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4章 1年3学期

109話 避難活動の協力者

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「みんな走らないで、慌てないで中央広場に向かうのよ!」


私は大声で民間人を冒険者ギルドのある、南地区の中央広場に誘導しています。
ちょっと離れた場所では、同じようにロジーナが誘導しているわ。


「ワイバーンとそれに乗った騎士は・・・今は来ないわね」


数体倒してからは、今の様に民間人の避難誘導を始めた私たちだけど、その作業に移れたのは、援軍が孤児院に来たからなのよ。
ウルフやコボルト、ネコマジシャンやラビットマンといったモンスターだったのだけど、なんでも凄腕のテイマーが主だそうで、今その主は北地区で戦っているそうですよ。


「あれは、きっと彼なのよね」
「シーラ!あのあのここはもう誰もいないみたいです」
「ありがとアーロ、じゃあ移動するってネムに伝えて、私はロジーナに知らせるわ」


アーロがうなずき、瓦礫の下を探知魔法で確認しているネムの方に向かったわ。
私もロジーナに知らせに走り、同時に周りの警戒は怠らないわ。


「こんなに色々出来るのも鍛錬のおかげだけど、凄いわねダンジョンってさ」
「シーラ・・・あれってどう思う?」


腰の短剣に手を添えているロジーナの傍まで行くと、そんな言葉を視線を外さずに言われたわ。
私がその方向を見ると背筋がヒヤッとしたのよ。


「レッドドラゴンが歩いて来る!?」
「それだけじゃないわよシーラ、横を歩いているのは人じゃない、鬼神よ」
「うぇっ!?」


私は大きなレッドドラゴンに目を奪われていて、横を歩いている存在に気づきませんでした。
再度レッドドラゴンを見ると、人の容姿をした存在が歩いていて、よく見ると頭に角が生えてて、変わった剣を持っています。


「すごい振動だね」
「まぁレッドドラゴンは10mだもの、それ以上に強さが脅威だけど、それよりも後ろじゃないかしらロジーナ」
「そうだねシーラ」


ズシンズシンとレッドドラゴンが歩いて来ていますが、その後ろにレッドドラゴンと同じくらいの大きさの石の乗り物が動いています。
そしてそれを運転しているのは翼の生えたリザードマンです。


「どうするシーラ?」
「どうするって・・・あんな大きな兵器を使われたらひとたまりもないわ、逃げるしかないでしょ!あんなのに勝てるわけ無い」


そうは言ったのだけど、離れているアーロたちに伝えないと全員では逃げられません。
かといって伝えに走っても、相手は鬼神にレッドドラゴンですから間に合わないかもです。


「じゃあ、アタシが時間を稼ぐから、アーロたちに知らせてよ」


ロジーナがもう一本の短剣を抜いて構えたわ。
私はうなずいてアーロたちの方に走ろうとしたんだけど、そこで男性の声が響いたの。


「あいや待たれよ!拙者らは敵ではござらん」


その声には鬼神だったんですけど、剣を鞘に納めて両手をあげていて、レッドドラゴンもリザードマンも同じようにしているわ。


「どう見るロジーナ」
「アタシも分かんない、武器はしまってるし敵意は感じないね」


ロジーナに耳打ちするとそんな答えが返ってきて、話しくらい聞いても良いかと思ったわ。
ヒソヒソ話しているワタシたちを見て、鬼神が信じられない名前を言ったのよ。


「そなたらはアレシャス様をご存じであろう?拙者たちはアレシャス様の獣魔でござる」
「「なっ!?なんですってぇぇー!」」


私とロジーナは大声を出してビックリしてしまったわ。
アーロとネムがそれを聞いて走ってきているのだけど、私とロジーナは動けないでいたのよ。


「そなたらを助けているウルフなどのモンスターと同じでござる。あそこでは名を出せなかったでござるが、ここなら誰にも聞かれないでござる、協力してほしいでござるよ」
「あ、あんな事言ってるけど、シーラどうするのよ」


ロジーナに聞かれたけど、ワタシたちのするべき行動は決まっているわ。
武器を納め協力するに決まってるわ。


「あのあの、平気なんですか?」
「薄々感じていた事よアーロ、ダンジョン貴族のアレシャス君なら可能かもしれない」
「聞いた事ない」


ネムが突っ込んできたけど、何でも出来るアレシャス君なら分からないわ。
鬼神たちの傍まで行き握手を交わして状況をきいたのよ、大きな石の乗り物の上には救出した人たちが乗っていたわね。


「この者たちの運搬を頼むでござる、拙者たちは残敵の殲滅に行くでこざる」


乗り物の操作を教えながら鬼神がそんなことを言ってきて、ほんとに敵じゃないのが伝わって来たわ。
ここら辺の敵が少なかったのは、彼らが戦っていたからだったのね。


「この人たちを助けてくれてありがとう」
「良いのでござるよ、アレシャス様のご指示でござる、そなたらも気をつけて行くでござる」


鬼神がレッドドラゴンの背に乗り、リザードマンが先導して空に飛んでいきました。
わたしたちはそれを見て、全員が同じ事を思っていたわ。


「アレシャス君って、ほんとにすごいよね」
「そうねロジーナ・・・私たち、ワイバーンを倒せるくらい強くなったけど、まだまだだったわ」


ここら辺を安全にできたのは、自分たちがワイバーンを倒していたからだと思っていました。
でも、実際は彼らがいたからで、本当ならもっと苦戦してたはずだったの。


「下手をしたら負けていたかもしれないわ、相手は竜種なんだからね」
「でもでも、アーロたちだって頑張ってます」
「ん、威力の調整も出来るようになった」


二人が胸を張って威張って伝えて来て、確かに頑張ったと褒めたんです。
ワタシたちに出来る事を精一杯やる、その気持ちは大切よね。


「そうね、私たちに出来ることを精一杯やりましょ」
「そうだねシーラ・・・でも、さっきの鬼神格好良かったね、ほんとにモンスターなのかな?」


そんな疑問がロジーナの口から飛び出て来て、石の乗り物を運転してるわ。
馬車の様だけど、車輪が鉄で出来てて、平らな板が何枚も連なってる乗り物は、ギュルギュル音がしています。


「速度はそんなにでないけど、車輪と違うから瓦礫の山でも登れそうだわ」


それを知らしめるように、ガシャンガシャンと落ちていたレンガを踏みつぶして進んでいるわ。
瓦礫の上でも平気とか、今の状況に最適過ぎて、どうして持っているのかとアレシャス君に聞きたくなりました。


「まぁ、この光景も聞きたいわね」
「ん、この為に孤児院を良くしてた」


南にある噴水広場に着いてそんな気分が増した理由は、働いている中に孤児院の子たちがいるからです。
食事を作ったり、怪我人を介抱しているのよ。


「あのあの、他の区画でもそうなんでしょか?」
「ここまでじゃないわよアーロ。ここにはティアちゃんたちがいるからね」


ティアちゃんたちは独自の装備を持っていて、回復魔法まで使えるの。
他の場所では、食事の提供がせいぜいです。


「でもさぁ~これで孤児院が有名になるよ」
「そうねロジーナ、きっとこの事件から変わるわね」


ワタシたちの準備も出来てるから、冒険者を引っ張り動き出すのよ。
その話し合いの為にも、包帯を巻く作業をしてるティアちゃんの方に向かったのだけど、そこでは獣人を嫌ってる怪我人が怒鳴っていたわ。


「俺に触るんじゃねぇ」
「触らないと治療できないでしょ、大人しくしなさい」
「うるせぇー獣人が」
「獣人でも何でも良いのよ、大人しくしないなら、お高いポーションをぶっかけるわよ」


ティアちゃんも負けずに言い返して治療をしてる。ほんとに良い子なんだからと私たちも手伝いに回ったわ。
私がティアちゃんの隣に行くと、けが人は静かになったわ、私がポーションの瓶を構えていたからなのよ。


「そ、そんな高いモン持って来るな!」
「それが嫌なら大人しくしなさい、けが人はあなただけじゃないのよ」
「うう、うるせぇ」
「ほら出来たわ、そんなに元気なら何か手伝いなさい、獣人ゴトキが今頑張ってるのよ」


ティアちゃんが捨てセリフを残して他の場所に走りました。
怪我人は手を火傷してる程度だから仕事は出来るの、文句を言いながらも他の場所に歩いて行きましたね。


「ほんとに強いわねティアちゃん、私も頑張るわ」


名を売るチャンスとばかりに私たちは広場の退避場で働いたわ。
他の冒険者たちに指示を出したり、物資を鞄から出して配ったりしたのよ。
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