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2章 1年1学期前半

43話 依頼

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「さてと、学園も落ち着いたし、そろそろ冒険者の方を進めようかな」


初の授業を受けてから3日が過ぎました。
サイラスたちはあれから頑張っていて、僕のダンジョンに率先して入るようになり、今では学年で1・2を争う実力と噂され、僕ともとても仲良くなりました。


「サイラスたちを見るから、午前中は授業に出て昼食を取る様になったけど、シャンティの紹介をした時はホッとしたね」


装備を出して独り言が止まりません。
サイラスたちは、他種族を見下さず対等な立場で接してくれたんだ。


「装備も提供して友達にもなれたし、ここまで仲良くなれるとは思ってなかっよ」


いつの日か、孤児院の話も出来るかもと楽しみでいるけど、それはもう少し掛かるかと他の案件を考えます。
他の孤児院も順調で、後は冒険者だけと言う段階なんだけど、別に冒険者を味方に付けなくても良いとシャンティもからは言われてるんだ。


「レベルが上がってるからシャンティはそう思ってるけど、基礎を知ってる冒険者は必要なんだよね」


前とは違い、今度はしっかりとした計画を持ち黒いローブを羽織ります。
フードを深く被り姿まで変更して、誰にも気づかれないようにして目的の建物に向かったんだ。


「他の孤児院では使ったけど、隠蔽効果が付与されているこれは便利だね」


普通に歩いていても誰も気付かず、僕は簡単に冒険者ギルドに到着した。
隠蔽効果だけを解除して中に入ると、僕を追いかけて来た奴らが正面の待合所にいたよ。


「大人に見えるはずだけど、それでも同じ様に見て来るんだね」


とても怪しんでくるけど、そいつらに構っている暇はありません。
僕は受付に直行し、そこでも同じ視線を感じているけど、顔を見せてないから仕方ないと諦めます。


「な、なんのご用でしょうか?」


受付のお姉さんがひきつった顔で対応してくれたので、僕は何も言わずに羊皮紙を受付の机に出しました。
そこには僕の依頼内容が書いてあり、受け取った受付嬢さんは、紙と僕を何度も見返してきます。


「ちょっとあなた、これは本気ですか?」


このローブは声の変化はしませんから、喋ると子供だとバレるので頷くだけで返事をします。
そのせいで余計怪しいとジロジロ見られ、同時に依頼内容も信じられない内容だからか、とても嫌そうです。


「銅貨5枚で指導の依頼で、対象は孤児たちですか?」


依頼内容を復唱されて僕は頷いて見せました。
お姉さんは本当に依頼するのかと何度も確認して来て、その度に僕が頷いたよ。


「あのねあなた、こんな金額で冒険者が雇えるはず無いでしょ」


紙をバシバシ叩いて僕を睨んできて、直す様に紙を押し返してきます。
でも僕は、それを更に押し返してみせた。


「あ、あなたね、顔も見せないし、あまりいい加減な態度を取るなら、迷惑行為と見なしてつまみ出しますけど、よろしいですか?」


お姉さんはとてもお怒りの様で、他の職員に視線を向けいつでもつまみ出す準備を始めます。
これだから冒険者ギルドは面倒なんだよと、僕は更に追加の紙を出し要求しました。


紙に書かれた内容は、ギルドマスターと話をさせてほしいといった要求で、貴族の方からの依頼だから秘密裏にしたいことも書いたんだ。
受付のお姉さんは、機嫌が悪いままで怒って奥に入っていきましたよ。


「姿を隠してる人がギルドマスターに会いたいって言ってきたら、まぁあんな反応で対応に困るよね。それに自分の忠告は無視されて怒ってたけど、はたしてうまく話に乗ってくるかな」


少し心配になりながら待っていると、受付のお姉さんが帰ってきて奥に通されました。
ギルドマスターが待っている部屋に入ってホッとしている僕ですが、フードを被ったままで向かい合っているソファーに座ったので、ギルドマスターは怪しんできたよ。


「ふむ、私を前にしても顔を見せないのか。それで、まだそのままで話すつもりかね?」


ギルドマスターの髪が逆立ち威圧をしてきましたが、それでもフードは取らずに頭を左右に振りだけです。
ギルドマスターの耳は長いので、どうやらエルフさんみたいです。


「ほう、じゃあどうしたら良いのかな?」


顔がすごく綺麗で整っている男性エルフさん。
最初からそうだとは思いましたけど、こちらの意図を読んでもらえなさそうなので、僕はフードのままで受付のお姉さんの方に顔を向けました。


「ああ、そう言う事か」
「ギルドマスター!?」
「いいから、出て行きなさい」


この受付嬢さんには見せられないと意味を込めたのは伝わったのか、ギルドマスターは手をひらひらさせてお姉さんを退出させてくれた。
かなり嫌々でしたけど、お姉さんは退出し僕はホッとしてギルドマスターに頭を下げます。


「頭は下げるのだな」
「はい、それに声ももう出しますよ。先ほどからの無礼を謝罪します」


フードをとり謝罪を口にします。こんなに注意しているには理由があり、前に商業ギルドで裏切った人がいたからです。
その時は姿を見せてなかったのが幸いしたんだけど、冒険者ギルドはどうしても学園側に重要な情報が流れてしまうんだ。


「ほう、子供だったか」


僕の姿を見てギルドマスターは驚いていますけど、その顔が更に驚くだろうと笑いそうです。
何せ依頼以上に条件などを提示もありますし、それを守らせる為に出す報酬が大変なモノだからですね。


「それで、君のような子供が私に何の用なんだ?」
「実はですね、この街の孤児院を良くしたいんです」


簡素な答えにギルドマスターは吹き出して笑って来たけど、僕はいたって真剣です。
そんなに可笑しいのかと聞きたいくらい、今でも子供たちは困っているんだ。


「弱い者を助けたいと言うのがそんなにおかしいですか?」


ギルドマスターはいつまでも笑いを止めなかったから、僕はさすがに苛立ってきた。
強い者が生き残る冒険者稼業のトップだから、弱い人の考えが分からないんだろうね。


「何を言うかと思えば・・・お坊ちゃんよ、それがどれだけの費用が掛かるか分かって言ってるのか?」


笑い終わったギルドマスターは、急に口調を変えてテーブルに足をドカンと乗せてきます。
態度を変えて現実を見ろと態度で見せたんだろうけど、僕なら出来るんだ。


「全てを改善したら費用はそれなりに掛かるでしょうね」
「多少なんてモンじゃないぞ」


僕はすでに食事を改善していますし、費用的には掛かっていません。
今から支援したいのは、冒険者を通してできる衣類と住む場所です。ティアたちの方みたいには出来ないからここに頼ったんだ。


「お金が掛かるのは分かってますけど、それほど難しくないですよ。これ見てください」
「な!?」


手っ取り早く分かってもらう為、僕はあるモノをテーブルに乗せました。
収納鞄から出した為、普通はそっちの方に驚くんだろうけど、ギルドマスターはテーブルから足を降ろし、膝に手を置いて前のめりになってジッと見てきた。


「こ、これは本物か」
「それは見れば分かるのでは?」


僕の顔ほどもあるドラゴンの鱗が1枚、テーブルでキラキラと綺麗に光っていて、ギルドマスターは目を輝かせて離せないでいた。


「普通のドラゴンなのに綺麗ですよね、これだけでもジャール金貨100枚にはなります、どうですかギルドマスターこれでたりますかね?」


まだまだあると言う感じで質問をぶつけて見ます。
それは相手に伝わったようで、さっきまでの見下した態度は無くなり、僕を理解した表情を見せてくれた。


「あなた様はいったい何者ですか?」
「僕が誰かなんてどうでも良いんですよギルドマスター」


これでやっと前に進めると、僕はもう一度同じ質問をしてまます。
ギルドマスターは今度は真剣に聞いてくれたのか、考えた末の質問を僕にぶつけて来た。


「たしかに費用は十分なようだ、しかしこちらの依頼書は内容がダメすぎる」
「それはそうですよ、ワザとそうしてるんですからね」
「そうでしょうね、ですがどうしてですかな?」
「それは、信用できる人物を探したいからです。その金額ならまず普通は受けないでしょ?」


なるほどっと、ギルドマスター納得してくれた。
これは優しい人たちを見つける為の作戦で、詳細を聞くまでの行動がそれを判断させるんです。


「ふむ、普通は安いからと見向きもしないだろうな」
「でも優しい人なら、孤児院の為に少しでも手を貸そうと詳細を聞こうとします。そこがミソなんですよ」


僕の方で読み書き計算を教え、戦闘系のスキルを冒険者から習う為の依頼なんだ。
護身用程度の教育と分かれば、時間はそれほどかからずに教えてもらえる。


「ふむ、それ位なら妥当か」
「まぁ信用出来れば次に行く予定何で、最初はその程度です」


ダンジョンの事もレベルが高いと言うのも伏せますが、子供たちの将来の為と言うことは確かで、しっかりと教育をしていきたい気持ちは伝てます。
後はそれに相応しい冒険者を雇えるかと言う問題で、正直今日見た中にはいなかった。


「更に言いますよ、他の区画にある冒険者ギルドにも話を通して貰いたんです」
「ふむ、その報酬はこれくらいは貰えるのかな?」
「勿論」


テーブルの鱗を指差してきたので、僕は即答して答えます。
ギルドマスターに動いてもらうので、報酬はそれ位が妥当と相手は嬉しそうです。


「だがな、基本の指導をするにしても、報酬に銅貨5枚は少なすぎるぞ少年」
「僕はアレシャスというので、そう読んでください。それに報酬の銅貨5枚は引っかけなんですよ」


その報酬は時給だと僕は答えます。
もちろん子供たちと仲良く出来ない様では困る為、最初は銅貨5枚で通す予定です。


「なるほど1日ではなく1時間、それも一人と言うわけだな・・・確かにそれなら分からなくて慈善事業と思うな」
「掲示板に貼られるても内容までは分からないですから、詳細を聞くのは受付で聞いてからでしょ?その場合、雇えるわけないって怒る冒険者がほとんどで聞こうともしない。その人たちは受けないしこちらもお断りです」


そこで選別も出来て更にはブラックリストにも出来る。
そんな中で詳細を聞く優しい冒険者がいれば、相場以上だと理解して雇えるというわけで、受付嬢さんに聞かれたくなかった理由です。
信頼できるか分からない人に聞かれると、それだけで作戦は破綻する。


「秘密の話と言うのはそう言う事か」
「はい・・・実を言いますと、ギルドマスターが信用できなかったら、冒険者を雇う考えは諦める予定でした」
「ではワタシは合格と言う事かな?」


頷いて、フードを被っている時にそれは確かめていたと教えます。
フードを取ったのは、成功すると信じたからだと話を進めたんですよ。


「そこまで考えているのか・・・君は何者なのかな?」
「僕が何者かはそんなに重要ではないですよ。僕はただのアレシャスというヒューマンです」


孤児院を救いたいって事が重要で、職業も身分も関係ないとドラゴンの鱗を更に出してギルドマスターの方に押しました。
今テーブルにある鱗とは別に手間賃代わりと伝えて引き渡したんです。


「ほ、ほう・・・これを頂けるのかな?」
「これは、急な訪問と迷惑料を掛けてしまった事への手間賃と思ってください。報酬はこちらです」
「なっ!?」


収納鞄から、更にドラゴンの牙を出してテーブルに置きます。
僕の依頼の報酬は、鱗1枚と牙1個だと分かり、ギルドマスターはさすがに顔をヒクつかせて驚いたね。


「これは前金と思ってください、他のギルドが依頼を受けてくれれば成功報酬を更に出します」
「う、嘘だろっ!!」


更に僕が出した他の品は、テーブルにギリギリ並ぶ量だったけど、ドラゴンの素材が並んだから信じられない様で、目を白黒させていたよ。


「ドラゴンの爪に瓶に入った血液、それと皮と肉を出しましたけど、この他に臓器系や目玉もあります」
「こここ、これを好きな物を頂けると」
「いえ、これ全部です。他のギルドに協力を要請するのは、かなり大変でしょうからね・・・どうでしょうかねギルドマスター」


笑顔の僕から視線を品物に移したギルドマスターは、唾を飲みこむ音がしてかなり興奮しているのが伝わってきました。
それだけ高価な物だから分かるけど、ギルドマスター個人に頼むんだからそれ位必要だよねっと、僕はまだまだ出す気持ちを前面に出します。


「説得に必要な物は言ってください。僕は成功させる為なら何でもします」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、何ならこれよりも上の素材でも良いです。冒険者ギルドに協力してくれる事は、それだけ大事なんです」


ギルドマスターは心が決まったみたいで、品物を見ていた目のまま、凄くキラキラした目で僕を見て来たよ。


「分かりました!その依頼、南支部のギルドマスターララトイ・イズ・パレーランスが受けさせてもらいます」
「それは良かったです。では僕はまた姿を隠しますので、職員に指示をお願いします」


しっかりと握手をして名乗ってもらえて契約完了です。
本来なら書類を作ってサインをしておきたいけど、これは裏取引なので作れません。
ギルドマスターが裏切ったら作戦は終わりますけど、きっとそれはありません。


「だってさ、僕の前でスキップしてるんだよ」
「ふんふふ~ん」


フードを被ってまた怪しい姿になり、僕はそんな心配を無くしていました。
そしてすごく元気なララトイさんは、ギルドの受付の前に出ると職員たちに声を掛けて指示を出してくれました。


「後は、うまく目的のPTが受けてくれるかだけど、なにせその人たちは実力が低いからねぇ・・・少しテコ入れをしておこうかな」


ギルドを出た僕は、南の孤児院に向かいネコ忍たちにお仕事を頼みました。
ムクロスたちは飛び上がって喜び、報酬のマタタビ茶を貰えると踊り始めた。
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