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3章 1年1学期後半

56話 選択肢

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「君たちがダンジョン参加者ですか」


ダンジョンバトルから1ヶ月、そろそろ期末試験が始まろうとしている時期になりました。
そんな誰もがソワソワと忙しい時に、何と僕のダンジョンに新たに入りたいと言う、凄く珍しい生徒が現れたんだ。


「そうですよアレシャス君、自己紹介は後でしてもらうとして、どうですか?」
「どうと言われても、僕は反対はしません」


サイラスたちの為に授業に顔だけを出していたけど、まさかあれだけ悪評なダンジョンに、お願いだから入れて下さいと言ってくる生徒が出て来るとは思わなかったよ。
バルサハル先生に呼び留められ、授業にしっかりと参加しなさいって言われてしまった事から始まったけど、ほんとに驚きです。


「ですけど、彼らは2年生ですよね?」
「色々あるんですよ」


普通は同じ学年の生徒のダンジョンに入るのが普通で、今回は異例だそうです。
何でも、それにも理由があったらしく、先生は嫌そうな顔をして言ってきたんだよ。


「サイラス君たちが実力を飛躍的に伸ばしているのです。そしてそれは、あなたのおかげだと言い回っていて、それが他の科で話題になり、参加を希望する生徒が絶えません。本来とは違うのですが【ゴホン】ですので、授業にしっかりと参加しなさい」


咳ばらいをする前のが本音だねっと、僕はツッコまずにサイラスたちが頑張っていて喜ばしいと感じたよ。
サイラスたちは、上級生のダンジョン貴族たちにも声をかけて貰っているらしく、それだけあのキングクラスでのバトルは注目されてたんだ。


「脱落者なしはそんなにすごい事だったんですね」
「そうです、だからあなたには、それに応える責任があります」


死人なしで倒したのは賞賛される事で、是非上級生のダンジョンにも入ってと誘われたそうです。
でもサイラスたちは断り、午前と午後両方とも僕のダンジョンに入りたいと言ったのが切っ掛けで、僕のダンジョンも注目され始めてしまった。


「分かりました、2年生の先輩方、よろしくおねがいします」
「あの、よろしく」


新たに入る生徒は2年の先輩で、みんなとてもびびってます。
普通なら、授業に参加しない僕の評価は低く、サイラスたちにありがとうと言うのが普通だけど、僕としては困っています。


「では、わたくしは他の生徒を見て回ります」


バルサハル先生がそそくさと離れていき、僕は先輩たちの誤解を解こうと考えます。
サイラスたちは、個人的に僕と契約しているという噂があり、あのダンジョンは凄いのでは?っと考える生徒が増えてしまった。


「個人契約は専属契約と言われてますけど、ダンジョンの基盤が出来上がっている3年生からするのが普通ですよね。なのでまだ契約してないんですよ」
「そ、そうだったんですか・・・よ、よろしくおねがいします」


僕のダンジョンに参加したいPTは5つで、僕を怖がって順番に怯えて挨拶をしてきます。
最後にはサイラスたちの後ろに隠れてしまい、噂が広まっているのは喜ばしいのだけど、上級生にそこまで怖がられるとちょっとショックです。


「そんなに緊張しないでください」
「す、すみません」


緊張しながらも挨拶をしてくれる2年生の先輩たちは、他種族で組まれたPTで、僕はそれを聞いたからあまり拒否をしなかった。
僕と同じで、他種族の生徒たちはのけ者にされているんです。
2年生には上がれたけど生活はかなり厳しく、藁にもすがる感じで僕の所に来たようなんだよ。


「謝らなくて良いですよ。え~知ってると思うけど、僕はアレシャスです」


サイラスたちの後ろにいる生徒が、僕の自己紹介を聞いて顔を見合い、自分たちもと思ったのか名乗ってくれました。
PTは各獣人でまとめていてネズミにネコにイヌ、それにドワーフとエルフと固まってる。


「皆さん4人PTですけど、それには理由がありますか?」
「いえ、特には」


みんな魔法士と騎士が半分ずつで、レベルはなんと6から7です。
もう1学期も終わろうとしているのに、今のサイラスたちより低いから、それは2年生で付いていけないわけですよね。


「僕のダンジョンを選んでくれてとても嬉しいです、これからがんばってくださいね」


僕が笑顔で言うと、みんな不思議そうな顔で返事をして頷いていました。
きっと、他種族にそんな挨拶をするダンジョンヒューマンはいないんだ。
シャンティを雇っている僕が他種族を嫌うはずないのにと、僕はちょっと膨れて門を出したんだ。


「じゃあ入ってください」
「お、おいおいアレシャス、誰が最初なんだ?それをまず決めてくれよ」


サイラスがすごく焦っているけど、それは当然と言えばそうです。
ダンジョンには入場制限があって、レベルを上げる為にポイントを振り込まないとPT数を上げられない。


「1つ上げたとしても、俺たちは6PTもいるから無理だ」


他の人たちもオドオドしていて、どうしようって顔してるけど、それは問題ではありません。
一番問題なのは遠くでそれを見ている人物で、ジャケン君たちダンジョンヒューマンが興味津々なのが不味いんだ。


「バルサハル先生はニヤニヤしてるし、そんなに困らせたいんだね」
「アレシャス聞いてるのか」


策略が成功したと先生は思い込んで嬉しそうだけど、僕が困ってるのは他の理由だよ。
サイラスたちを交代で入れようとするのが普通で、専属ではないと見せたかったんでしょう。


「聞いてるから心配しないでよサイラス、みんな一緒に入れる様にしてあるんだ、ダンジョンレベルは8だよ」


僕の答えにサイラスたち全員から「はい?」って答えを貰ったよ。
その大きな声を聞き、ジャケン君とケリーさんが立ち上がったね。


「どういうことだ?」
「こんな事もあろうかとってやつだね。足りなかったら、今日上げる予定だったるだ」


今頃バルサハル先生も「そんなバカな」って顔をしてるんでしょう。
ダンジョンレベルを1つ上げるには、500Pを振り込めば上がるけど、次は1000Pで次は2000Pと上がって行くんだ。


「つまり、64000Pまでを振り込んで、合計127500Pを使ったって事だよ」
「いや分からんぞアレシャス、俺たちにも分かるように言ってくれよ」


計算が苦手なのか、サイラスは分からないって悩んでた。
仕方ないので簡単に言う事にしたけど、遠くでジャケン君とケリーさんが怖い顔をしてるよ。


「僕はポイントを使って上げておいたんだよ」
「そう言う事か」
「うん、だから全員入れるから心配はないよ」


入る数を増やせば、それだけモンスターを倒してポイントが入って来る、最初の出費なんて直ぐに元が取れるんだ。
そんな説明をして、僕は門の前で「どうぞ」って仕草をしました。


「だからって、それほどの額を簡単に」
「あ、あの!ほんとにオイラたちなんかの為に、貴重なポイントを使ってくれたんですか?」
「当然じゃないかラーツ先輩。ダンジョンに入ってくれる人に対しての礼儀だよ。でも、僕のダンジョンは難易度が高いからね、みんなで良く作戦を立てながら進んで下さい」


戦いに関しては助言はしません。先輩たちの戦い方を知らないし、僕は孤児院に用事があるんだ。
冒険者が来る様になって、ティアが「大変だ大変だ」って計画してくれてるんだよ。


「それとこれをみんなに配ります、ラーツ先輩どうぞ」
「は、はい」


これから頻繁に入る5つのPTに、サイラスたちにも渡しているバックパックを配りました。
受け取るみんなはよく分かってませんが、これはとてと重要なんだよ。


「あの、これって?」
「みんなが学園から支給された収納鞄の上の奴で、20種類の物が50個入るんだ。それには既にポーションが入ってるから、じゃんじゃん使うようにね」
「「「「「じゃ、じゃんしゃん!?」」」」」
「補充が次の日になっちゃうので、午後の事も考えて使う事を忘れずにして下さい。しばらくはみんなを見てるけど、僕は今後いなくなるので、それではどうぞ」


サイラスたちに渡しているのは、その更に上のバッグボックスと言う奴で、見た目は同じなんですけど、50種類が100個入ります。
それだけ奥に進むには大変で、色々必要なんだと伝えたら、ラーツたちは凄く嫌そうな顔をします。


「心配しなくても、ポーションの代金は取りません」
「そ、そうですか」


それでも嫌そうな顔は治らず、そんなに嫌なのに入りたいの?っと、僕はダンジョンに入っていく先輩たちを見送ります。


「シャンティたちの様に助けてあげたいけど、まずはみんながどれくらいの実力なのかを見たいね」


あまり期待しないで画面を見始めると、後ろのシャンティが顔を近づけて耳打ちしてきます。
ポーションを渡すには、まだ早かったと注意してきて、かなり険しい顔をしてきます。


「そうかな?」
「アレシャス様、彼らがこちらの意図を理解しなければ、計画に支障が出てしまいますよ?」


他種族がこの国のこの学園に来るのは、ある制約があるからなんだ。
他種族の国を領地にした時、優秀な人材を国に派兵させろと決まりを作ったそうなんですよ。


「心配ないさシャンティ、良い品が出ている程度にしか見えないよ」
「そうかも知れませんが、心配です」


彼らには、名誉騎士家の位を与えられるけど、その中でも下っ端として一生こき使われるというのが普通で、僕は酷いと怒ったんだ。
それなのに、彼らは名誉騎士家になろうとするのは、生活と故郷の為でお金などを送って助けてるんです。


「彼らが考えるとしたら、ポーションを売ることくらいだよ、それなら支援するだけだから心配ないんだシャンティ」


学園に入るのに必死で勉強し、入学してもイジメを受ける、そんな中で成績を上げなくてはいけない。
そんな境遇の子たちが頑張って早く一人前になろうとしてる、それの後押しをしたいと僕は思うんだ。


「分かりますけど」


彼らの境遇を考えるだけでも泣きそうだよ。
シャンティはまだ信用できないって思ってるみたいだけど、お金に困れば何をするか分からないって思ってるんだ。


「僕を心配してくれてありがとシャンティ、でも早く支援してあげたいんだ。みんな学食すら節約してる顔してたでしょ?」


シャンティもそれを聞き困った顔をして頷きました。
学食は安く提供されていますが、高い物も当然あって僕はそれを食べています。


「お腹が空いてるのは何よりも辛い」
「そうですね」


ラーツたち貧乏学生はとても安い物しか食べてない。
ダンジョンで手に入れた物を売りたいのに、それほど参加もさせてもらえず、生徒の急な休みとかだけだと、生活は相当大変です。


「分からない様に資金を渡す気ですね」
「うん、学園に売る素材を高額にするくらいだけどね」


僕の情報を売ったりする可能性は十分にあります。
でも、それ以上に僕は彼らを助けたい、シャンティたちを助けた様にね。


「支援しすぎますと、計画にまた変更をしなくてはいけなくなりますよ」
「まぁそうだね、でも他種族と仲が良いとか思われるくらいなら、全然問題ないと思うよ」


バルサハル先生をチラッと見ると、よほど悔しいのか握り拳を震わせています。
サイラスたちの時間も削れず、結果は全員同時参加ですから当然ではあります。


「あのバトルのおかげで、僕がどんなに難易度を上げても評価はされない、今がチャンスなんだよ」
「分かりましたよアレシャス様。ですけど、ほどほどにしてくださいね、孤児院では今大変なのですよ」
「装備とか色々改善したからだね。でも必要だったでしょ?」
「だから心配なんです。ほどほどを考えてください」


学期末にあるダンジョン大会に出場しないのが必須ですよと、シャンティが言って来るけど、それは僕も分かってる。
それを勝ち取るのはジャケン君たちでなくてはいけないんだ。


「まぁ僕の場合は評価が勝手に下がるから、問題はドロップ品かな」
「念に為、ムクロスに調査して貰いましょう、きっと試験前は情報が漏れますよ」
「お願いねシャンティ、じゃあみんなの応援をしよう」


2年生なので、多少のスキルは持っているはずですが、レベルが低い時点で期待は出来ません。
でも、ちょっと戦い方を見たくて楽しみなんですよ。
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