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3章 1年1学期後半

59話 正しくない評価

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「ね、ねぇラーツ・・・あたしなんだか麻痺してきたわ。これっておかしいわよね?」


しばらくダンジョンを進んでいると、横のツィーネが顔をひくつかせて聞いて来た。
モンスターが多かった事も、広さが異常だったのもそうだったけど、今回のこれはほんとに尋常ではないんですよ。


「ツィーネが正しいから安心して」
「そ、そうよね」
「うん、どう考えても今の状況はおかしいんだよ。こんなにすごい装備ばかりが出るはずないんだ」


あのスライムに乗った戦士を倒してから、分岐の先にあるのは全て中部屋だったんだ。
モンスターもあのスライムに乗った戦士しか出なくなり、強敵との戦いが続いた。


「あの剣が3本よ」
「そうだねツィーネ、他はもっとだけどね」

鉄の鎧と兜が10個にブーツが7個と盾が6個も手に入りました。
オイラたちの資金難は、午前中の1回の探索で解消されたと言えるほどの利益を得てしまい、ツィーネも混乱してしまったというわけです。


「そうよね・・・でもそろそろ」


ツィーネが先を言うのを躊躇ったのも、あれが来ると分かっているからで、僕たちがこれからどうするのかを選択する案件です。
誰も言わないので僕が言うしかないと、決意をしてみんなに声を掛けます。そしてみんなの視線が怖かったので、ちょっと躊躇いツィーネにだけ言う感じでみんなに伝えます。


「僕たちの実力だと、次の強くなるモンスターがどんな奴かでギブアップをするか決める、みんなもそれで良いよね?」


普通は全滅して戻るまで戦いますが、僕は痛いのは嫌で、なるべく全滅はしないようにしているんだ。
全滅覚悟のダンジョンは、短くして何度も挑戦出来るように作るので、僕たちのそんな気持ちに反対される。


「そうよね、危なかったら門を開いて貰えばいいのよね」
「そうだよツィーネ、僕たちは方針を変えずに行く」


ツィーネが少し明るくなって先を進んで行きますが、それはどうだろうと考えていました。
僕たちは、死ぬのが嫌で貴族の人に知らせてギブアップを告げていました。


「限界まで戦わないから怒られたけど、死ななくても戦い方は工夫出来ると思ってる」


僕達の戦い方だと、強いモンスターを倒せないと言われ、いつの日か誰も入れてくれなくなったんです。
生き返ることが出来るとは言っても、死ぬのが怖くないはずがないんだ。


「僕は、みんなが死ぬ光景を見たくない、どうして分かってくれないんだろう」


だから、どうしても指示通りしたくなかった。
僕たちに合った戦い方があると思っていたし、ダンジョンが合ってなかったと思っていた。
そして、僕たちに合ったダンジョンに出会えたと、僕は今とても嬉しくなったよ。


「じゃあ開けるよみんな」


最後になるかもしれない部屋の扉を少し開け、予想した状態でないことを祈って中を確認したけど、そこには予想通りの状態で怖くて後ろに下がってしまいます。


「これはダメだ」


中にはスライムに乗った戦士がいるのは当然ですけど、もう1体が魔法使いの容姿をした奴がスライムに乗っていたんだ。


「ど、どうしようか・・・みんなはどう思う?」


ザードたちにも聞いてみたけど、魔法使いが出たと言う事は、ここで魔法科の装備を強く出来るかもしれないんです。
ここで逃げても良いけど、騎士の方は倒し方のコツを掴めてるし、正直勿体ない気がするんだよ。


「なんとか倒せないかな?」
「そうだな・・・俺は今のままでは勝てないと思っている。だが、あの剣をラーツたちが使えば、勝てるんじゃないか?っとも思っているぞ」


ザードの言葉を聞き、僕とツィーネは【げっ!?】って顔をしました。
僕たちが手に入れたプラチナソード3本の内、2本を使えって事ですから、当然僕とツィーネは反対した。


「それだけあの剣は凄いんだ、みんなの憧れなんだよ」


使ってしまうとそれは売れません。
金貨1枚が飛んで行ってしまうと考えれば、使う事はしたくなかった。


「試してみる価値はあると思うぞ、やってみないか?」
「イヤよ!絶対にイヤっ!もしそんなことして刃こぼれでもさせたら、売れなくなっちゃうじゃない、ラーツ!ギブアップしましょう」


ツィーネは断固として反対してきます。
でも、僕は彼女の目を見て、迷っていた事が間違いだって分かったんだ。


「ツィーネ、ここでギブアップは僕たちの方針に反してるよ」
「な、なんでよ!!」


今まで僕たちはモンスターが強いからギブアップして来た。
でも今は、ドロップ品を使う事を躊躇ってるからで、命の危険がある訳じゃない、それは慎重になるのとは違うと感じたんだ。


「僕だってあんな品を使うのはすごく怖いよ、もしかしたら強敵と戦うよりも怖いかもしれない」
「それなら」
「ツィーネ、だからこそあの剣を使うべきなんだ、ここはまだ1階層で、今の状態を怖がっていたら、きっとこの先は進めない。これに慣れる為にも使わないとダメだ!」


アレシャス殿は、いつも授業に参加している訳じゃないと聞いています。
今回は、僕たちが初参加だったので参加してくれただけで次はないかもなんだ。


「ギブアップは出来ない訳ね」
「そうだよツィーネ、だから今の内に強くなっておくんだ」


ここで撤退したらチャンスを失い、死に戻りでダンジョンを出るか、それとも引き返すかになるけど、帰り道を歩く時間は僕たちにとってかなりのロスタイムになる。


「今後は往復時間をいつも考えて戦うから、もうここまではこれないかも知れない。でも、魔法科の装備は手に入らないのは確実でしょ?」
「ま、まあそうね」
「だからギブアップが出来る内はガンガン進もうよ」
「もうっ!わかったわよラーツ。でも、壊してもあたしのせいにしないでよね、金貨1枚なんて、絶っ対払えないんだからね!」


怒りながら手を出して来たので、僕はバックパックからプラチナソードを出し渡しました。
ザードには僕の分を出して貰い握ったんですけど、その時剣から力が伝わって来てふたりでビックリしました。


「魔力を込めたわけでもないのに、手になじむ感じだよ」
「それだけじゃないわよラーツ、振り上げると抵抗が無くて重さも感じないわ」
「ショートソードと全然違うんだね」
「これならいけるわよラーツ」


ツィーネと頷き合い、僕たちは扉を開けて2匹の強敵モンスターとの戦いを始めます。
今までの経験を活かし、最初に武技を放って全員が位置に着く時間を作った。


「っと思ったのに・・・ネサートたちにも魔法を準備してもらってたのに」
「す、すごいわね」


その必要は無くて、僕たちふたりは茫然として騎士の方が消滅していくのを眺めたんだ。
それを見て、みんなは魔法士の方に全力を注ぎ余裕の勝利を収めた。
でも僕とツィーネは、勝利の喜びよりも出現したあれ。


「ね、ねぇラーツ」
「うんネサート、言いたいことは分かるよ・・・うん」


最後の方は、僕の声は小さくなるほどの事態です。
僕は、このダンジョンが怖くなってきてたんだよ、


「あの宝箱が2つあるけど、ほんとにあれよね?」
「そうだろうねツィーネ、これは死んでも進んだ方が良いかもしれないね」


あれには今の威力の装備が入っている可能性があり、それが下に続いてる。


「それは言い過ぎじゃないかしら?」
「ツィーネ、今まで木の箱だったのに、あそこにあるのは銀色だよ、ほんとにそう思うの?」
「うっ!?まぁそうね」


目の前に出現したのは、銀色の金属の宝箱なんです。
今まで以上の何かがあると予感させてきて、僕は天井を見てアレシャス殿に言いたくて仕方なかったです。


「と、兎に角開けようか・・・誰かお願い」


僕は開けたくなくて、近づいて来るザードたちにお願いしました。
でも、みんなも怖いのか嫌がり僕に注目してきます。


「あなたしかいないでしょ、ほらいきなさい」
「ちょっとツィーネ!?」


ツィーネが背中を押して来て、僕はキラキラ光る銀色の宝箱に徐々に近づいて行きます。
嫌だけど、渋々開けることになってしまった僕は、この中の品は絶対僕以外に使わせると心の中で叫んで決めましたよ。


「じゃ、じゃあ開けるよ」


銀の箱を1つに手を乗せると、みんなの唾を飲む音が聞こえたような気がした。
もしかしたら自分のかもしれませんけど、それだけの緊張感が今ここを支配していて、誰か変わってと目を瞑って蓋を開けます。


「何が出てきたのかしら?」
「さっきの魔法士が持ってた杖だね」


ゆっくり目を開けると、背中を押しているツィーネが目を閉じていました。
僕と同じだと笑いそうだったけど、それよりも箱の中身を伝えたんだ。3つも入ってて、かなり動揺してみんなに伝えます。


「ブースタースタッフって言う杖みたいだけど、これは聞くまでもないかな?」


質問をした僕だけど、既に魔法科のメンバーの顔色が語っていて分かってしまったね。
予想通りの答えも質問の後に返って来て、僕たち騎士科は驚きを通り越して呆れてしまいます。


「ちょっとこれは凄すぎないかな」


呟くほどの声だったのに、みんなが頷き僕と同じ気持ちなんだって伝わって来た。
そんな中、オドオドしながら口を開いたのはネサートで、杖の値段を教えてくれたんだよ。


「「「「「金貨20枚!?」」」」」
「あのあの、その杖は魔法の威力を2割増しにしてくれる杖で、この国の上級魔法士が好んで使っているモノなんです」


売る場合、大抵は買値の半額と大体決まっているので、1本金貨10枚で売れるんです。
あれよりはマシ、そう思えて来て装備が使い易くなった空気を僕は逃さず、残りの箱を開けようと話を進めます。


「みんなも分かったと思うけど、モンスターはどんどん強くなる。僕たちは手に入れた装備に怖気づいてちゃいけないんだ」
「確かにな。これだけ出るんだ、俺たちの強さを上げるのも必要だな」
「そうだよザード、だから君も使ってね」


今持っているもう1つのプラチナソードをネサートのバックパックから取り出してザードに渡します。
凄く嫌そうな顔をしたけど、もうそれを効きません。


「あはは、ザードは小心者ね、アタシなら平気で使うわよ」
「言ったなロロフィ」


ザードがやる気を出したのか、残りの宝箱にドカドカと足音を立てて近づき、勢いよく蓋を開けた。
ロロフィは剣が出て来るのを身構えて待ったけど、ザードは動かなかったんだ。
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