもそれは即答されます、学園都市の抑止力があるから戦争が起きずにすんでいます。


「他国との交友にも繋がっている、あれは良くも悪くも必要なのだよ」


見える敵はいない、それを国王陛下が強調し何を敵として見るのか考えさせたんだ。
貴族たちが堪えられないので会議室にいる人たちにも質問を広げます、会議室には他に護衛の兵士にメイドや執事と少数ですが立っています、大臣をしている貴族たちは目線を送りますが、答えられるわけないと笑っています。
その中で一人の兵士が国王陛下に指名されたんだ、兵士は分からないと答え頭を下げます、次に指名したのは執事です、彼は敵と呼べるかわからないと先に言ってから、困ってる事があると答えます、それは執事たちの半数が思っている事だと、おでこを抑えて困った仕草を見せたんだ。


「ほう、そんなに困ってる事とは何かな?」

「それは、人材不足でございます陛下、なかなか人材がいないのです」


偉い人に仕えるにはそれなりの訓練が必要です、もともとのなり手が少ないので不足していると答えます、それはメイドたちも同じで給金も少ないとちょっとグチを口にしたんだ、貴族たちに睨まれて直ぐに黙ったけど、それは兵士たちも同意する総意です。
執事さんは咳ばらいをして、給金の件は謝罪します、でも訓練できる施設が欲しいと要求したんだ。
貴族たちは資金がないと即答します、だけど国王陛下は喝を入れます、困ってる者は貴族ではなく市民だと答えを出したんだ。


「今世界で敵となっているのは我々上に立っている者たちだ、下々の意見を聞かず切り捨てている、それこそが今の敵なのだ」


自分たちが敵だったと言われ、貴族たちは動揺を隠せません、勇者が世界を統一するとなると自分たちが撃たれるからだね、それが分かり焦り、誰もがそんなはずはないと叫びます。
でもここで国王陛下は、最初の質問を貴族たちにぶつけ誰も敵を出せず沈黙したんだ。
今苦しんでいるのは平民たちだと国王陛下は伝え、あの勇者がそれを救えるのか、それが一番の不安要素だと国王陛下は続けます、貴族たちは何も言わず下を向きました。


「故に彼は勇者ではない、今必要なのは暴力ではないのだ、もっと内面的な力が必要とされている、その力を持っている者をワタシは既に知っている」

「「「「「な!?」」」」」


他に勇者がいる、国王陛下の答えは貴族たちを驚き席から立ち上がるほどでした、そして答えは孤児院の復興に力を貸している女性に向けられます。
理由はいくつもあり、孤児院の立て直しはもちろんですが、畑の生産性を上げていると話されます、間接的に冒険者の実力を上げる助けをし、村の復興にも関与してると執事さんが情報を開示します。


「さらに孤児院は平民の子供たちに無償で食事を与え教育もしております、その子たちが成人する時は相当な実力になる、ワタクシはそれが楽しみでなりません」

「っと言う事だ、ワタシたちがやらなければいけなかった事だ、それを彼女は全て代行していたのだ、誰が悪でどちらが勇者なのか、聞かなくてもわかるであろう?」


これで分からなければその者は要らない、それほどに平民たちは彼女のおかげで救われていたと国王陛下は告げました、本来ならば国に仕えて貰うのが一番だとも口にしたんだ。
貴族たちは国に仕えさせるのはやり過ぎと警告します、何もしていないのに貴族には出来ない、そう言ってるんです。


「表に出ていないだけでそなたらはそう言うのだな・・・だからダメなのだよ!先ほどそなたらは言っていただろう、教育施設を作るのは金が掛かって出来ない、大臣であるそなたらが出来ない事を彼女はやったのだ」


どちらが優秀か、それは誰の目にも明らかです、そして貴族たちはそれを知り自分たちの立場が危ういと焦ります、国王陛下は自分たちよりも彼女を取る、そう悟ったんだ。
国王陛下は、さすがに首にはしないと補足します、でも仕事をしないのは許さないと貴族たちを睨みました、貴族たちは緊張して唾を飲みます。


「そなたらは、今まで高みの見物をしていた、これからは心を入れ替え励むのだ、ワタシもそなたらと同じだ、敵であるワタシたちが救われる唯一の道は、彼女に尽くす事なのだ」


だから勇者はあの男ではない、そう強調して話を終わらせます、国で彼を勇者と宣言しても平民たちは誰も信じない、そこに本物の勇者である彼女が現れ戦いが始まる、相手は絶対に勝てない戦い、そんな光景を貴族たちは頭に浮かべました。
その事を他の国に知らせる為、会議を開く準備が始まります、場所は各国が集まりやすい場所、学園都市です。
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