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1章 転生

18話 畑仕事その2

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ワタシの眼前で、またしても信じられないことが起こっている。
この村に来て1週間、驚く事ばかりだったが、今日見ているのはほんとに信じられない。


「小麦がこんなに実ってる~」
「どうしてだ、トラクターは耕して種を蒔く道具ではなかったのかっ!!」


アオに視線を向けたが、彼は今ワタシの驚いた収穫の速さを気にせず、小麦の袋を運ぶのに忙しい。
小麦の成長速度は、世話をしているのだから何となく早いのは感じていた、しかし収穫が大変だろうと思っていた所にトラクターを使った作業が凄かったんだ。


「これなら、ここの領主はさぞや有益と喜んでいるだろうな」
「アスティル隊長、それは無いようですよ」
「どういうことだアズーミ?」


ワタシの耳に近づいて小声で教えてくれたが、収穫した品は隣の領地に流れているらしい。
どうしてそんな事を?っと、更にアズーミに聞いたが、簡単な内容だったな。


「街が近くにない?」
「そうなんです、何でも領主が友好的でなく、その為に隣の領主にお願いしているみたいです」
「しかし、他の村の者たちも頻繁に来てるぞ?」
「そうなんです、ここは周りの村にとって、領主以上に領主の様な役割をしています」


村長のリーナという元傭兵の女性は、知性は足りないが責任感があり優秀だ。
だからこそ、アオの力になってくれてこの村は繁栄しているんだろう。


「しかし、その内税を追加で取り立てに来るぞ」
「そうなんですが、その為に隣の領地と言う事です」
「なるほどな、村に近い街がそちらなら、元締めの領主も賛成するな」
「はい、既に根回しは終わっていて、1月後の会議で決まるでしょう」


収穫の月のあれと、アズーミはイヤそうだが、あれも領地を管理する者たちにとっては重要な集まりだ。
集めた税を元締めに納める領主会議、そこは税をどれだけ金に出来たかを自慢するだけの会議で、問題の事は何一つ話されない。


「だが、ここではそれが有利になるわけだな」
「そうですアスティル隊長、アオ殿の頼みを断った今の領主と、全面的に力を貸す隣の領主、どちらが有益かなんて一目瞭然です」


その差は、自慢する席で見事に見せつける事が出来て、領主の変更を元締めは考えるだろう。
ここら辺を統治しているこの村は、下手をすると新たな領地に格付けされる。


「だが、村長は望まないだろうし、アオもそうだろうな」
「でしょうね、彼は隠れてしまいます」
「そうだな」


はははっと笑い、自分よりも大きな袋を運んでいるアオに視線が向いたが、ほんとに良く働いていた。
ワタシたちも他の作物の収穫を再開したんだが、話は先に進んだんだ。


「その領主、復讐に来ないだろうか?」
「ええ、そこは自分も心配しましたが、どうやらあれが守っているみたいです」
「ああ、あれが守ってるのか」


それなら安心と、トマトをカゴに入れて納得した。
この村は、村を守る柵がないにも関わらず、盗賊などに襲われる事が無いらしい。


「それはそうだろうな」
「ええ、藁人形たちが守っていますからね」
「ああ、あれを見たから、ワタシはここをモカ様に勧めたんだ」


国を無くした我々に、安全な場所なんてあるはずがなかった、そんな所をアオ君が助けてくれたんだ。
最初は困らせてしまったが、ここにこれてほんとに良かったと確信してる。


「すごい子ですよねアオ殿は」
「ああ、それに可愛いよな」
「はい、ミドリ殿たちがあれだけべったりなのも分かります」


アオはこの村で大人気で、誰もがアオに熱い視線を向けている。
ワタシもその中の一人だが、男から子供を授かるのは難しい。


「魔法で女性からというのが普通ですが、自分は出来れば欲しいです」
「しかしなアズーミ、それをするにはアオが領主になるか、村長がもっと地位をあげる必要が出て来るぞ」
「そうなんですが、出来なくはないでしょう」


それはそうだと即答してしまったが、本人たちにその意思がなくては進まない。
村長は少しだけ考えている様子ではあるが、アオが成人していないからその時まで準備しているのかもしれない。


「今度聞いてみるか」
「それが良いですアスティル隊長、出来ましたら自分も」
「分かっているよアズーミ」


ほんとにアオが好きなんだなっと、応援したくなった。
しかし、ミドリ殿たちの様に最初からアオと仲の良い子供たちの守りが固く、説明の時くらいしか傍に近づけない。


「もっと村に貢献すればその内な」
「そう思いたいですが・・・羨ましいのですよアスティル隊長」
「仕方ないだろう、がんばれアズーミ」
「はい~」


ガッカリしているアズーミだが、気持ちは痛い程分かるから応援してしまう。
ワタシもアオを抱きしめ頬ずりしたくなるが、それが出来るのはミドリたちだけなんだ。


「あれで村の格付けが出来てるから、この村は成り立ってるんだろうな」


アオがそれを自覚しているかは分からない、しかしご褒美などでアオが調理してくれる品は、誰もが楽しみにしているし頑張る基準だ。
更に言うと、アオはどんなに小さな功績でも褒めてくれてご褒美をくれる、それを喜ばない者はここには存在しないんだ。


「だからこうして収穫してるんですよアスティル隊長」
「分かってるよアズーミ、がんばれ」
「うぅ~いつになるのかなぁ~」


泣きそうなアズーミだが、それでも頑張っていて、何時の日かそれが叶う時は来るだろう。
それを見てくれているのがアオだし、ワタシたちの救い主だ。


「出来れば、モカ様との子を作ってほしいが、さすがにそれは無理だよな」


モカ様は、ここに来てからずっと何かを考えていて、そのせいでアオとは距離を置いている。
もしかしたら、国の事を思って悩んでいるのかもしれない。


「もしそうなら、アオにも相談したいな」


村長との話し合いを急いだほうが良いと、アオに相談したくて近づいたんだが、ミドリに睨まれてしまったよ。
しかし、これしきで引き下がるわけにもいかず、ワタシは相談事をアオに話した。


「そうでしたか」
「ああ、だからアオから聞いてみてくれないか?」
「それなんですけど、もう解決していますよ」
「そ、そうだったのか?」


流石アオと言う解決の速さに、ワタシは崩れた笑顔で笑ってしまった。
今もモカ様が悩んでいる感じなのは、どうやら他の事らしく、それは時間を掛けなくてはならないらしい。


「なので、アスティルさんたちが聞いてあげてください」
「そう言う事なら・・・しかし、どう切り出せば良いだろうか?」
「それは簡単です、心配してる事を伝えるんですよ」


そんなに簡単ではないと思ったが、アオの言葉だからその日の夜に聞いてみたんだが、次の恋を見つけたと、ワタシはモカ様に抱き着かれたんだ。
どうしてそうなったのかは分からないが、幸せではあったよ。
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