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1章

8話 島の報告

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「ど、どうしてあなただけなんですか!?」


オレが船から降りると、船着き場の全員が騒ぎ出し、どうしてなのかを説明させられた。
それを聞き、船が壊れたわけでも、オレ以外帰らぬ人になったからでもないからか、聞いていた全員がホッとしていたな。


「驚かせたようだな」
「ああ、びっくりしたよ、4機中3機も無くしたら相当な痛手だし、探索者がいなくなったら次の探索は出来なかったぞ」
「そうだな・・・その事情をギルドに報告してくる、直ぐに降りるかもしれないから、整備よろしくな」
「さっきの話じゃその可能性もあるか、わかったぜ」


船の整備士は、親指を立てて仕事に取り掛かってくれて、オレもギルドに向かったんだ。
建物に入ると、そこでまたびっくりされたが、状況を説明してギルド長に面会許可を申請したよ。


「ギルド長にですか」
「ああ、出来るだけ急いでくれ」
「分かってる、獣人に言われるまでもない、ちょっと待ってろ」


席を立ち奥に歩いて行った職員に、ほんとに分かってるのかと言いたかったが、人族のあいつにはそんな指摘はしない。
こいつも下で縛られた奴らの仲間で、この後処罰されるだろうが、それは当然だと笑いそうだ。
危うく重要な品を得られなくなるところだったし、今の状態を引き起こしたんだからな。


「人種族のリーダーだったミエカル、あいつがお粗末なおかげで獣人の必要性が変わる」


良い事なんだが、他の種族にもその恩恵を与えたいのがオレの考えだ。
ここには他にも、畑を管理するエルフに、道具を作っているドワーフと様々な種族がいて、そのどれもが人種族に文句がある。


「皆で専属の仕事をこなし、支え合わなければ生きていけないのに、あいつらはそれを分かってないからな」


偉そうにしてきて、こちらを下に見て来る、そんな奴らと関わりたくないと思うの当然だ。
しかし生きる為には仕方ないから今は何事もないが、この出来事で変わるだろう。


「待たせたな、奥で話を聞いてくれるそうだぞ」


オレは奥に通されたが、その間も職員の目は冷たかった。
そいつらは事情を知らないから、オレが生き残て戻ったと勘違いしているが、前を歩く職員が戻れば説明するだろう。


「っと言う事で、オレたち獣人でなくては品物はいただけません」


ギルド長の部屋に入り、オレは説明を始めたが、ギルド長は良い顔をしない。
人種族を嫌う状況になってしまったと、頭を抱えだしたな。


「ふむ、まさか男爵家の長男がそんな事を・・・その貴族は無事だろうか」
「ミエカル殿は、縛られてしまいましたが、命の保証はリキト殿が保証してくれました」
「そうか、そのリキトと言うモノ、信用できるのか?」


当然の疑問に、オレは勿論出来ると答えた。
即答するオレの意見を聞き、ギルド長は驚いた顔をしてきたが、フィナを救ってくれた事が証拠と答えたんだ。


「魔土の治療まで彼はやってのけました、ここで彼と敵対するのはよろしくないと考えます」
「確かに魔土の呪いは脅威だ、それを治したとなれば、喜ぶ者たちも多いだろう」


ギルド長は悩んでいるが、その問題は獣人が先頭になる事で、リキトは関係していない。
いつもの人種族優先主義がいけないわけだが、今回はそうもいかず、ギルド長は了承してきたよ。


「ありがとうございます」
「頼んだぞ、俺は国王に報告に出る」
「よろしくお願いします、オレも直ぐに下に戻ります」
「いや待て、お前も同行してくれ」


ギルド長の言葉に、オレは信じられなくて聞き返してしまった。
獣人のオレが国王様に謁見なんて、恐らくこの国始まって以来の事だ。


「どどど、どうしてですか!?」
「バックス、これは国が生きるか死ぬかの問題だ、人種族が考えを改める分岐点なんだよ」
「ギルド長、どうしてオレの名前を・・・あなたは」


オレは、人種族であるギルド長の気持ちを勘違いしていた。
さっきも悩んでいたが、それは現状の最善策を考えていただけだったんだ。


「良いかバックス、これは秘密なんだが、島での生活はそろそろ限界だった。それは、どこかの島に戦争を仕掛ける考えが出る程だったんだよ」
「そんなにでしたか」
「ああ、今回お前たちが葉を採取して来てその動きが強まったが、これで考えが変わる」


同時に、人種族優先主義も崩れるだろうと、ギルド長は安心した表情をして来た。
人種族の中にも、こんな考えの者がいる事を知り、オレはリキトとの作戦の成功を確信した。


「国は死にかけていて、それが蘇る兆しが見えたんだ、お前には相応な地位が与えられるだろう」
「そ、そこまでですか!」
「ああ、国始まって以来どころか、全世界初だろうな」


人種族の国と言う括りはあるものの、獣人が貴族になるなんて前代未聞だ。
それは反対する者が多そうだと、ギルド長はため息を付くが、国王はそれを押し通すだろうと言って来た。


「それだけの事件だ、既に人種族は嫌われてしまったし、誰も反対しなくなる」
「だから同行するのですか?」
「そうだ、反論の時間を与える事はしたくないし、国王直々となればお墨付きがつくだろ?」


そこまで考えてくれていたと、俺はまだ話していないリキトとの作戦をギルド長に話した。
ミエカルの矯正をしていて、今頃大変な事になってると知らせると、ギルド長は笑い出したな。


「悪い事をしたんだ、それ位当然だな」
「ギルド長は他と違ったんですね」
「当然だ、ほとんどがそうだから分かってもらえないが、種族間で順位なんて付けるモノじゃない」


お互いが出来る事をしているのが現状で、順位なんて付けれるモノじゃないと、机を叩いて声を荒げていた。
それだけ今の状況は良くなかった訳だが、ミエカルがこちらに付けば少しは変わると、オレと同じような黒い笑顔をして来たぞ。


「バックス、貴族のミエカルがいれば人も集めやすい、これは重要だぞ」
「リキトもそう言っていました、オレにこき使えと言ってきましたよ」
「そうか、そのリキトには俺も会ってみたいな」


はははっとギルド長は笑ったが、それが笑っていないのは、目の前のオレでも理解できた。
人種族優先主義を黙らせ、国を統一するチャンスと思っている様で、ブツブツ言い始めたぞ。


「口減らしをする事は無くなったな」
「そこまでだったんですか?」
「ああ、勇者が召喚されたからな」


ギルド長は、立ち上がるのと同時にとんでもない事を口走った。
デイアルランドと言う国で勇者が召喚され、物資を送って友好関係を築こうとしていたらしく、その為に選抜がされる予定だったそうだ。


「そんな事が」
「ああ、俺たちは反対したんだが、友好関係を作らねばならなかったからな」
「元凶の汚染石の破壊ですか?」
「そうだ、それが出来れば世界の汚染も薄れるからな」


成功していないから、ほんとにそうなるか分からない、しかしそれに望みを掛けるのは世界各国の共通点だ。
ギルド長と共に城に入り、待つこともなく謁見をしたが、ギルド長の予想通りの展開になり、オレは名誉子爵の爵位を授かったよ。


「ありがとうございます国王様」
「うむ、これから頼むぞバックス」
「はいっ!」


跪いたままで返事を返したが、国王自らの言葉は、そこにいた誰もが緊張するモノで、リキトは国を救う救世主と宣言された。
オレの爵位授与は、国の代表として必要だったのだと理解させ、同時に協力的にもさせたんだ。
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