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2章 1年1学期前半

48話 依頼の内容

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ティアちゃんが言うには、どうやらダンジョンの為にしている事らしく、ティアちゃんたちを助ける代わりにダンジョンの研究に協力しているそうなのよ。
それなら貴族が助けるのも納得はしたけど、ワタシはかなり嫌な気分になったわ。


「お互い利益になっているのは分かったけど、子供をダンジョンに入れるなんて、やっぱり貴族っていやね」
「そんな事はないですよシーラさん、彼はそう言っていましたけど、それ以上にあたいたちの安全を考えてくれてますし、何より辛い事が無くなりました」


ティアちゃんの顔は、その人を信じ切っている顔でした。
どことなく熱いモノも感じたから、きっとその人が好きなんだと思ったわ。


「ティアちゃん、辛い事はあるでしょ?」
「そそ、それよりもダンジョンですよシーラさん」


彼の身分を考えて自分の気持ちが伝えられない、そんな辛い事が増えたのにティアちゃんは頑張っている、それは叶わない願いで可哀そうとも思ったけど、ティアちゃんの話を聞いて、もしかしたらと思わされたわ。
その人は、口実を作ってはティアちゃんたちを助けていて、ダンジョンの為とは思えない事が分かったのよ。


「野菜や肉のモンスターって、全然弱くてポイントにならないくて有名だものね」
「そうなんですシーラさん。他の実験をしていると彼は言いますけど、それなら生活の支援はドロップ品だけで良いはずですし、装備だっていらないんです・・・なのにこれですよ」


ティアちゃんのポケットから、とても大きな木のハンマーが出て来て、ワタシたちはビックリです。
ダンジョン貴族なら収納袋などは持っていて当たり前ですけど、孤児に渡す必要な無いですし、そもそも袋ではなく服のポケットから出て来ました。


「収納魔法を付与するなんて、その服とんでもない値段になるわよ」
「そうなんですよロジーナさん」


更に驚いたのは、ティアちゃんの出したハンマーにも魔法の付与がされていて、とても希少な物になってるそうです。
売ったらいくらになるのか想像も出来ない品を見て、ワタシは依頼にあんな細工をした理由を理解したのよ。


「これを伏せておきたい訳ねティアちゃん」
「さすがですシーラさん。試すような事をしてすみませんでした」


ティアちゃんが謝って来たけど、必要な事だったと納得して謝罪を受け入れました。
そしてワタシたちもダンジョンに挑戦出来る事が分かり、ネムが一番に喜んだわ。


「今まで使えなかったあの魔法も、あれも使える。ふっふっふ」


魔法が沢山撃てると、ほんとにウキウキしてしいて、ワタシは平気かしらってティアちゃんに聞いてしまったわ。
でもティアちゃんはダンジョンなら平気と即答して来て、威力があった方が良いと喜んできたのよ。


「ほ、ほんとに平気なの?こう言っちゃなんだけど、ネムの魔法ってほんとにすごいのよ」
「平気ですよシーラさん。ネムさんの魔法の威力はムクロスから聞いていますからね」


ティアちゃんが誰もいないはずの方向に視線を向けると、そこにはワタシたちの見た事がある人物が立っていて、焦って立ち上がってしまったわ。
そこには黒服の子供がいてティアちゃんが紹介してくれたけど、なんでもネコ忍とかいう職業に就いている子供で、小さいのにとても強いらしいわ。


「あ、あのさ・・・アタシたちに気づかれない時点で、その子相当強いよね?もしかして孤児院の子たち全員がそうなんじゃない?」


ワタシも感じていた事をロジーナが質問して、ティアちゃんとムクロス君が頷きます。
ダンジョンに入って戦っていたのだから、それは当然かもしれません。


「それなら指導なんていらなくない?」
「そうでもないんですよロジーナさん。あたいたちはレベルは高いですけど、技術がないんです」


レベルが上がればそれだけ強くなり、ダンジョンの奥には進めるはずなの。
ティアちゃんもそう言って来たけど、問題の彼が必要だと引かなかったそうです。


「何を考えてるのかしら?」
「彼が言うには、レベルだけでは勝てない相手が出て来るからだそうです」


そんな存在は3つ星以上のモンスターばかりで、野菜や肉の素材モンスターでは聞いたことがありません。
やっぱり危険じゃないのかと思ったけど、その為の準備としてワタシたちが雇われたという事で、準備がしっかりとされていると思い直したわ。


「その為の装備な訳ね」
「はい、なので彼は悪い人じゃないんですよ」


孤児院の子たちが自立するには、今でも十分に見えました。
きっと、そんなモンスターは存在しないけど、口実に使っているだけなんだと理解したわ。


「なので教えてくださいシーラさん」
「分かったわ、そこは任せてよティアちゃん」


ムクロス君も嬉しいのか尻尾が振られていて、これからの事を話そうと計画を検討したの。
内容は簡単な素振りから、魔法のテストと色々ですが、そこで問題なのは実戦形式になる事にあります。


「訓練はダンジョンで行いますから、準備しましょうね」
「早速なのね」
「ん、楽しみ」
「あのあの、ダンジョンって、貴族が出さないといけないんじゃ?」


ダンジョンは、専用の門から入りますが、大切なモノだから貴族は肌身離さず持っています。


「じゃあ、問題の彼が来てからなのかしら?」
「それがですねシーラさん。ダンジョンの門は下にあります」
「「「「下?」」」」


ダンジョンの門は孤児院の地下にあるそうで、ほんとにその人は何を考えているのよっ!!と、さすがのワタシも声を大にして叫んでしまったわ。


「ダンジョンは、貴族にとって命よりも大切って聞いてるのに、どうして出しっぱなしにしてるのよ!!」


ダンジョン貴族の事は、お祭りで見たり噂程度にしか知らないけど、ダンジョンの玉を置きっぱなしにしてるのは聞いたことありません。
これが研究と言いつつ支援をしてくれている証拠でもあり、ティアちゃんが信じている証拠だったのよ。


「命よりも大切なダンジョンの玉をここに置きっぱなし・・・これは」
「違いますよシーラさん、これが無くても信じました。だって彼はいつも楽しそうでしたからね」


そんな彼は、週1で様子も見に来てくれて、強さの調節もしてくれるそうです。
ほんとに孤児の事を思っているのが伝わって来て、その人が領主になったら、きっと良い領地になると聞いているだけで思ったわ。


「ですので、シーラさんたちにもダンジョンに入ってもらいます。食事も寝床もここですから出費は無いので安心してください」
「それはありがたいわ・・・って、もしかして報酬って」


分かりましたか?っとティアちゃんがウフフっと笑います。
時給の報酬は仕事をしただけ貰える契約ですが、宿泊もするとなると24時間全てが契約内容に入ると言う事で、これがサインをするとしないの差だったんです。


「そ、そんなに貰って良いのかしら?」


精霊様ありがとうっと、ネムを拝みたくなりましたが、相手は焼き菓子をパクパク食べているネムなので、そんな気持ちはどこかに行きましたね。


「10倍って、さすがに盛り過ぎって思ったんだけど、大げさじゃなかったのね」
「そうですね・・・正直彼が来たら、10倍じゃ済みませんよ」


覚悟してくださいっと、変わった覚悟をする様に言われたわ。
報酬が高くて困る事はないと、この時のワタシたちは思っていたのだけど、ティアちゃんの言っていたことが本当だったと、1月後には理解するんです。


「じゃあ、今の内に堪能しときましょ」


そうとも知らず、ワタシたちは呑気に紅茶を飲んで今後を決めていました。
そしてダンジョンにも入ってレベルもスキルも上がり、今までの生活が一変したと喜んでいました。
中でも孤児院のお風呂と部屋が最高で、何処のお貴族様の施設なのよっと叫んでしまいました。
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