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2章 支店

29杯目 街の異変に気付いて

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「何、食事屋の売れ行きが悪い?」


執事のセイバスから書類を受け取り、オレは確かに赤字方向なのを確認した。
これはまずいと思ったが、その原因を聞いてかなりの問題と分かったな。


「住民の食べている食事が良くなっているだと」
「調べた所そうなっております」
「変じゃないか、街の情勢は変わっていないのだぞ」
「そうですね、噂では妖精がスープを運んで来るとか、幽霊が食べ物を運んで来ると言った話だそうです」


セイバスが良く分からない事を言って来たが、それでは対策のしようがなく、どうしたら良いのか悩んでしまった。
しかし、その中で言えることは、家で出している料理屋よりも美味いと言う事で、それよりは事実だったんだ。


「しかし、どれほどの味なのかが分からんな」
「それにですよマゼラント様、その食べ物は平民に広まっているだけで、貴族たちはそれを求めています」
「ふむ、つまりはオレたちで作れる様になれば、貴族たちに出せる様になって今の赤字を改善できるという訳だな」


セイバスが頷くが問題はどうやって作るかで、どんな料理かも分かっていない。
そこで数日を掛けて調べさせたんだが、オレは頭を抱えたぞ。


「何故だっ!何故分からない」
「そ、それは・・・どこにも痕跡が無いからです」
「そんなはずはないだろう、金の流れは絶対にある」


材料だってタダの訳が無いし、何処かに痕跡があると思ったのだが、それがどこにも無かった。
セイバスが謝罪して来るが、オレは信じられなかった。


「もしや、ほんとに精霊か幽霊がいるとでもいうのか」
「そう考えるしか・・・どういたしましょうマゼラント様」
「噂の出所は何処だ、そこに行ってみよう」


そういう事で、善は急げとオレはセイバスの知っていた噂の元ネタである雑貨屋に向かった。
しかし、そこの亭主は何も知らなかったんだ。


「どういうことだ」
「それはあっしが知りたいぜ旦那、いつの間にかそんな噂が流れててな、おかげで食器が売れたんだぜ」
「その噂、詳しく教えてくれるか」


噂の内容を聞き、問題の奴らに聞く事にしたんだが、玄関に壊れたお椀を置いても無くならなかった。
教えてもらった通りなのだが、何日経ってもダメだった。


「何がいけないんだ」
「マゼラント様、もしや平民の家限定なのでは」
「それではオレの屋敷では無理じゃないか」
「そこでですね、メイドの家で試してみました」


セイバスが気をきかせてくれたようで、メイドの1人が変わった鍋を持って来た。
そこには確かにスープが入っていたが、野菜にパスタに肉もどっさりだったな。


「これは凄い、これをタダで配るとか普通出来ないな」
「はい、アタシも家に来た時はビックリしました、次の日にそのお鍋が届けられたんです」
「なるほど、届けられるだけなら誰も知らないわけだ」


噂通りに動くだけで、こんな美味そうなパスタスープが貰えるなら誰だってするだろう。
これに勝てるのかと思い、味の方も確認する為、セイバスに分けてもらったが、その味は格別だった。


「これは勝てぬな」
「そうですね、これはさすがに勝てません」
「あの・・・アタシのお鍋は返して貰えますよね?」


メイドが言いにくそうに告げて来たが、それだけの品という事で納得だ。
そこで、争うのではなく取り込む方向に変更したんだ。


「それは良いですが、いつの間にか追加されてるスープですから、どうやって交渉するんですか?」
「「た、確かに」」


メイドに言われ、オレとセイバスが声を揃えてしまった。
メイドも誰が運んできたのか知らず、朝になると空になった鍋にスープが入っているらしく、夜に見張れと指示を出したぞ。


「そう言われると思いまして、アタシずっと見てたんですけど、気づくと新しく入ってるんですよ」
「つまり、見えない何かという事か?」
「そうだと思いますマゼラント様、ですので難しいです」


これは詰んでしまったかもしれず、料理屋は廃業かもしれないと諦めかけたよ。
しかし、オレは料理だけならばと思ったんだ。


「酒だ、これに合う酒を造り、持ち込みを許せば良い」
「なるほど、流石マゼラント様ですね」
「早速酒を集めるんだ」


この料理の調査も含め、オレは酒の製造を始めたんだ。
そして、酒が出来上がる前に料理の方の進展があり、俺はかなりビビって復唱してしまったぞ。


「は、廃墟の料理屋だとっ!?」
「はい、アタシも聞いただけなんですけど、また噂が広がってるんです」
「なるほど、新たな噂と言う事だな」


メイドの話では、料理があのスープと同じで、更に新たな料理まであるそうなんだ。
それを聞いてオレが行かないわけがなく、街の地図を広げメイドに場所を指差させたが、その場所は誰も住んでない廃墟だった。


「フム、ほんとに廃墟なのだな」
「はいマゼラント様」
「しかしマゼラント様、危険ではないですかな?」
「セイバスの意見も分かる、しかし平民たちは既に食しているのだから、オレが来店しても平気だろう」


取り込めれば、それは多額の利益になるのは確実で、それなら危険でも行くべきと準備を始めたんだ。
そして、相手の情報も今回は集める事が出来ていて、メイドの言葉を疑ってしまった。


「ももも、モンスターが経営しているだとっ!?」
「はい、幽霊モンスターたちは沢山いまして、孤児の子供が働いていたんです」
「つまり、孤児を教育しているのか?」


モンスターがそんな事をするとは思えなかったが、メイドの話を聞きそれも可能と思った。
幽霊モンスターは、普通ではなく上位種のレイスだったんだ。


「れ、レイスならば確かに知性はかなりあるだろうが、ほんとに平気なのか?」
「はいマゼラント様、今では沢山のお客が来店していまして、誰も被害は受けていません」
「それならば良いのだが、レイスとなると普通に行くのは心配だな」


誰か変わりに行かせても良いが、特殊な交渉相手だからオレが対応したいんだ。
命の覚悟をしなくてはならず、それだけの利益も見込めると悩んでしまった。


「マゼラント様、無理は行けませんよ」
「セイバス、商会を大きくするためだ、マゼールの商会を国中に広めるチャンスなんだ」
「そうですか、ではお供いたしますよ」
「うむ・・・しかし、もう少し調べてからにしよう」


まだオレ以外には知らないわけで、オレはもう少し調査をする事にした。
別に怖いわけではなく、安全性を証明するのは商人としての習わしだ。


「あれから1ヶ月、いよいよだなセイバス」
「はい、心の準備は出来ています」
「あ、あの~アタシも行くんですか?」


オレたちは緊張しているが、メイドは何だか呆れた感じだ。
何度も店に行って調査して貰ったからで、そこまでの覚悟は要らないとか言って来ている。
何が起こるか分からないのが交渉で、オレたち商人の戦いだ。


「では行くぞ」


馬車に乗り、オレたちは廃墟に向かったんだが、ほんとに廃墟に店の看板はあったが、ボロい板に書かれているだけで、本当に平気なのか?っと疑いしか生まれなかった。
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