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2章 モフモフ同志の為に

30話 陣を守るメイドたち

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「じゃあ行きますわよ」


フォーミお嬢様の掛け声で砦に向かい出発しますが、ワタシたち貴族に仕えるメイドは、仮に建設した陣でお留守番です。
作戦は聞かされずワタシたちは陣に残りますが、今までもずっと空気の様に待っていたので、そこは気になりませんが、本当の戦いが始まろうとしているので少し心配です。


「どうか無事に帰って来てくださいねお嬢様」


砦の方から戦う音がしてきて、きっとフォーミお嬢様の作戦で大勝利を収めると信じて疑いませんでした。
それと言うのも、戻るまでに食事を作っておくように言われていて、戦いの後の事まで見据えているんです。


「普通は、陣を畳んでいつでも逃げれるようにするモノなのに、何を考えてるのやら」
「あのシンリーさん、ちょっと良いですか?」


やれやれっと思っていたワタシに、あのガドル王子の専属メイド【サミーナ】が他の王子のメイドを連れてきました。
またですかっと、ワタシは嫌々ながらもお話を聞く事にしたんです。


「何ですかサミーナさん」
「いえ、せっかく補給路を断ったのに、どうして戻って来て戦うのかと」
「そうっすよ、数が多いから危険って事じゃ無かったっすか、何も変わってないのにやばいっすよ」
「それは違いますヤーバリュさん、あれから5日も経っていて敵兵士も疲弊しているんです」


そこを突けば勝てると、フォーミお嬢様は決めて攻めているんです。
いつ攻めて来るのか分からない伏兵に、砦からも兵が出てくるかもしれない状態では、それだけの緊張感を持ってしまうのは当然です。


「じゃ、じゃあもっと疲弊してからでも」
「甘いですよレーショさん、5日も何も無ければ伏兵がいなくなったと考える頃なんです」


そこを更に突く事で相手の油断を誘った訳で、攻め込むのに絶妙なタイミングと教えました。
なるほど~っと全員が納得ですけど、それは全てフォーミお嬢様の言葉で、終わった後だから教えてもらいました。


「じゃ、じゃあ今頃」
「そうですよサミーナさん、相手の兵をボコボコにしているでしょうね」


全員が顔を引きつらせましたが、戦場を見ているわけではないので分かりませんけど、学園での訓練を考えると容赦ないので合っていると思っています。
戻って来て内容を聞けば分かりますが、フォーミお嬢様の読みの深さは計り知れないんです。


「兎に角、ワタシたちは戻って来る皆様を労う事を考えましょう」
「そうっすね」
「分かりました」
「了解です」


何がしたかったのかと思う程に、皆さんはちゃっちゃと持ち場に戻り料理を始めますが、火を使って良いのもおかしな話なんです。
この数日は禁止でしたが今日はそうではなく、これは戦いの終わりを意味しているのは誰もが感じている事でした。


「他のメイドたちもそうだし分かるんだけど、作戦通りにいかなかったら、ここは格好の的ですよね」


戦場なんだから、不測の事態は起きるモノで、平気なのかと心配です。
ワタシたちメイドは、そこそこの実力を持った者たちですが、人数は30人位しかいませんから心配です。


「戦力には入ってませんが、もしフォーミお嬢様に言われたら戦う覚悟はあります」


その時は、恐らくかなり劣勢になる時でしょうし、フォーミお嬢様を守る為にも命を掛けなくてはなりません。
せっせと料理を作っていくと、フォーミお嬢様たちが帰って来ましたが、返り血を浴びていて負傷している人もいました。


「汚れを落とし、ポーションで怪我を治して食事を取って休憩しますわよ」
「フォーミお嬢様、戦況は」
「シンリー勝ちましたが話は後ですわ、今は食事と負傷した人の手当てを急ぎますのよ」


まだ終わっていないのか、緊張状態が続いているフォーミお嬢様たちに食事を渡しました。
ですが、どうやら砦を囲んでいた兵は倒した様で、今急いでいるのは罠に嵌る敵兵の駆逐でした。


「も、もしかして」
「分かりましたわねシンリー」
「はいお嬢様・・・補給路を断ったあの場所は、敵兵が逃げる最短の道で、その為に残しておいたのですね」
「そうですわ、だから追いかければ引っかかるのですわ」


補給路を断たれていた事を知り、相手は混乱して更に罠が発動すれば、逃げてる兵士は更に混乱して収集が着かなくなり、追いかければたやすく倒せるでしょう。
罠と兵士の両方で挟み撃ちをする、凄い策略と思いました。


「じゃあ、行って来ますわねシンリー」
「はい、お帰りをお待ちしていますお嬢様」
「ええ、戻るのは明け方でしょうから、あなたは今のうちに休息して、軽めの朝食を用意してくださいましね」


食事は何よりも必要と、フォーミお嬢様はニコニコでしたが、この数日で持って来た物資は無くなりそうでした。
ですが、倉庫代わりにしていたテントを見ると、いつの間にか補給されていて、ワタシたちメイドはビックリです。


「あと1食分くらいだったのに、どうして」
「し、シンリーさん」
「わ、ワタシに聞かれても・・・フォーミお嬢様も教えてもらえません」


ここに来る前の途中でもそんな事があり、食料は元よりポーションなどの品も補充されているんです。
まるで、その場に沸くような感じで、幽霊でもいるのかと思ってしまいます。


「でも、助かるわ」
「そうっすね、うちの王子はうるさいっすからね」
「そうそう、お風呂に入りたいとか、ダダをこねて来るのよねぇ」


はははっとみんなで笑ったのだけど、あれでも前よりは根性が付いたとホッとしていました。
戦場には絶対に行けないと思っていたらしく、ゴブリン討伐の前はそんな事を思っていたようで、学園でのあの過酷な訓練の賜物と、ワタシに視線が集まったわ。


「もっと鍛えてやってください」
「そうっす、下々の者たちはこれだけ大変なのだと、あのバカ王子たちに分かってもらいたいっす」
「そうですけど、フォーミお嬢様がしている事で、ワタシに言われても困ります」


率先して自分も行うあの姿があってこその指導で、ほんとに過酷だと思いました。
でも、そのおかげで今回勝利を納めましたし、これからもそうなるんでしょう。


「そんなお嬢様たちを支えるのが、美味しい食べ物とゆっくり休息を取れる場所です」
「そうっすね、張り切って休憩するっす」


今はワタシたちも休む時で、メイドたちに伝えて休息を取り、日の登らない内にワタシたちは起きて、お嬢様たちの為に朝食の準備を始めました。
そして、日が昇る頃にフォーミお嬢様たちがフラフラになって戻って来て、今度は負傷した人たちはいませんでした。


「お帰りなさいませフォーミお嬢様」
「シンリーただいま戻りましたわ、そちらもご苦労様ですわね」


流石に疲れているのか、お嬢様も余裕がなさそうで、軽めに朝食を取ってテントで休むことを指示しました。
フラフラになりながらお嬢様も軽めにお腹に食べ物を入れ、早々とテントに入って行き、昼まで誰も入れない様に言って来たのです。


「お任せ下さいお嬢様、誰一人として入れません・・・おやすみなさいませ」


緊急時は、事前に決めているお嬢様の隊の人にお知らせしますから、今日はサズラ様の番となります。
どうしてそんな事をするのか、それもワタシには分かりませんけど、きっと深いお考えがあるんです。
その日も緊急などは起きませんでしたし、昼の起きて来たお嬢様たちは、砦の兵士と合流して進軍のお話をするようでした。
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