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1章 誕生

4話 初めての授業

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ダンジョンのお勉強は黒板のある部屋で行うらしく、ポニットとミドリちゃんが案内してくれたんだ。2階にあるその部屋の扉をポニットが開けると、メガネ美人さんが待っていて、いかにも先生に見える雰囲気を出しています。


「アレシャス様、そちらの席に座ってください」
「は、はい」


僕は【ゴクリ】と緊張したけど、それを解す様にポニットがメガネ美人さんを名前で呼んだんだよ。


「ダリアさんか」


名前が分かったと、ここでの名前探しのヒントを貰いました。メガネ美人さん改めダリアさんは、ポニットとミドリちゃんの名前を呼び下がらせたんだ。
リーナ(ポニット)とマースナ(ミドリちゃん)は覚えた。これからどんどん覚えて呼んで行くぞっと、1組用意されている椅子と机の横に立ち、座る前に先制攻撃を決めようと「よろしくダリア先生」っと挨拶をした。


「ど、どうしてわたくしの名前を」
「それよりダリア先生、授業を始めましょうよ、僕楽しみにしてたんだ」


椅子に座りそう攻めます。ダリアさんは不思議そうだったけど黒板に向かい始めます。どことなく顔が赤かった気がしたけど、きっと名前を呼ばれたからだと、気にしないで待ちに待ったダンジョン製作が始まります。


「アレシャス様、教科書は最初のページを見てください」
「あ、あのダリア先生?」


僕は言われた通りにしたいんだけど、驚くことが起きていてそれどころじゃない。なんと黒板に文字を書いているダリアさんの手元よりも、文字が遠くに刻まれていたからです。なんと文字を書くのは、魔道具のペンで宙に浮いて書かれていました。


「さすがファンタジー」


すごいねっと文字が刻まれるのを眺めて文章を読んで行きます。そこにはダンジョンを作る流れが書かれていました。


「ダンジョンの元になる玉、それにポイントか」


ダンジョンポイントと言う燃料を注ぎダンジョンを育てるそうです。ポイントを注いだ玉を持った状態でダンジョン起動と唱え、タブレットの様な製作画面を出せば準備完了です。


「並ぶ項目には、階層・通路・部屋・モンスターがあります。作りたい物を選択し、ダンジョンポイントを使って製作していきます」


僕の良く知っている幾つかのダンジョンゲームに似ていて、早く作りたいとワクワクです。


「これは、僕にやり込めって言ってるよね」


実を言いますと、僕の前の趣味はゲームを楽しむ事で、人は僕の事を廃人と呼びます。それもダンジョンと名の付くジャンルだけで、あらゆるダンジョンゲームをやり込みました。


「出来るだけモンスターにポイントを使う事が重要です。ですが上位のモンスターは消費が高いので、使うとしたら上級生になってからでしょう」


黒板とダリア先生の説明は作る事やモンスターの配置と、とても具体的で何をどうすれば良いのか分かりません。だけど僕にはその先が見えていて、早く作りたいとダリアさんに要求しました。


「何を言ってるのですかアレシャス様、ここでは製作まではいたしませんよ?」
「え?・・・どうしてかな?」


教えてもらうのだから少しくらい作るよねっと、密かにワクワクしていたけど、それが静かに落ち着き始めた。


「簡単ですよ、製作にはポイントが必要なのはお教えしましたが、得られる方法がここでは行えません」
「取得方法ってそんなに難しいの?」
「難しいと言いますか、規則でそうなっています」


そんな!?っと、僕は机に顔を付けてガッカリしたよ。どうしてそこまで落ち込むのかと、ダリアさんは授業を再開して黒板に文字を追加していきます。
ダンジョンポイントは指輪にする事が出来て、国に税として納めるのがダンジョンヒューマンの仕事だとダリアさんが教えてくれます。


「より良いダンジョンを作り、ダンジョンポイントを沢山納める者には、それに似合った爵位が与えられ、10年に一度行われる王位争奪戦で優勝すれば、次期国王にもなれるのです」


凄く遠い話をしていると、熱を持って語っているダリアさんにツッコミたいです。だって僕は平民からの出なんです、さすがに優秀でも王様なんてあり得ません。
本音と建て前は違う、そう思いながらもダリアさんの話を聞き、何とかダンジョンを作れないかと密かに思っていました。


「指輪にポイントを注ぐには、指輪を作るところから始めます。ダンジョン玉を作る時の様に念じれば作れますが、注意としてポイントを注がない様にしなくてはいけません」


念じるとか思い込みながらと、ダリアさんは曖昧な説明をしてきますが、それはダリアさんが出来ないからで仕方のない事だと、僕は納得をして問題のポイントの質問に入ります。
それよりも、僕の知りたいのはポイントの取得方法です。それはダンジョンゲームでも必要とされたのがあったけど、それをここでもするのかと少し不安でした。それでも手を挙げ聞いてみます。


「ダリア先生質問です。ダンジョンポイントの取得方法ってどんな事がありますか?」
「アレシャス様、ダンジョンポイントを取得する方法はただ1つ、モンスター討伐時だけとなります、それ以外はございません」


質問の答えに、僕は少しホッとしていました。ダンジョンゲームだと、ポイント取得には侵入者の討伐が入るんだ、それが無くて安心したんだよ。
モンスターの討伐しかないけど、僕には十分と前向きに考えた。そしてやっぱり試してみたい衝動に駆られたんだ、何とか作れないのか、ダリアさんに聞いてみます。


「例えばの話ですか?」
「うん、今の僕は作れるのかな?」
「ポイントは持っているので、作る事は可能です」
「へぇ~」


僕は嬉しくてニヤ付いたけど、それを見て決して使わない様にとダリアさんに念押しされます。ここで素直に返事をするけど、それが嘘なのは言うまでもないよね。
誰にも気づかれない時間は、僕の生活習慣には沢山ある。決められた生活をしていて良かった事もあったと、僕は凄くニヤニヤしちゃったよ。


「その顔は、アレシャス様作るつもりですね」
「ま、まさかそんな事はしないよ」
「ほんとですか?」
「ほんとだよダリア先生、先生のお話はとても楽しいから嬉しいだけだよ」


はははっと、僕は誤魔化し次に進んでもらおうとします。ダリアさんはそうですかと笑顔で授業を再開させたんですけど、その前の一言を聞いて僕は愕然としています。
こんな状態では授業内容が入って来ない、だけどこれを聞くわけにもいかないんだ。


「ダンジョンヒューマンは、ダンジョンに入れない・・・そんな事ありえないよ」


ダンジョンを作る者はダンジョンに入る事が出来ない、ダリアさんはそんな衝撃の事実を打ち明けられた。学園ではダンジョン科と言うクラスと普通科があり、普通科は戦闘科と呼ばれ生徒たちは騎士や魔法使いを目指しています。


「その生徒たちにダンジョンを探索してもらいポイントを稼ぐのです」


戦闘科の生徒たちをダンジョンに入れてポイントを稼ぐ必要がある。そのポイントでダンジョンを強化していくのが学園での生活で、僕がここで作ってはいけない原因です。


「ダリアさんたちと仲良くなれば入ってくれるかな?」


チラッとダリアさんを見るけど、きっと断られて叱られて終わります。どうして僕が入れないのか、それは分からないけど僕は試してみたい、今夜にでも実行だよ。
その為にも授業を聞こうと黒板に注目します。そこには今日の最後の議題が書かれていましたよ。


「では最後に、アレシャス様ご自身のステータスの事をお話ししましょう」


ダリアさんのペンが止まると、そこにはゲームでよくあるステータス欄が記載されました。名前から始まりHPにMPと順番に書かれていて、最後はスキルと記載されます。
数値は100前後で人それぞれ少しだけ違い、黒板に書かれている数値は人種の成人男性の数値だそうで、世間で基準とされている数値です。


「冒険者たちはこれを基準にモンスターの強さを表しています。まず間違えてはいけない事ですが、ダンジョンステータスとは全く違い、アレシャス様ご自身の体の強さと思ってください」


ステータス欄を1つ1つ説明してくれるダリアさん。僕はそれをウンウン頷いて聞きますけど、ゲームではよく見るモノなのであまり関心がありません。
そう思っていた僕は、あれ?っと疑問に思う内容が耳に入り顔を上げます。それはユニークスキルの存在で、ダンジョン製作はそこに記載されるそうです。


「ダリア先生、自分のユニークスキルで作ったモノなのに、所有者は入れないの?」
「またその話ですか?ダンジョン製作は支援型のスキルなのです。だから所有者は入れず、それ以外の者が入って訓練が出来る、ダンジョン内でその者たちが命を落としても、その者はダンジョンから退場するだけで生きて戻って来るのですよ」


ダリアの答えを聞いて、なるほどっと返答し先に進んでもらいます。ダリアさんも分かってもらえてうれしいのか、ニコニコして先に進みます。


「支援型だからっておかしいよね?」


僕は諦めてません。ダンジョンに入れない理由に疑問を持ったし、支援型のユニークスキルと言うだけで入れないのはおかしいよ。
一度試してみてダメな理由を考えたいと夜の実験が楽しみになった。そこでダリアさんの授業が最後の仕上げに入ります。


「それではアレシャス様、ステータスオープンと唱えて出しましょう」
「はい」


【ステータス】
〈名前〉アレシャス
〈レベル〉1
〈HP〉100〈MP〉500
〈STR〉10〈DEF〉10〈AGI〉10〈MND〉10
〈スキル〉剣術レベル2
〈ユニークスキル〉
・ダンジョン製作


「今見えているステータスは他人には見えません、どうですかアレシャス様?ちゃんと出現しましたか」


ダリアに頷いて返事をしましたけど、僕が声を出せなかったのには理由があるんだ。僕が出したステータス欄には、さっき教えてもらったモノ以外に記載されているモノがあり、これが世に言う転生者チートと言うモノだと瞬時に思ったよ。


〈ダンジョンボーナスポイント〉5
・所持ダンジョン数1
・モンスター出現率1
・モンスター覚醒率1
・???
・???
・???
・???
・???
etc


僕が特別なんだとしたら、もしかしたらダンジョンにも入れるんじゃないか。そう思えてならないので今夜は絶対に挑戦すると熱が入ったよ。
それを見て、ダリアさんはステータスを見ていると勘違いして、剣術でもスキルにあったのかと言い当ててきます。しっかりと訓練している証拠で、まじめですねと褒められ僕はテレちゃったよ。


「最後にもう一度言いますが、そのステータスはご自分の体のモノで、ダンジョンステータスとはまったく違うモノだとご理解くださいね」
「うん、それは分かってるよ、ありがとうダリア先生」


僕の身体とダンジョンは別、そう言いたいダリアさんだけど、最後の欄がある時点で僕自身にも何かあるのだと感じていた。これが成功すればやり込みがいのある問題として浮き上がり、僕は凄くやる気が出て来たよ。
夕食の時、つい嬉しくてリーナとナースナを名前で呼んでダリアさんの授業の話をしたんだ、返事は貰えなかったけどとても楽しい食事になったんだよ。
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