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4章 1年3学期

106話 襲撃の対応

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「な、なんなのよこれは!?」


わたしは空を見て戸惑い、どうすれば良いのかと周りを見てます。
今空にはドラゴンが沢山飛んでいて、緊急事態なのが分かるのよ。
そのドラゴンの口から放たれた炎の球で周りの建物が燃え上がり、爆発と炎を見て更に大騒ぎです。


「姫様!」


逃げる人たちに押されフラフラしているわたしを呼ぶ声がして、誰かに腕を引っ張られます。
それはわたしの専属メイドで、彼女はわたしを抱きしめて覆いかぶさって来たんです。


「な、なにをするのよあなた!離れなさい」
「黙って!お願いですから、このまま静かにしてください姫様」


わたしは退くように言ったのだけど、震える体で彼女は抱きしめてきたの。
わたしは離れようとしたのだけど、その時ドラゴンが目の前に降りてきて動けなくなったわ。


「あれがドラゴン」
「しっ!静かに!声を出さないでください」


メイドの震える手に力が加わり、わたしは静かにドラゴンを見ていました。
ドラゴンには、仮面をつけた鎧の者が乗っていましたよ。


「ちっ!ここもハズレか、何処にいやがるんだ・・・おい!お前たち他に行くぞ」


目の前にわたしたちがいるのに、ドラゴンに乗っている仮面の者はこちらに気づきません。
もしかしたら、震えるメイドが何かしているのかもしれません。
わたしがそんな予想をして静かに様子を見ていると、ドラゴンが飛んでいきました。


「行ったわよあなた、もう離れなさい」


メイドの背中をトントン叩いて知らせると、メイドも分かったみたいで離してくれたわ。
だけど、涙で顔がぐちゃぐちゃで、わたしはハンカチで拭いてあげたわよ。


「まったく、勇気があるのか無いのか分からないわねあなた」


ここ数日、ずっとわたしの護衛をしていたメイドですから、わたしは顔を覚えてしまったわ。
でも、名前は知らないから呼ぶことは出来ないの、ここまでしてくれたメイドの名前くらい知りたいし、呼んでも良いわよね。


「あなた名前は?」
「わ、ワタシはエミリーです」
「そう・・・エミリーここは危ないわ、早く移動しましょ」


ドラゴンは去ったけど、まわりは瓦礫や炎が上がり、大変な事になっているわ。
メイドの手を取り立たせて移動しようと歩き出して気付いたのだけど、他の人の姿が無かったわ。


「避難したのかしら、それとも」
「あの、ありがとうございます」
「エミリーなに言ってるのよ、お礼を言うのはこっちでしょ、さっきは助けてくれてありがと」


わたしは歩きながらお礼を言ったわ。
顔は見せられないの、きっとわたしは赤くなってるもの、お礼を言ったのは生まれて初めてよ。


「そんな、ワタシなんてこれしか取り柄がないんです」
「これしかって・・・さっきの気づかないようにするやつ?」


問い掛けにエミリーは頷いて返してきたわ。
スキルを持っているのねって聞くと【隠密】と教えてくれたのよ。


「1つ持ってれば良いじゃない、わたしだって1つよ、ダンジョンを作れるだけ」


お母様もそうだけど、あの人はすごいからわたしとは違うわ。
冒険者になって、自分自身でモンスターと戦っている変わり者のダンジョンヒューマンとか言われてたけど、モンスターの生態を調べるのに必要だって、いつも冒険をしていました。
わたしもついて行っていろいろ見てきたから分かるのよ、あんな事わたしだけじゃ出来ないわ。


「でも、ワタシのは声を出すと気づかれてしまうような、とても低いスキルなんです。姫様のようなすごいスキルじゃないんです」
「だから静かにしろって言ったのね。でも、あなたはそれでも使いこなせてるわ、持っていても宝の持ち腐れってよくあるわよ・・・わたしがそうだもの」


わたしは、自分で言っててちょっと落ち込んでしまいます。
お母様のようになりたくて来年学園に入りますが、とても自信がないの。


「そう、わたしはあんなダンジョン作れないわ」


歩くのを止め、暗い考えが頭を支配しました。
姫様なんて言われるようになったけど、わたしにはなにもないの、ただお母様の娘ってだけよ。


「誰もわたしを見ないわ」
「そんなことありませんよ姫様。姫様はワタシを助けてくれる優しさを持っています、普通の貴族はワタシたちの事を無いものと思いますよ」
「そうかもね」


エミリーが褒めてくれた考え方でさえ、お母様と一緒に旅をしていたからです。
冒険者の人たちと仲良くしていたので、平民とか貴族とかをあんまり気にしないからなのよ。


「そう、全てお母様のおかげで、わたしは何もしてないのよ」


すべてお母様がしている事でわたしじゃない。
その場に座り込んでしまう程、わたしは落ち込んできました。


「姫様、今は歩きましょう」
「そうね」


エミリーに一言だけを返してわたしは歩き出しました。
でも前は見てなくて、下を向きエミリーに全てを任せたんです。


「こんなところにいやがったか、女帝の娘」


わたしたちが瓦礫の山から出ると、丁度敵兵士が降り立つところで、わたしは慌てて逃げようとします。
だけど、相手はドラゴンの炎が行く手を遮ってきたわ、エミリーは震える手で短剣を握り、敵に向けたんです。


「ひ、姫様にはふれさせませんよ」
「ほう威勢がいいな、ワイバーンを目の前にして頑張るじゃねぇか。だがもうおしまいだ!」


兵士が手綱を引くとドラゴンが口を大きく開け、火を溜めていました。
わたしはその時「ドラゴンじゃなくてワイバーンだったのね」っと、本物のドラゴンを見てみたかったなぁなんて、軽い感想を思って諦めていました。


「そうなんだよね、わたしって何もないんだよね」


未練がないからか、死ぬと分かっていても何も感じませんでした。


「姫様っ!!」


ワイバーンの口を見ていたら、エミリーがわたしに抱きついてきて庇ってくれたの。
でもそれは無駄に終わるのよ、ワイバーンの炎はさっきも見たけど、家を壊し煉瓦を溶かしていたわ。


「バカっ!!あなたは逃げなさい!巻き込まれるわよ」
「ダメです!ワタシは姫様の護衛ですっ!!命に代えても守るのが使命なんです」


エミリーの横顔を見たけど、涙がすごかったわ。
そんなになってまでわたしには守ってもらう価値はない。そう思っていたのだけど、わたしなんかの為に命を張ってくれる人がいたのを初めて知ったんです。


「わたしの為にごめんねエミリー」
「姫様?」


エミリーの頭をなでながら、ワイバーンの炎が打ち出される瞬間を見ました。
もうおしまいかと思っていたのだけど、わたしたちの前に青い鎧を纏った青い髪の騎士が降り立ったのよ。


「剣で炎を斬った!?」
「間に合いましたか姫様」


青い鎧の騎士が振り返ると顔を白い仮面で隠していたわ。
まるでどこかの物語から出てきたみたいで、ワイバーンに乗ってるやつの仮面と雰囲気が違ったんです。


「あ、あなたは何者よ!」
「僕は女帝様に言われて姫様をお助けしに来ました、もう安全ですよ」


白い仮面の騎士がそう言っているけど、安全とは思えないわ。
わたしたちの目の前には、今もワイバーンと敵の騎士がいるの。今は炎を斬られ驚き止まってるけど、直ぐにまた攻撃してくるわ。


「こ、このやろー!」


わたしがそう思っていると、騎士が手綱を【パシン】と鳴らし、ワイバーンが口を開けて襲いかかってきます。
白い仮面の騎士は、相手を見ないで剣の握り手に触れると、どうしてかワイバーンが動かなくなりました。


「ど、どうしたワイバーン!?お前なにをしやがった!」
「あなたたちをコマ切れにしただけです。さぁ行きましょう姫様」


白い仮面の騎士が剣から手を離すと、ワイバーンと敵の騎士がバラバラになって崩れました。
わたしもエミリーも、ぜんぜん見えなかったとボーッとしてしまいましたよ。


「あああ、あなたはほんとに女帝様の使いですか?なにか証拠は」


エミリーが覚醒し、わたしの前で短剣を白い仮面の騎士に向けます。
仮面の騎士は、後頭部をさすって困っている感じですね。


「ごめんメイドさん、証明できる方法が名乗るくらいしか今はないや。とにかく南に向かって城に入ろうと思うんだけど、確認はそれで良いかな?」


なんとも拍子抜けの答えが返ってきて、エミリーは普通に返事を返していたわ。
わたしはそれを見て笑いそうですが、白騎士ノヴァと名乗った騎士の後を歩いたんです。


「こんな所にいやがったか」
「いえいえ、いませんよ~」


途中でワイバーンに乗った敵に見つかったのだけど、その度に白騎士ノヴァの剣が振られ軽く倒してくれたんです。
そして、わたしたちは危ない事もないままに無事城に着きました。
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