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2章 支店

22杯目 王族来訪

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「ここが獣人の国の王都ですか」


とても高い壁を下から見上げ、アタクシたちは門の横に屋台を置いて待機していますです。
本来は、王女様であるガールサ様と一緒に入る予定でしたが、責任者のロイロイちゃんだけ入る事になったのです。


「ダイヤフィールドちゃん、ウチたち暇っす」
「アタクシだってそうです」
「予定の屋台やりましょうよぉ~」


モンスターが門の横にいる為、列に並んでいる獣人たちがソワソワしていますし、ここはみんなの言う様にお店を始めようと決めましたです。
煮込みラーメンはここでは出さず、肉まんのみの販売で最初は5人でコンロを使い、蒸し焼き器に入れていったのです。


「ダイヤフィールドちゃん、どうしてコンロ2台ずつ使わないの~?」
「ネロネロちゃん、お店は作るだけじゃなくて、販売する人もいるのですよ」
「そうなの?」
「はい、それに今回は門の中のお客にも渡す事になりますです、少しの移動でも時間のロスなのです」


列の整備には、ネロネロちゃんたちハイエビルプラントのツタを使うですから、人員には影響ないですが、それでも繁盛させるには宣伝が必須なのです。
肉まんが蒸しあがる直前で、アタクシは声出しを始めたのです。


「いらっしゃ~いです、今から肉まんと言う料理を販売しますで~す」


元から注目はされていましたですが、ここで料理の名前が分かりちょっとは興味を持ってくれたのです。
しかし、モンスターであるアタクシたちでは、危険と思って買う人は現れず、アタクシは直ぐに予定通りの行動に移ったのです。


「良く分からない料理と思っているですかね、でもご安心です、今から味見としてお1人様1個限定でタダです」
「「「「「タダ!!」」」」」


列に並んでいた人たちは声を揃えてくれて、ネロネロを残して他のメンバーと列に向かったのです。
並んでいるから店には寄れないですから、これで味が確認できるのです。


「さぁどうぞです」
「そ、そんなモン怖くて食えるかよ」
「そうなのです?こんなにアツアツで美味しそうなのに?」


肉まんを真ん中から半分に割り、ホカホカの湯気をあげて見せて、中のお肉もふっくらと宣伝してから、アタクシはパクリと一口食べてニコリとしたです。
美味しさと安全なのが分かったからか、断った人以外が欲しいと言ってくれて、配って行ったのです。


「や、やっぱりオレにもくれ」
「良いですよ~気に入ってくれたら買ってくださいです」
「値段によるな、高いんじゃないか?」
「外での販売なので、お一つ銅貨4枚なのです」


王都の中なら5枚と宣言し、男性の安いと言う驚きの声は、他の人たちの「売ってくれ」と言う声を連鎖させたのです。
カチカチの黒いパンが銅貨3枚の情勢の中、お肉がたっぷりでフカフカな肉まんが4枚となれば、そこにいる人たちが買おうとするのは当然で、列から手を挙げて数を言ってくれたのです。


「では、列の前の方からお渡しするのです」
「「「「「おおぉぉーーー!!」」」」」


買う数を聞き、アタクシたちは往復して販売して行き、ロイロイには新しく肉まんを蒸してもらったのです。
3人での往復で列の人には直ぐに行きわたったですが、ここで新たなお客の視線に気づいたフリなのです。


「門番さんたちも欲しいです?」
「い、今は勤務中だ」
「それなら、休憩中なら買えるですよね?」


人がいなくなっているし、休憩にしようと直ぐに2人の門番さんはアタクシに銅貨を8枚くれたのです。
2つの肉まんを渡し、休憩している門番さんたちも呼ぶと良いと伝えると、1人だけ壁の扉を開けて行き、そこから5人の兵士さんが出てきましたです。


「そいつらが販売しているのか?」
「そうですよ隊長、もう美味いったらないです」
「そうなのか」
「幾つ買いますかです?」


それぞれ2個の購入を伝えて来て、アタクシたちは兵士にも販売したのです。
そして、それで終わりではなく、ここからが本番だったのです。


「肉まんと言う食い物は何処だ!」
「門の前とか聞いたのに、無いじゃないか」
「門番さん、何処か知りませんか」


門の中からそんな声が聞こえ、門番さんがアタクシを呼びましたです。
そして、外に出ると入る為に銅貨5枚が掛かってしまうので、門の前での引き渡しが始まったのです。


「5個ですね」
「うん、ありがとうオバケのお姉ちゃん」
「オバケではないのですよ、アタクシはゴーストなのです」
「良く分からないけど、ありがとう」


子供にも怖がられず、アタクシたちは販売していったのですが、いつになったらロイロイちゃんが帰って来るのか心配になって来たのです。
もう夕方も過ぎて、そろそろ門を閉める時間なのですよ。


「そろそろ閉めるが、君たちはどうするんだ?」
「アタクシたちはこのままで良いのです」
「お気遣いありがとうなの~」
「そ、そうなのか?」


まぁモンスターだしっと、門番さんたちも納得ですが、そうするとロイロイの方が心配で、門番さんたちに聞いておくことにしたのです。
姫様と一緒なので城に入るそうなのですが、恐らく会議が長引いているだけと言う事だったんです。


「まぁモンスターを王都に入れる訳だしな」
「やっぱり難しいのです?」
「前代未聞だろう、普通オレたちも戦わないといけないんだ」


こんなに大人しいはずはないと言われたですが、それはマスターの教育の賜物なのです。
マスターが戦いを求めたなら、アタクシたちの姿も違ったでしょうし、きっとこんな風にはなりませんです。
でも、仲良しの方が良いと、アタクシは門番さんに笑顔を見せたのです。


「そうだな、戦いは無くなる事は無いが、平和が一番だ」
「そうなのです、そのお話をする為にアタクシたちは来ましたですから、時間が掛かっても良い答えをお待ちするです」
「すまないな、もしモンスターに襲われたら、門の中にある詰所に来てくれ、そこなら違反にはならない」
「ありがとうなのです、でも返り討ちにするのですよ」


アタクシもそれなりに強いのですから、きっとここら辺のモンスターなら倒せるのです。
門が閉まり、アタクシたちは屋台の片づけを始めたですが、この後が問題なのです。


「ダイヤフィールドちゃん、何をしようか?」
「そうですねぇ」
「ウチ、ここに家を建てた方が良いと思うの~」
「確かに、ロイロイの方で問題があった場合、今回みたいに販売する事になるのです」


煮込みラーメンを出せる様、ここにお店を作るのが良いと、アタクシたちはツタと土魔法を使い家を建てたのです。
そして、朝になって門が開かれると、そこには沢山のお客さんと冒険者さんがいて、アタクシたちは肉まんの準備に入ったのです。


「これが肉まんか」
「楽しみね」
「毎度ありです~」


冒険者さんたちは、森や草原に向かいながら肉まんを頬張っていたのです。
あれなら、戻って来た時また買ってくれそうで、アタクシたちは繁盛したのを喜んだのです。
でも、門からロイロイが戻って来た時、その表情で何となく結果が分かり、準備していて良かったと思ったのです。
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