上 下
86 / 95
最終章 平和に向かって

72話 神話を調べて

しおりを挟む
「ここがそうっちゃよケンゴ」


歓迎会を済ませた俺たちは、数日平和に過ごした、空中都市の者たちは少しずつここに馴染んでいってくれている。そして俺は今、空中都市の書庫に来ている。


「ありがとうラツーミとても助かるよ・・・それで、魔法関係はどこら辺にあるかな」


俺は辺りを見回して質問した、大きな書庫なので本棚がかなりある、見た限りでは同じような本があるだけだから、何処に何があるのか分からない。


「魔法関係は・・・確か奥にあるとよ」


ラツーミがそう言って俺の手を引っ張ってくれた、書庫に案内してくれるだけでよかったのだが、どうやら一緒にいてくれるらしい、ちなみに亜生奈は来てくれなかった、メナーサたちと何やらしているらしい、内緒と言っていたからウォーターバレット関係でないのは確実だ、少し気になってはいる。そして忘れていたことを思い出した、チェミーシャが隠していることだ、パーティーの時に本人から言われ、前の異世界でも困ったことだ、獣人の繁殖期がそろそろらしいんだ。俺やハルサーマルがそう言った事で疲れ困っていたから、今言うかどうか迷っていたと言っていた、だがそれを聞いてパーティーの参加者を見たら、目が獲物を狩る目になっている者がチラホラいたんだ、かなり困っているよ。


「ここっちゃねケンゴ」


これからどうしようか考えていたら、目的の棚に着いたようだ、どれも同じに見えるよ。


「すまんなラツーミ、少し時間が掛かるからラツーミは帰って良いぞ」


ラツーミにそう言ったんだが、どうしてか俺の背中に抱き着いて離れない、獣の眼をした中の1人だからなラツーミは。


「よかとよケンゴ、ウチたちを救ってくれたっちゃから、ウチはお礼がしたいとよ」

「そう言ったのを期待したわけじゃないぞラツーミ、それに今こうして書庫の本を読んでる、これが俺にとって最大の報酬だ」


軽めに断りながら本をパラパラとめくり読んでいった、ラツーミの眼は見ないようにしてな。後ろを振り向かないで、ラツーミに答えているのではっきりとは分からないが、ラツーミは答えを聞いて抱きしめを強めてきたよ。


「ケンゴのそこが良いとよ、もうウチは、なにもかもあげたいっちゃ」


俺は端から本を読んでいるが、後ろがとても気になる。仕方ないから本を片手で持ちながらラツーミの頭を撫でてやったよ。


「女性がそんな事を言ってはいけないぞラツーミ、俺が何を言うか分からないんだからな」


そう言ったんだが、ラツーミの尻尾がチラッと見えた、嬉しそうに振られていたよ、これは分かってないな。


「もちろん分かっとうと、ウチは全部あげるとね」

「はぁ~俺は手を出すことはしないぞ、イサナミたちにも悪いからな」


俺の相手はイサナミたちが管理してくれている、言っては何だが相当大変らしい、歓迎会の時もグチを言われた、そして大変なんだから二人目とかチクチク言われている、ほんとそこら辺が無ければここは楽園なんだがな。


「じゃあその子たちに言っておけばいいとね、ウチも入れて貰うっちゃよ」

「はいはい、その時はよろしくな」


どうせイサナミたちが決めることだ、俺の体がもつようにしてくれればそれでいい、今はそれよりも魔法の類だ。


「ふむ・・・召喚の類は書かれていないが、この世界の神話を読む限り、4代精霊が主力みたいだな」


書物には代表的な属性火・水・土・風が記載されている、俺の使っている雷はない、だから海賊たちも驚いていたんだな。


「となると、俺がここに来たのは・・・やはりあれが原因かな」


何となくは分かっていたっと言うか、あれ以外思い当たらなかったというのが俺の見解だ。俺がここに来る前に4聖獣の力を使った、おまけに自分の魔力も上乗せしてしまったんだ、そして嵐の雷で更に上乗せだ、きっとそのせいで空間が歪みここに来てしまった、そう予測はしていた。


「大体は予測通りか・・・それにしても、まさか世界まで移動してしまうとはな」


前の異世界の時も4聖獣の力を使った時、力が何倍にも膨れ上がったことがあった、それがこんなことになるとは思わないよな。


「となるとだ、道具を向こうに送れることからも、生命を送る事が出来ないのは、ただ単に力が足りないのかもな」


今まで道具は日本に送っていた、だがどうしても命のある物は無理だったんだ、この仮説が正しとなると、送る為に使う魔力を増やせば、何とかなるかもしれない。俺は本を閉じ後ろで抱き着いているラツーミに言うことにした。


「ラツーミ、俺はちょっと用が出来た、書庫から出ようと思うんだが」


抱き着いたまま、俺の背中に顔をグリグリしてきている、まるで子供だな。


「ウチも行っていい?」

「問題はないが、街長の仕事はいいのか?確か移住の手続きとかが、たくさんあるとかイサナミが」

「それは後で良いっちゃ、今はケンゴといたいとね」


そう言って俺の首に腕を回し背中に飛び付いてきた、おんぶになってしまっているが、俺は手を貸さないぞ。


「本人が良いのならもう言わないが、後で仕事が大変になるぞ」


そう言って俺は、書庫を出て空を飛んだ、ラツーミが後ろで嬉しそうだな。


「すごいっちゃねケンゴ」

「俺はいつもの事だけどな、この後俺は釣りをするが、ラツーミもするか?」

「うん」


ラツーミが後ろで良い返事をしてきた、釣りの仲間が出来るのは嬉しい限りだ、最近は全然できなかったからな。


「さて、上手くいくだろうか」

「頑張るとよケンゴ」


俺の隣で普通に釣り竿を振っているラツーミの応援を貰った、釣れることは分かっていり、いままでは具現化に失敗しただけだからな。


「よし!来たぞ」


しばらくして俺の竿に引きが来た、そして釣りあげたら大きな機械が釣れた、予定通りだ。


「ケンゴ、これが欲しかったと?」


ラツーミが少し心配そうだ、機械の形が傘の着いた台って感じだから気持ちは分かる、だが俺の設計通りだぞ。


「そうだぞラツーミ、上の傘から魔力を降らせ下の台で転移する、うんうん設計通りだ」


傘と台を繋げている機械の場所にパネルがあり、そこに手を置き魔力を注ぐ、4聖獣と俺の魔力、それと地球で使った雷の力相当の量が必要になるだろう。


「そうなん?よかったちゃねケンゴ」

「ありがとラツーミ、使うのはもう少し後だから、普通に釣りを楽しもう」


そう言って俺は普通に釣り糸を垂らした、少し魔力が不足している感覚があったが、しばらくすれば収まる、それに実験もしないといけないからな。


「今日は釣れないな」


俺は寝転びながら呟いた、空を見てのんびりだ、そしてラツーミが俺の顔を覗き込んできたな。


「ケンゴは神じゃないっちゃよね?」

「う~ん、そうだなぁ普通の旅人だなぁ」


ウトウトしながら俺は質問に答えた、神の存在を俺はあまり信じていない、何故なら召喚の時も見てないし、4聖獣に聞いても会った事がないとか言ってきたんだ、つまりは崇められているだけって事だ。


「そうなんね・・・これからよろしくっちゃねケンゴ」


その声を俺はほとんど聞いてなかった、既に寝ていたからな。


「っと居眠りをしてしまったか、魔力も結構使ったし、疲れてたのか」


俺はしばらくして目を覚ました、空を見ると夕日が落ちる所だった。あくびをしようとして腕の重みを感じたので見たら、俺の隣でラツーミも寝ていた、一緒に寝ていたんだろう、俺が動いたからだろうか起きてしまった。


「おはよケンゴ」

「ラツーミおはよ、っといってももう夕方だ、戻って夕食にするか」

「うん」


釣竿をしまい、俺たちは住居地域に戻って夕食を取った、その後ラツーミは新しく執事になった猫又族の女性に叱られていたから、きっと今日は夜遅くなるだろうな。


「さて、俺も今日は遅くなるかもしれないな」


亜生奈がメナーサと眠るまで船の外でのんびりと待ち、俺は砂浜に転移道具を出した、まずは小さい者からだ。


「さてカエル君、申し訳ないが実験に協力してくれ」

「ゲコ?」


俺の手の平に緑のカエルがいる、もし失敗したらこのカエルの命はないだろう、すまんな。


「さて、必要魔力は」


台にカエルを置き、装置のスイッチを押した、すると転送場所が入力できるようになった、日本と入力したら必要魔力が出たよ。


「げっ!?カエルを送るだけで俺の魔力と同じかよ!」


画面を見て俺は叫んだ、4聖獣の力を使い更に色々重なってここに来たから、相当な魔力が必要と思ってはいた、だがまさかこんなにかかるとはな。


「改良は必要だな・・・まぁ良い、とりあえず使って見るとしよう」


魔力を流しカエルを送ってみた、烈男には既に連絡してあるから、ちゃんとカエルが送られれば成功となる、後は魔力量だ。


「はぁっはぁっはぁっ・・・さ、さすがに全魔力を使うと堪えるな、だが明日になれば分かるだろう、頼むぞ成功してくれ」


そう言って俺は、フラフラと船に戻って眠りについた、ウトウトしながら俺は考えていた、転移場所は入力出来た、場所は日本の俺の実家だな。これが成功しても問題はまだまだ山済みだろう、だが帰れるなら一度戻った方が良いと思っているんだ、テレビ電話で話せると言ってもやはり会って安心させたいからな。
しおりを挟む

処理中です...