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1章 モフモフの為に

7話 主導権確保

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「森のニャンコが何の用だ?」


集落の入り口で、いきなり止められ暴言まで吐かれたと、みんながイラっとし始めたんだ。
カカ様たち大人は顔には出さないけど、僕の姉妹たちは尻尾がボサボサです。


「可愛いと思うんだけど、頭は悪そうで良かった」


言いくるめるのは簡単そうと、僕は族長が話しを進めるのを待ち、番の顔見せと告げて僕に視線が集まります。
門を守るワンコたちは、そんな事必要ないと笑って来て、本当に良いのかと族長は念押しをしたよ。


「なぜオレたち白狼族が、森のニャンコの番が変わっただけで族長に会わせないといけないんだ?」
「お前たちは森のトップを自称してる、それが下の事を分かっていなくて良いんだな」
「そ、それは」
「分からないなら分かる奴を呼んで来い、じゃないとあたいたちは帰るよ」


ちょっと待てとワンコたちが焦りだし、1人だけ集落に走って行った。
初めからそうしろと族長たちは怒るけど、ここで引き返した方が、僕たちは動きやすかった。


「でもまぁ仕方ないよね」


森の外に交易をしているのがこのワンコたちで、これからはその力も使うかもしれないという算段です。
戻って来たワンコは、焦りながら案内を始め、やっと分かったかとみんながドヤ顔ですよ。


「良い気味にゃ」
「最初からそうするみゃ」
「ふたりとも、そんな事言っちゃダメだよ、相手は二人とは違って良く分かってないんだ」


こちらが有利な状況なんだからと、ふたりを宥めて余裕を持つのが強者と教えます。
それでも許せない事はあるから、相手がそれをしてこなければ良いけど、恐らく相手はそれを決め手にして来る。


「おうおう、強引に入って来てどんな奴を連れて来たのかと思えば、そんなガキの顔見せかよニャンコ」
「あたいの名前はクウシャだよ、そっちこそ門番くらい教育しておきなハクゴウ」
「ふんっ!それよりも、顔見せが終わったなら帰りな」
「そうもいかないんだよ、相変わらずせっかちでバカだね」


なにおうっと、族長同士のにらみ合いが始まったけど、他のメンバーも睨み合ってて、ほんとに仲が悪いのが分かったよ。
そんな中でも、僕は話しを進めようと声を掛けたら、両方の族長から睨まれてしまったよ。


「僕たちは交渉に来たんですよ」
「なんだとガキ、どういうことだ」
「詳細はクウシャ族長からお願いします」


族長は、コホンと咳ばらいをして話し始めたのは交易の事で、僕たちが作った品を外に出してほしいと切り出したんだ。
変な品は困ると言って来て、拒絶はしてこなかったのは良い傾向で、僕は早速出して見せたよ。


「これは?」
「香草の香りを付けた干し肉だ」
「それは分かるが、どうして売るんだ」


食料が少ない今、どうして外にという事を裏表なく言って来て、こちらもそのまま返して度肝を抜いたよ。
余っている外に出す、その言葉はハクゴウたちを黙らせ、その表情を見て族長は嬉しそうだよ。


「あらあら、そんなに意外だったかしら?」
「な、何故だ!?どうしてそんなに獲物がいる」
「獲物がいる訳ないでしょ、森の状況知ってるでしょ」


それならどうしてっと、凄く食いついて来たけど、それを言う訳もないと笑って見せたよ。
ハクゴウは、金で聞こうとして来たので、外のお金で一番高い硬貨の金貨を300枚要求したよ。


「さ、300枚だと」
「あら、それ位安い物よ」
「お前、それがどれだけ高額か分かってるのかよ」
「金貨1枚が穴あき銀貨100枚でしょ」


1つ下の硬貨で表して3万枚と教え、更に下の銀貨なら30万枚と言いました。
その速さに、ハクゴウはまたビックリして応えず、次の穴あき銅貨300万枚で最後の銅貨なら3000万枚と、族長に最後まで言わせてしまった。


「それだけの価値があるのよハクゴウ、いい加減気付きなさい」
「し、しかしそんな額を持っているわけがない」
「当然じゃない、だから言えないのよ」
「ぐっ!そういう事か」


やっとわかったかと、ニヤリとする族長は、香草に包んだ1キロのブロック肉の値段を提示したよ。
穴あき銅貨5枚、それはかなりの安値でバカだろうと言って来たね。


「言っておくけど、それはあたいたちが貰う額だからね」
「なっ!?」
「とうぜんじゃないかい?」


そんな安いわけがないと言い切り、輸送や販売のコストはハクゴウたちが持つように言ったんだ。
その額なら黒字だからか、ハクゴウは満面の笑顔を見せて来て了承して来たよ。


「随分余裕だね」
「当たり前だ、絶対売り切ってみせるぞ」
「それはありがたい、じゃあ今回持って来た200キロを頼むわね」


門の外に用意していると視線だけを向けて見せると、そんなバカなっ!!と声にまで出して来て、絶対調べてやるとか言って来たよ。
でもね、そんな事よりも大切な事があるので、族長は注意したんだ。


「な、なんだその大切な事とは」
「あんた、仲間が腹を空かせてるの分かってるんだろうね」
「そんな事当たり前だろう、だから知りたいんだ」
「それなら、取引条件にそれも入れないとダメじゃないか、もっとシャキッとしな」


はいっ!っと、ハクゴウは尻尾までピーンと伸ばし、ビビっていました。
やれやれと取引が成立した事で、追加の肉200キロを無償でハクゴウたち白狼族に献上する事を伝えたよ。


「な、何故だ!!」
「これからは取引仲間だ、これくらいの礼はするものだろう?」
「そうか・・・感謝するクウシャ」
「良いのさハクゴウ、森の民同士仲良くしようじゃないか」


族長たちの握手をする姿は、その場にいる全員が対等の立場だと言うのが分かるモノで、僕たちは交易をする力を得たんだ。
集落を出る時、入る時とは真逆の対応になり、手を振られて僕たちは集落を後にしました。


「凄い喜んでたわね」
「当然よキキ、200キロの食料を貰ったのよ」
「そうだけど、あのイヌコロたち分かってるのかしら?」


姉さんたちが僕をジッと見て来るけど、白狼族たちは分かっていませんと即答しておきました。
最初の対応で、僕たちは他の種族の様に助けるのではなく、働かせる方を選択したんだよ。


「あれで自分たちで何とかするでしょ」
「その力があったという事さ」


族長も塩対応で、バリバリ働いてもらえそうでニヤニヤしていました。
そして、最後の種族である北に住むビバ族ですが、怠け者で有名らしくどうしたものかと族長はため息を漏らしたよ。


「そんなにダメなんですか?」
「ああ、族長のビーバーが、これまた話が通じない奴でな、あれに比べればガールドが働き者に見えるぞ」
「うそっ!?」


繁殖だけのあいつが働き者とか、僕は会うのが嫌になって来ます。
湖に住むビーバーの様な容姿のビバ族、そいつらは湖の魚を食べて暮らしていると教えてもらいました。


「数も増えない奴らはね、食うモノにも困ってない唯一の種族だ」
「はぁ凄いんですね」
「凄いわけじゃないぞグゥガ」
「いえ、そんな怠け者なら、どう頑張っても食料は無くなるんです」


これは何かあると、僕はちょっと警戒する事にしました。
そして、湖に到着してそれがどうしてなのかを知り、使えると思ったよ。
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