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4章 1年3学期

110話 今の状況を考えて

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「これは・・・止めた方が良いんだろうね」


シャルティル姫様を連れて城に着いた僕は、玉座の間でものすごい剣のぶつかり合いを見ています。
でも、それは敵との戦いではなく、ただ好敵手を見つけて嬉しいから戦っているという、とてもさわやかな戦いなんだ。


「鬼神ブルーとエメローネ様・・・気持ちはわかるけど、時と場所を考えようよ」


目の前で戦っているのはエメローネ様と鬼神のブルーで、敵は既にふたりが倒しています。
怪我をした兵士は、玉座の間の端っこに退避して、ギリギリ動きの見える戦いを観戦してる。


「マリア様、感動の再会の邪魔して申し訳ありません。そろそろエメローネ様に言ってくれますかね?」


僕は後ろで姫様と抱きしめ合っているマリア様にお願いします。
おふたりはその状態で20分くらい続いているので、そろそろ良いかなって思ったんです。
僕だって感動の再会くらい読みますが、再会して直ぐではないので、そろそろ次に進んでもらいます。


「そうですわね、エメローネ!そろそろ事態を収拾しますわよ」


その一言でエメローネ様は剣を止め、ブルーもそれに合わせて剣を鞘に納めましたよ。
とても良い笑顔をして、エメローネ様と握手をしてから僕たちのいる玉座に移動してきます。


「やはり敵の捕獲は無理だったか」
「はい、捕縛しようとすると爆発して、危険で近づけませんでした」
「それは仕方ない、ご苦労だった」


報告する兵士たちは、指示通り手を出さないで離れていたそうで、エメローネ様たちの指示が的確でホッとしました。
ふたりの戦いが終わったので、やっと報告出来た兵士たちは、笑顔で次々に報告をして来て、問題はかなり深刻です。


「建物の被害は甚大ですが、幸い住民の避難は迅速に行われたようです、今は死者や負傷者の数を調べています」
「ふむわかった。ポーションは城の倉庫からありったけ出して構わん、急ぎ事態を収拾するのだ」
「はっ」


マリア様の言葉をエメローネ様が代弁し指示が飛び交い、その中で僕はと言いますと、同じ壇上でシャルティル姫様に腕を捕まれていて動けません。
その後ろには、ブルーもいて跪いた状態で待機していますよ。


「あの姫様、そろそろ放してもらえますか?」
「シャルティルとお呼びください白騎士様」


姫様がそう言って放してくれず、名前で呼んでも僕の肩に頬ずりするだけでした。
兵士たちが見てるのに勘弁してと思っていたら、騎士の一人が慌てて玉座の間に入ってきました。


「ほほ、報告します!たた、ただいま城の上空に、れれレッドドラゴンが5体飛んでいます!」
「ああ、それは心配ない、ワタシたちの横におられる、白仮面の騎士殿の獣魔だ。他の者たちにもそう伝えろ!」
「は、はい~」


僕はその知らせを聞いて、やっぱりレッドドラゴンは凄いんだと実感した。
レッドドラゴンが城の上空を跳び始めたおかげもあり、敵を殲滅できたと言う知らせも貰い、事前に言ってなかったらこちらも大変だったとちょっと反省です。


「これで終わりですのねノヴァ様」
「そうですねシャルティル様、でも結局どこの国が攻めてきたのかは分からないんですよ」
「それなら大丈夫よ、ねぇエメローネ」


マリア様がエメローネ様に聞くと、既に手引きをした大臣の目星は付いていると教えてくれました。
そして、そろそろそいつがここに連れて来られるそうですよ。


「女帝様お呼びですかな」


白々しくも、白髪の男性が騎士に連れられて登場しました。
シャルティル様が僕に教えてくれましたが、彼はドレール・ニンイバル伯爵と言って、外交官の長を勤めている人らしく、かなりのやり手だそうです。


「でもあの人は純血派だから、お母様が外交の事で意見すると、大抵口論になっていたわ。あいつはお母様が純血じゃないのを嫌っているのよ」


シャルティル様のイヤそうな顔を見て、いろいろあるんだねって思いました。
そして話は進んでいき、数名の騎士たちを買収していた事が暴露され、賄賂や城の見取り図などを他国に渡していた事が明かされた。


「くくくそうですか、くくく」
「なにがおかしいんだドレール候?」
「いえいえ、エメローネ殿もお優しくなられた。いつもなら、直ぐにでもワシの首を取りに来たであろうに、そこの汚れた血と仲良くしたせいですかな?」


エメローネ様がそれを聞いて剣を抜きました。
でも、伯爵は平然としていて笑うだけ、僕は何かあると思って、シャルティル様とマリア様を守れる位置にずれます。


「ブルーいつでも動けるようにね」
「御意です」


ブルーに目配せして、守れる準備をしてもらいましたよ。
出来ればマリア様たちにも何か持ってもらいたいので、何かないかと考えていたけど、エメローネ様はそれどころじゃなかったよ。


「きさま!女帝マリア様を侮辱したな、即刻その首をはねる!」
「くくく、そうは行きません。ワシはここで永遠に王となるのですからな」


伯爵がそう言うと、右手を高々と上げたんだ、その右手には腕輪が光っていて、伯爵の後ろにダンジョンの門が出現したよ。
伯爵の両隣にいた騎士たちは門に吸い込まれ、僕たちも吸い込まれそうになります。


「白騎士様」
「シャルティル様掴まって、マリア様も僕の肩に手を」
「ありがとうアレ、白騎士」


剣を床に刺して耐えてる僕は、ちょっと焦ってマリア様を見ます。
ごめんと顔だけで謝罪を貰ったけど、シャルティル様に聞かれそうで焦ったよ。


「くくく、どうですかな」
「な、なにをするつもりだ伯爵!」
「エメローネ様、これがダンジョンの本当の使い方ですよ、この腕輪を外せば、ワシは門に吸収され新しい生命体に生まれ変わる。そう、ワシはダンジョンと一体化するのですよ」


伯爵がそう言って高笑いをたてています。
僕はそんなダンジョンの使い方を知らないけど、もしかしたらと言う答えを持っていた。
でもそんな事はさせないと、ブルーが伯爵の前に一瞬で到達したんです。


「な、何者だ貴様!」
「それを知る必要はない!武技【無限連撃斬】」


ブルーが刀を抜き伯爵を細切れにしました。
これで終わりかと思ったけど、伯爵の口だけが動き語り掛けてきたよ。


「カカカカ!そんな事をしてももう遅いわ!ワシはすでにダンジョンと一体化しておる。見るがいい!」


細切れになった伯爵がダンジョンの門に吸い込まれ、門が丸い球体に形を変えたんです。
こんな状態は見た事ないけど、何かに似てると僕はふと思ったよ。


「もしかして、魔石?」


直径2mくらいの球体は、僕たちが良く知ってる魔石に似ていました。
その球体の周りには、緑色の肉の塊が現れ始め、ある形に成形されて行った。


「こ、こいつは!?ドラゴンゾンビ」


エメローネ様がそのモンスターの名前を叫び、剣を構えます。
大きさはレッドドラゴンと同じくらいで15mあるかどうか、玉座の間が50m四方もある大広間でなかったら大変でした。


「体がどろどろしてて、腐ってるのか異臭が凄いね」
「イイイ、イタイッ!クルシイ!・・・ドウイウコトダ?ハナシガチガウゾ、グロロロォォォォーーー!!」


ドラゴンゾンビとなった伯爵が苦しみながら暴れ出しました。
ブルーは周りでおびえていた騎士たちを助けてまわり、僕は異臭からマリア様とシャルティル様を魔法で守ったんだ。


「どうやら失敗したみたいですよエメローネ様」
「そのようだな白騎士。あいつは誰かに利用されたんだ、このままでは理性を失ったままで暴れだし国が滅ぼされてしまう。白騎士よ、マリア様たちを頼むぞ!」


エメローネ様が僕に女王様たちの護衛を任せ、剣に闘気を流して突撃していきました。
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