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2章 1年1学期前半

46話 異様な依頼

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「あのあの、これってさすがに」
「銅貨5枚って、無理でしょ!」


ワタシたちは日が落ちてからギルドに着き、問題の依頼書を探して見たんですけど、1つ星から3つ星用の依頼で、孤児院の子供たちに教育をしてくれと言うものがありました。
でも、この内容では誰も受けないって言う程の少額報酬で、どうしましょうって感じです。


「ん、これはさすがに無い」
「あのあの、孤児院ですし・・・お金に困ってるからだと思います」


アーロの意見も分かり、ギリギリのお金を集め何とか依頼を出したんだと想像したわ。
ワタシはあの子供との約束通り、依頼書を持って詳細を受付に聞きに行きました。
あの子供に言われてなければ、聞きに行く事すらない程の内容で、何だかとっても怪しいと感じてます。


「冒険者ギルドにようこそ」
「メイシェンさんすみません、ちょっと聞きたいのですけど」


一番右端の受付に行き、座って書き物をしていたメイシェンさんに挨拶をしたんです。
メイシェンさんが挨拶をしてくれたけど、ワタシの持っている依頼書を見て、それはもう嫌そうな顔をしてきましたよ。


「またですか、これで10組目ですよ。どうせあなたも【こんな金額で依頼を出すだけ無駄だ!引っ込めろ!】とか【俺たちをバカにするな!】って言うんでしょ?」


どうやら他の冒険者PTは、止めさせろとか言ってきた様で、その対応に困っていたみたいです。
まぁ掲示板に貼る依頼書は、それほど細かく説明は記載しませんし、それなのに報酬が銅貨5枚ですから無理もありません。


「まったくどいつもこいつも」
「違いますよメイシェンさん、ワタシは詳細を聞きたいんです。それで、内容によっては受けようか決めます」
「え!?・・・ほんとに?」


メイシェンさんが聞き返してきたので、ワタシは頷き肯定しましたよ。
普通に考えれば受ける人はまずいません。でも、それは依頼した方も分かっているはずだから、詳細を聞けば納得出来るはずだと、ワタシたちの気持ちを伝えたんです。


「じゃあ話すけど依頼元は匿名なの。それでね、どうやら孤児院の関係者じゃないみたいで、影で孤児院を助けたい何処かの偉い人らしいわ」


メイシェンさんは、その依頼主の容姿を教えてくれたのだけど、明らかに怪しくてワタシはギルドの方が心配になったわ。
フードを深々と被って、いかにも怪しい感じの人の依頼を受理するなんて、誰が考えてもおかしいとツッコミたいわ。


「平気なんですか?」
「それは分からないけど、その依頼を受理させたのはギルマスなのよ」
「「「「え!?」」」」


メイシェンさんの話しはそこで更に奥に進んで行ったわ。
その人はギルマスと二人だけで話をして、ギルマスが依頼を通したそうなんです。


「ど、どうしてギルドマスターは受け付けたんですか!?」
「う~んそれがね、詳しくは教えられないのよ、ギルドマスターが箝口令をだしてしまってね」


ワタシはそれを聞いて少し緊張しました。
怪しいその人は、最初にメイシェンさんが対応し渋っているのが分かると、紙にギルドマスターと話をさせてほしいって書いたそうなの。


「最初はアタシ、ギルマスにボコボコにして貰うつもりだったんだけどね」
「まぁこの内容じゃそうだろうね」
「そうなのよロジーナちゃん、だけどそうはならなかったわ」


しばらく怪しいその人とギルドマスターの密談が応接室で行われ、ギルドマスターが笑顔で出て来ると、ギルド員を集め依頼書を通したそうよ。


「なるほど、だから冒険者が引っ込めろって言ってきても、そのまま依頼書は貼られているのね」
「そうそう。どうせ誰も受けないし、あってもなくても同じなら剥がすこともないわ・・・って思っていたのだけど、あなたたちって、新人PTだったわよね?」


メイシェンさんはワタシたちのPT名まで言っきたわ。
そしてほんとに受けるつもりって目をしてきたの。


「シーラちゃんがリーダーよね、こんな額でも受けるの?」


確かにかなり怪しいわ、でも初見なら怪しいって思って見向きもしないけど、あの黒服の子供が言っていたことも気になるし、ギルドマスターが容認してるなら、きっと平気よね。


「平気ですよメイシェンさん、さすがに銅貨5枚は安いですけど、午前中だけとか交渉して見ます」
「まさか、ここまで計算ずくとは思わなかったわね・・・あのね、この報酬の額って、実は1時間なのよ、時給って事ね」
「「「「はい?」」」」


ワタシたちは聞き返してしまったわ。
普通冒険者を雇う場合は一日と考えます。


「1時間って・・・じゃあ」
「そうよシーラちゃん。何時間も掛けて薬草を探すよりも高額になるわ」


計算の出来るアーロに振り向くと、なるほどって顔していたわ。
つまり、これなら報酬はバッチリって事よ。


「しかもね、これって1人1時間で銅貨5枚なのよ、分かるかしら?」


メイシェンさんに言われ、ワタシは頷きました。
つまり、全員で朝から夕方まで指導すれば、その分だけもらえるという事です。


「朝9時から昼12時まで指導したとして、3時間を4人なら銅貨60枚。シーラ」
「そうねアーロ、これはいけるわ」


でも、それなら依頼書に書けば良いのにっと、疑問が生まれたの。
分からないようにしている理由があるとすれば、依頼を受ける冒険者を選ぶ必要があると言う事で、きっと相当事情のある依頼主なんでしょう。


「詳細を見てアタシ思ったの、これは誰にも気づかれずに孤児院を助けたいんだってね。それを表だって言えない依頼主で、顔は分からないけど頭が良くて良い人だと思うのよ」
「まぁ頭は良いかもしれませんけど」


メイシェンさんは、明後日の方を見ながら指を組んでウットリ祈り始めました。
確かに成人様って思ってもおかしくは無いですけど、そんな人がいるのかとワタシは疑問よ。
世の中そんなに甘くない、美味しい話しには裏があるモノで、弱い方はそこで負けるんです。


「受けることには反対してないんですね」
「反対なんか絶対しないわ!むしろね、こうやって話を聞いてくれる冒険者がやっと出てきたかって、私怒ってるんだから、もっと子供たちの事を考えなさいよね!」


そう言ってガミガミ言っていますけど、依頼書を外せとか言ってくる奴らばかりで、相当溜まっているみたいです。


「金額的に問題ないですから、ワタシたち受けますよメイシェンさん」
「ありがとう、じゃあカードを貰えるかしら?」


みんなでメイシェンさんにカードを渡すと、ウキウキして依頼を受理してくれました。
そしてカードを受け取る時、銀貨をそれぞれ1枚カードに乗せてくれたんです。


「あのあの、これって」
「ぬふふ~それは準備金よ」


前金も用意されていたとメイシェンさんがウインクしてきて、この依頼は絶対当たりだと思ったわ。
おかげで宿にも泊まれて、久しぶりに布団で寝る事が出来ました。


「じゃあ行くわよみんな」
「何だか怖いわね」
「ロジーナは心配し過ぎ、きっと平気」
「あのあの、アーロも頑張ります」


睡眠も十分なワタシたちは、朝から早速孤児院に向かったんですが、建物を見て絶句しています。


「こ、こんなにボロボロなの!?」


ロジーナが白い教会の様な建物を見て叫んだけど、みんなもワタシも同意見よ。壁は至る所に穴が開き、屋根は強い風が吹いたら飛んで行きそう。


「ネム、これの何処か平気なのよ」
「勘違い?」


こんなところに子供が住んでるなんて可哀想で、今すぐにでも助けてあげないといけないと思ったのよ。
でも、それにはワタシたちの力では出来なくて、凄く悔しくなったわ。


「あのあのシーラ、まずは教育よりもここを直した方が」
「アーロ簡単に言わないで!建物の修理なんてそう簡単には出来ないわ。お金も掛かるし、その間どこで寝泊まりするのよ」
「あう・・・そうですね、ごめんなさいシーラ」


アーロに怒鳴ってしまい、八つ当たりの様になってしまったとアーロを撫でて謝ったわ。
ワタシたちを雇った人がどうしてこっちを直さないのかしらと、そっちの方に怒りを向けたのよ。


「なんだか、順番が違った感じね」
「そうねロジーナ、これはワタシたちが指摘しないとだわ」


ワタシたちを雇う前にまずこちらでしょっと、みんなで文句を言おうと決めて孤児院の門を通ったわ。
そこでは子供たちが走り回っていて、ワタシたちが心配している様な状況じゃないように感じたの。


「子供たち元気一杯」
「ほんとね、何だかアタシも走りたくなってきたわ」


ネムもロジーナも少しソワソワしていて、責任者と話してからねと念押しして止めました。
え~っとワタシを見て来る二人だったけど、そんなに時間は掛からないわ。


「きっとあの子がそうよ」


建物から更に子供たちが出て来て、その中に年長者っぽい子が見えたからです。
あの子と話をすれば直ぐに遊ぶことが出来るとふたりに伝えたのだけど、そこで子供たちに違和感を覚えたのよ。


「元気なのは良い事だけど、服は綺麗だし、何より痩せてないわ。なんだか建物とチグハグね」


一番身長が高く耳のとても長い子供がワタシたちの方に走ってきて、ワタシよりも健康そうだと思ったわ。


「あの子大きいわね」


べ、別に胸が負けたとか思ってないわよ。
走って来る子の胸が揺れていただけ、そう自分に言い聞かせて、みんなの先頭に立ったの。


「もしかして、依頼を受けてくれる冒険者さんですか?」
「ええそうよ、ワタシはシーラ、このローズPTのリーダーをしているわ」


耳の長い子供も名乗ってくれて、握手を交わして仕事の内容を聞く事になったわ。
当然みんなも自己紹介をしたんだけど、ボロい建物に案内されてちょっと困ったのだけど、それは建物に入る前までで、ワタシたちは玄関で動けなくなったんです。
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