世界ってなんなんですか?

仲里トメ子

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メンバー、スタッフ、ファン

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結局あの後眠れなくて、ダルい身体を引きずって、秋輔のダイニングに向かうといつもと違う、和食の、魚の焼けたいい香りと、湯気の見える味噌汁。
「おはよ、朱音。早く食べろよー。今日から俺仕事に戻るからさ。」
いつもと同じ眩しいくらいの笑顔。え?昨晩の電話は?あの寂しそうな声は?仕事モードなの?
「ほら、どうした?好き嫌いは許さないぞー?」
…あぁ、そうゆうこと。秋輔なりのお迎えなのね。郷に入っては郷に従え。朝食は百瀬家流で、私はもうお客さんじゃないんだ。
「食べる食べる!いただきますー!」
「よし。じゃ、俺もう行くから!行ってきます!」
今朝届いたファンレターを両手に抱えて、慌てて飛び出して行った秋輔は、なんだか神妙な顔つきだった。

今朝も郵便が届いた。ため息が思わず出るほど、分厚いファンレター。事務所に相談しないと。厄介なファンがいるって。
朱音には心配かけられないから、だって昨晩あんなこと言っちゃったし。
俺なりの歓迎を込めて朝食は焼き鮭定食。
俺は無理言って休ませてもらった分の仕事の為、早めに家を出てタクシーを拾う。
できるだけケータイを、ケータイだけを見ながら事務所までの道のりを過ごす。

事務所にはすでにナッツがきており、軽く挨拶を交わす。
「アキさんはよござッス!なんか大変らしいッスね。オレ、できることあればなんでも手伝うッス!だから、元気出してくださいよぅ!」
「ナッツ…。ありがと。今度なんか作ってやるからウチこいよ?じゃ、ピン撮行ってくるわ。」
「ウィッス!」
いつもナッツこと夏目は元気で健気な後輩で先輩は嬉しいよ…。
ガタイのいいナッツの逞ましい腕のガッツポーズに少しだけ元気をもらい、どうやったらあんなに身長伸びてマッチョになるんだろうとまた聞きそびれたなととぼとぼと撮影に向かった。

「アキさん、今日もよろしく!」
「はい、お願いします!」
いつもお世話になっているカメラマンの亀羅万右衛門さんと挨拶を交わして雑誌の撮影に入る。
今日の衣装は部屋着。スウェットのハーフパンツに首にタオルを掛け、紅い短い髪はウェッティーにして黒のヘアバンドをすれば、水も滴るイイ男の完成。
「アキさんいいねー!色男だね!ちょっと痩せた?」
亀羅さんの観察力はすごい。ここ数日で4キロも痩せたら気づくか。
「ちょっと減量中で…。」
「無理なダイエットは……って女の子じゃないんだし、アキさんなら平気だよね。僕にもヘルシー料理教えてほしいよ。」
亀羅さんは自身のお腹の肉をつまんでおどけてみせてくれた。ああ、そんなに気を遣わせてしまっているのか。
「豆腐は優秀ですよー!」
俺も笑顔を見せ、アキとしてのスイッチを入れ撮影を進めて行った。


「はい、ラストー!お疲れさま!」
「お疲れさまでしたー!」
雑誌の撮影が終わり、メイクを落としにかかる。
「なぁ、アキさん。」
「おう!?ナッツか。どした?」
メイクルームにただならぬ様子で入ってきたナッツにビックリした。
なんだろう?
「なんで言ってくれなかったんスか!自分そんな頼りないスか!?これ、見ちゃって…。アキさんしばらく休むって聞いてオレ…」
ナッツが端整な顔を悲しそうに歪めて、逞ましい腕の中いっぱいに抱えている大量のファンレター。
それがナッツの気持ちを全てで。
「ナッツ…。ごめん…。」
「オレが…殴り込みに行くって思ったスか?確かにオレ、ハルといつもケンカしてるッスけど、今は!アキさんの顔見て気づかなかった自分を、殴りたいッス…。日に日に痩せて目にクマ作って、ボロボロじゃないスか。ごめんなさい、アキさん…。」
ついにポロポロ泣きだしてしまったナッツになんて言えばいいのか分からずに、ただ頭を撫でてやるばかりだった。
「アキさん…これ持ってきたってことはマネージャーに相談してくれるんスよね…?」
「あぁ、そのつもりだよ。ナッツ。」
「…よかったッス。」


今日の取材や仕事を終えるとマネージャーに呼ばれた。
例の件だった。
アイドルである俺は、悪質なファン、もといストーカーにどう対処すればいいのか。
マネージャーが話がわかる人であってよかった。
休養中に動いていてくれたとの話だった。
一時的な避難の為に部屋を用意してあるらしく、避難中はマネージャーが全て送迎、買い物等してくれるとのこと。
ホントに俺は恵まれている。
メンバーにも話をして気にかけてもらうことになった。

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