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2章 支店

21杯目 先手必勝

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「馬車の中は暇ね」


王都を出発したアタシは、早く品物が届くのを待ったけど、まだ時間は掛かるし出発したばかりだからダメなのだけど、早く食べたくて気持ちだけがはやってしまうわ。
シーツミが選んだ先発隊だから足は早いのだけど、先は遠いからため息が出てしまったのよ。


「姫様、ため息を付いていると幸せが逃げますよ」
「シーツミ、逃げるくらいなら追いかけて捕まえれば良いけど、問題はその幸せが無い事なのよ」
「何ですかそれは」


手に入るとは分かっているのに、時間が経たないと達成できないのが問題で、ため息を我慢して時間が進むなら喜んで止めます。
でも、そんな事は出来ないし、お仕事も既に終わってしまったのよ。


「何かやる事はないの?」
「国の問題はありますが、今出来る事はありません」
「じゃあ、ため息くらい付かせなさいよ」
「そうはいきません、姫様の品位に関わりますし、この旅も問題なんですからね」


1つの森に王族が向かうのは、それだけ重要な事とされるから、あちしも出来れば行くのは控えたかったわ。
だけど、暇で食事まで美味しくないとなれば、もう我慢の限界だったのよ。


「姫様、休憩のお時間です」


外のアーリッシュが知らせてくれたので、あちしは外に出て背伸びをしたわ。
外にいれば少しは気が晴れるのだけど、休憩をすればそれだけ楽しみから遠ざかってしまうのよね。


「早く着かないかしら」
「姫様、まだ言ってるんですか?」
「だって、それしか考える事が無いのだもの」


それが一番の問題で、シーツミが淹れてくれたお茶は美味しいけど、お菓子はパサパサでいまいちなの。
不機嫌でいると、前方から走って来る何かを見て、アーリッシュたちが警戒したわ。


「ふ、副隊長~」
「あ、あなたはチタじゃない、どうして戻って来てるのよ」
「それより、副隊長がいると言う事は、姫様もいますよね」


あちしに用があると言う事は、あの件と分かったのですが、慌てようからして問題があったのかと心配になったのよ。
またしても食べれないのかと、ため息のせいにしたくなったけど、先発隊にいたチタがある物を出して、あちしは顔がニヤ付いてしまったわ。


「も、もしかしてそれが?」
「そうです姫様、これが肉まんです」
「良くやったわチタ」
「でも、どうして持って来れたの?さすがに早いわよね」


アーリッシュが不思議そうに首を傾げたけど、あちしはそれよりも食べたくて仕方無かったわ。
シーツミが毒味とか言って先に一口食べたけど、その顔を見て美味しいのが分かったわね。


「そんなに美味しいのシーツミ?」
「はい、とても美味です・・・それに」
「は、早く頂戴よシーツミ」
「分かってますよ姫様・・・ですが、一つ疑問なんですけど、どうして少し暖かいのですか」
「え?」


一口食べたあちしは、確かにほんのり暖かくてチタに視線を向けたの。
そして、それが急いでいた理由で、移動できる屋台が問題の森から王都に向かっている事が報告されたわ。


「それって、許可が出ると確信を持っていたという事なの?」
「屋台を引いていた、ロイロイと言うラフレシア型モンスターはそう言っていました」
「それにしても早すぎるわ、王都に入れなかったらどうするのよ」


あちしの疑問はチタも聞いた様で、なんでも秘策がある様でした。
王都に入れなくても問題はないらしく、門の外での商売を考えているそうです。


「た、確かにそうですけど、そんな所で商売なんてしないわよ」
「自分も言ったんですが、門の外で商売をする事に利点が多くあるそうです」
「まぁ税が取れませんし、分からないでもないけど、宿もないからモンスターに襲われたらひとたまりもないわ」


それが可能なのはモンスターであるからで、彼女たちだから出来る作戦で感心したわ。
そして、いつの間にか手に持っていた肉まんが無くなっていて、もっと食べたくなったのよ。


「チタ、もっと無いのかしら?」
「すみません姫様、お試しの品なので、追加は夕食にお求めください」
「夕食って、屋台はそこまで来ているの?」
「そうなのです姫様、自分は屋台を王都に入れる為に戻っていて、姫様に許可を貰おうと思っていたのです」


チタの部隊は森に向かっていて、交渉を進める様だったわ。
その選択は正しいとチタを褒め、部隊に褒美を約束したわ。


「ありがとうございます姫様」
「それでチタ、あなたから見て屋台の料理はどうなのかしら?」
「肉まんも美味なのですが、他の品もどれも素晴らしいです」


その場で作ってくれるのなら、あちしの求める食べ物が手に入るから、もう言う事が無かったわ。
王都の入場許可証を作りチタに渡して、あちしたちは森に向けて出発したけど、チタが不思議そうだったわ。


「姫様、既に交渉は先発隊が行います、屋台も夕方には到着するのですよ?」
「森には行きませんよ、屋台と合流して料理の調査をするのが目的です」
「確かに、王都で出すなら必要かもしれませんね、では自分は王都に向かいます」


チタが簡単に納得して王都に走ったけど、シーツミが納得するわけもなく、戻ろうとか言って来たわ。
でも、あちしは合流する事を止める事は出来ないのよ。


「目の前に欲しい物があるのに、ここで引き返せるわけないでしょ」
「仕方ないですね、毒味はお任せください」
「シーツミだって食べたいんじゃない」
「ち、違います、わたしは姫様をあんじてるだけです」


あれだけの美味しさだったし、ほかほかの状態で食べたいとかシーツミがボソッと言ったわ。
それだけの美味しさだったのが伝わって来て、シーツミを納得させた肉まんの凄さを実感したわね。
そして、屋台と合流したのは夕方前で、王都に向きを変えて戻る事のなったけど、野営を準備しているととても良い匂いが広がって来たのよ。


「とっても良い匂いね」
「そうですね、これだけで食事が出来そうです」
「ほんとねぇ~」


クンクンと鼻を動かし屋台を見たのだけど、そこには半透明の幽霊モンスターと下半身が花のモンスター4体がせっせと準備をしていたわ。
その品は、最初にシーツミに渡され、あちしを含めた全員が注目したのよ。


「熱いので気を付けてください」
「で、ではいただきます」


厚手の器の乗ったトレーを受け取り、フォークで一口食べたシーツミは、上を向いて目を閉じていました。
とても美味しかったのか、とても良い笑顔をしていて、あちしは早く持ってきてと伝えたのよ。


「姫様、これは凄いですよ」
「だから、早く持ってきてよシーツミ」
「待ってください姫様、ロイロイ殿この料理のお名前はなんて言うのですか」
「煮込みラーメンと言って、土鍋と言う特殊な器のおかげで冷めにくく、暖かいままで食べられるんですよ」


そうなのねっと、シーツミが納得していたけど、早く寄こせとあちしは突っ込んだわ。
シーツミから受け取ったトレーの上では、湯気が立ち登っていて暖かいのが分かったわ。


「こんなにアツアツな食べ物久しぶりね」
「姫様、熱いですから気を付けてくださいね」
「分かってるわ」
「では、アタシは次の料理を持ってきますね」


味見がまだあると分かりシーツミが喜んでいたけど、あちしは煮込みラーメンを食べてそんな事を気にしている余裕は無かったの。
凄く美味しくて手が止まらず、シーツミが次の料理を持ってくる頃には無くなっていたわ。


「美味しかったわ、次は何かしら?」
「それがですね、チャーハンと言う米を使った料理で、姫様が口にして良いのかちょっと問題です」
「でも美味しいのでしょう?」
「それは、確かに美味しいですけど、コメですよ姫様」


米が家畜のエサだからシーツミが拒否しているのだろうけど、美味しく調理しているのだから問題なしっと、あちしは料理を受け取ったわ。
味はとても美味で、料理以前に米を美味しくする何かをしているのが分かったわ。


「これは、加工の仕方を聞けば食料にもなるわね」
「姫様、次はギョウザとシュマイだそうです」
「まだあるのね」


知らない料理がどんどん出て来て、あちしはもう嬉しくて仕方なかったわ。
味も最高で、アーリッシュたちにも食べる様に勧めて、夕食は最高のモノになったのよ。
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