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1章 異世界転移

19話 ハルサーマルの実力

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「おやじ、納品書を持ってきたぜ」


自分は輸送組合の部屋に着いて、早速受付のスキンヘッドのおやじに依頼書を渡した、だがおやじが変な顔をしてるよ。


「どうしたんだハルサーマル、随分威勢がいいじゃないか」


ジロジロと自分を見て言ってきた、前はこのおやじが怖い顔だからオドオドしていたかもしれない、だけど怒った先生の方が何倍も怖い、自分が訓練から逃げようとしたら、髪が逆立ちオーラが見えたほどだ、もうあれは見たくないよ。


「ハルサーマル、身体が震えているぞ平気か?」

「いや、ちょっとな・・・それよりも次の依頼だ、何かあるか?」


先生たちがいつまでここにいるか分からない、自分も一緒にゆっくりするつもりだ、だが次の仕事は確認しておかないとダメだ、それに周りの情報も重要だな。


「次の依頼としては、ここの西側を守備している船団に物資を運ぶモノしか無い」

「西って先頭じゃないか、メートアとカンチュとザーボの3つともなのか?」


自分は少し驚いて聞いた、依頼書の内容はその3つの内どれかに行ってくれというものだ、普通先頭で警戒している船団は、物資を定期的に補給する様順番でここに戻って来る、それなのに自分たちに3つとも送るように依頼がきている。と言う事は、戻すことが出来ない何かが起きている、そしてそれが何を意味するのか。


「何処かが襲われたのかおやじ!聞いてないぞ」

「ああ、ライダー飛脚からの緊急報告だから知らんのも当然だ、エイン船団が襲撃されたそうなんだ、幸い戦闘にはならなかったが、海賊がこちらの同行を把握しようとしている、恐らく何かを企んでいるんだ」


戦闘が無かったんなら平気なのではないかと前の自分なら思ったかもしれない、警戒はしておかなければいけないって事だな。だがそんな危険地帯に行こうとするのは、相当な熟練者だけだ、その人達は自衛出来る装備を付けた船を持ってるからな。

自分の装備では、まず不可能な内容だ、いくら先生に訓練をしてもらってもだな。


「じゃあ、エイン船団にも物資を送った方が良いんじゃないのか?そっちを受けたいな」

「それがな、良く話がわからないんだが・・・要らんらしいぞ」


おやじが不思議そうだ、自分も不思議だぞ。戦闘もなく物資も取られないって、どんなことが起きればそんなことになるんだって思う、そしておやじの次の言葉を聞いて、自分は口が閉じれなくなったよ。


「何でもな、神の使いが舞い降りて助けてくれたそうだぞ。その者は黒髪の男性と小さい女の子連れで、変わった船に乗った二人組らしい、船団に来たら粗相のないように手厚い待遇をして、更に連絡をするようにって話だ。なんでも、べらぼうにうまい料理を提供してくれたんだそうだ」

「は、ははは」


自分が先生たちと最初に会った時、情報交換で先生がそんな話をしていたのを思い出し、笑うしかなかった。

自分はとんでもない人に弟子入りしたんだな、と思ってしまったよ。


「何がそんなにおかしいのか知らないが、そんなわけだ。仕事は戦場になる可能性の高い先頭の西側だけしかない、さてどうする?」

「まぁ・・・そう言う事なら休暇を終えたらそこに行く、依頼の受付を頼むよおやじ」


自分がほぼ即決だったからか進めたおやじが驚いてるよ、前の自分だったら絶対に断ってただろう、だが今の自分なら逃げるだけなら容易に出来る、何せ索敵能力が格段に上がったんだ。先生が言うにはスキルと言うモノが身に着いたと言われた、良く分からない言葉だったけど、集中さえすれば5キロ圏内の事なら見てない後方でも分かる。


「分かった、ちょっと待ってろ」

「おいおいバトバのおやじ!新人が死にそうなんだぞ、止めてやれよ」


おやじが依頼書を作っていると、自分の後ろからそんな声がしたよ、振り向いて見たら、自分に良くちょっかいを掛けてきた先輩だ。


「ガガラ先輩、依頼に何を受けるのかは自分の自由ですよ、自分だって死にに行くわけじゃない、しっかり勝算があるから行くんだ」

「ほうほう言うじゃねぇか、いつもオドオドしてた腰抜けのくせに、何があったのかねぇ」


そう言って、いきなり自分の頬にナイフを突き付けてきた、前なら腰を抜かすほど驚き、しりもちをついてるだろう。だが自分は何事もない風に先輩を見ている、こんな殺気を出してない行為は脅しにもならない。


「何をするんだよガガラ先輩、危ないだろ」

「ほうビビらないのか・・・だがな、その目は気に入らねぇな」


そう言ってナイフを少し立ててきた、自分の頬が少し切れたよ。だが数日で治る切り傷なんて自分にとっては日常茶飯事だよ、それに手を出してきた者にはそれ相応の対応をしないと舐められる、自分はガガラの首にナイフを突きつけてやったよ。


「それはどうもガガラ先輩、でもあなたが気に入らなくても自分は仕事をする、これ以上攻撃してくるなら容赦しないぞ」


自分は首のナイフを少し押し込んだ、ガガラの首から血が出てきた、まぁ少し切った程度だな、自分も頬が切れてるんだそれ位はしないとな。


「良い度胸だなハルサーマル、その目をえぐってやるよ!」


ガガラが首に付けていた自分のナイフを手で払ってきた、そして後ろに下がり、ナイフを構えだしたよ。


「なんともお粗末な構えだな先輩、隙だらけじゃないか」


構えてはいるがナイフを前に置き過ぎだ、あれじゃナイフを持っている意味がない、先生なら怒って、切り刻みながら説教になるな。


「あれは怖いんだよなぁ・・・ってそうか!最初の自分はあんなだったんだな、これは怒るわけだよ」

「何をゴチャゴチャ言ってやがる!」


ガガラがナイフを振り上げて距離を詰めてきた、自分はそれを見て凄く遅く感じた。先生ならナイフを持ってる手の手首を斬り、その後持っているナイフを相手の両太ももに突き刺し、後ろに回って首を斬って終わるだろう。そう思いながら自分は姿勢を下げて相手の腕を下から斬り、そのままガガラの首にナイフを付けた、今の自分は後ろに周れる程の技もスピードもない、これが限界だよ。


「さぁどうする先輩、まだやるなら自分はこのナイフに力を入れるぞ」

「くっ!?・・・わかった、降参だ」


ガガラがそう言って、両手をあげたから自分は下がったんだ、だがガガラが下げた手を後ろに隠した、見え見えだな。


「なんて言うと思ったか馬鹿め!【バン】」


ガガラが銃を撃ってきた、先生が自分の銃を見てビビらなかったわけだ、しっかりと見れば撃つタイミングと、当たる位置が分かるんだ、こんなの怖い訳ない。

自分は弾を躱し、腰に着けていた銃でガガラの肩を撃った。


「があぁっ!?いてぇー」


肩を押さえガガラが床を転げ回っている、自分は銃をしまいため息をついたよ。


「まったく、良かったですね先輩、自分が海賊じゃなくて、ここが海なら命はなかったですよ」


あれくらいで痛がるモノではない、弾は抜けてるし反撃だって可能だ。先生なら「反撃のタイミングを逃している目を瞑るんじゃない!」と怒る。自分は頭の中で思いだし、また震えた、その後受付を向いたら、おやじをがボケっとして見てたよ。


「おやじ、依頼の受理は出来た?」

「あ、ああ出来てるぞ、報酬もだ」


かなり驚いていたが、依頼完了の報酬と依頼書を貰った。食料と燃料、合わせて重量500キロになるそうだ、自分の船ギリギリだな。


「了解、じゃあ自分はしばらく休暇にするよ」


ちょっと口調を緩めて自分はおやじに告げたんだ、優しいと舐められるって先生が言ったからさっきまでは強目の口調だったんだ、自分はこっちの方が落ち着くよ。


「ああ、そうするといい・・・それにしても、随分腕をあげたんだな、ほんとに別人のようじゃないか」


そう言われたけど・・・まぁそうだね、あの人に指導されたら誰だってこうなるよ、何せスパルタだからさ。


「自分なんてまだまださ、じゃあねおやじ」


こうして自分は休暇に入った、まず危険海域に向かうから、その為の装備購入と食料の仕入れかな、先生から食料を貰ってなかったら、武器は買えなかったかもね。


「先生たちは今頃どうしてるのかな、出来れば意見を聞きたいな」


自分としては、出来れば一緒に行ってほしい、自分だけじゃ武器を買っても逃げるしかないし、海賊が総力を上げて攻めてくるのなら、絶対先生の力がいるんだ、神と呼ばれた先生の力がね。

そう思いながら船団を歩いた、何か変わったモノがあったら、合流時に知らせるように言われてるんだ。
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