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121 写真部の活動4&いきなりのパーティー
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11月に入り、僕らは学校の部活動で行われるコンテストの写真を吟味していた。
「去年はかすりもしなかったんだろ?」
「葉阿戸の写真は特別賞を獲ったらしいよ」
「今年はどの写真にする?」
視聴覚室で写真部の各々が話している。
「この葉阿戸どや?」
「「「ああ、可愛い、葉阿戸しか勝たん」」」
「「「じゃあこの葉阿戸で」」」
僕が少し前に撮った、アリスのコスプレをした葉阿戸を推していると、それに便乗してくる人でせめぎ合っていた。
当の本人は机に突っ伏して寝ている。
僕は葉阿戸を見やった。肌が白い。そして首の後ろにほくろがあるのがわかった。
(あの時、ほくろ探ししたいって言ってたけど、本気かな?)
その時、視聴覚室に伊祖が入ってきた。
「職員会議で遅れてすまない」
「先生、今年の写真どうしますか? 日余さんのは決まったんですけど」
部長が伊祖に話しかける。
「”美術部と桜”でいいんじゃない?」
横から口を挟んだのは葉阿戸だった。
眠りから覚めたようだ。八重歯のある口を開いてあくびをする。
「ふぁ、失礼」
葉阿戸は口元にハンカチを当てた。
「日余さんが言うなら」
「「「同感です」」」
皆は葉阿戸の下僕かと言わんばかりに頷く。
伊祖は反対の人がいないとわかると、写真をプリントし始めた。そして、ひとりひとりの写真を提出させられた。
その後、今日の部活動は終わった。
「学期末テストのぉ、勉強会する人ぉ~!」
茂丸が自転車置き場で声を張り上げ、右手を挙げる。
「茂丸とするわけ無いだろ。この赤点常習犯」
「今回、世界史探究に絞って勉強するから大丈夫」
「何が大丈夫だよ、1つでも赤点とったらどうするんだよ。張り出されるんだぞ。なあ、葉阿戸」
僕はぼんやりしている葉阿戸に話を振る。
「……ん? 何?」
「だからさ、勉強会」
ブーブー。
僕の声はケータイの音に阻まれた。
「あ、ごめん、電話だ、……もしもし?」
葉阿戸が電話に出ると、僕は手持ち無沙汰になる。
電話で何かコソコソと話していた。
「えな君、俺に考えがある」
「えな君?」
僕は葉阿戸に向け、素っ頓狂な声を出す。
「……皆来るんだね? ……それじゃ。日曜日、皆で勉強会しようって」
葉阿戸は電話を切って、僕らに向き直った。
「えぇー!?」
「えな君の家でやるんだ。女子も来るって!」
「女子! そりゃいいな」
「僕は反対だ。集中できそうにないから」
「じゃあ、お泊まり会に変更する? どっちかだな、たいは行くことが前提として」
「はあ……、わかったよ、勉強会なら参加する」
僕は息で曇ったメガネを拭いた。
どうすることもできないようだ。
冷たい風が吹く。同時に枯れ葉が宙を舞う。グラウンドでは竜巻が土煙をたてて、その場に留まっている。
「女の子は可愛い子いるんだろうな?」と茂丸。
僕は呆れて何も言えずにいた。
しばらく世界が止まったかのようだった。
「……姉さんに言うぞ?」
葉阿戸はどすの利いた声でそう言うと、ゆっくりと自転車を転がす。
「誠に申し訳ありません」
「でもまあ、そのあたりは気にしないでいいよ」
「と、いうと?」
茂丸が横目で含み笑いをする。
「多分だけど、主婦とかOLとか大学生とか来るよ。ゲーム仲間を呼ぶって」
「まさかのオフ会かよ」
僕は口が勝手に動く。
「皆で勉強するから安心してよ」
「保健体育の?」
「あんたは少し黙れ」
僕らは話しながら校門の前まで来た。
「日曜日の13時から18時までだから。昼のうちに、たいと茂丸は俺が迎えに行くよ」
「おうよ、じゃな」
「「またな」」
僕は葉阿戸と同じ方向に自転車を走らせる。
「何人くらい来るの?」
「14人くらいかな」
「はあ? そんなに来て家は平気なのか? つうか、もっと早く言ってくれよ!」
「人が多いほうが楽しいじゃん」
葉阿戸は悪びれもせず答えた。
「それに、えな君の家は100坪くらいらしいようだよ」
「ふうん、お金持ちなんだ」
「だけど君は俺の彼氏なんだから、なびくなよ」
「ふーい」
僕は生返事をした。
「もし何かあったら隠さず言えよ」
「そういえば、冬休みの年末年始、空いてる? 実は~~~~」
僕は和矢からもらった温泉宿のチケットの話をした。現地は金沢方面だ。
「まじ!? ……年越し、最高すぎるな」
「茂丸と明日姉さんにももう承諾をもらってるけどいい?」
「うん、いいよ、部屋割りは?」
「1部屋だよ。老舗旅館らしい。温泉もあるよ」
「べらぼうめ! 金沢行くのに、温泉なかったら大変だろ」
葉阿戸に怒られた僕は少しむくれる。
あっという間に、分岐地点に着き、別れた。
僕は家に帰った。
(葉阿戸にほくろ探しの話するの忘れた)
「たいちゃん、おかえりなさい」
「ただいま」
「再来週テストあるんでしょう? 今日はカツよ」
「なんでもいいよ。できたら言って」
僕は2階への階段に足をかける。
「もう! 興味なさそうに!」
「あるよ、どーも!」
僕は母の声に反発するように言うと、部屋のドアを開けて閉める。そしてその足で勉強を始めた。現代文の文章問題で、作者の気持ちを答えなさいという問題に躓いて、30分経過した。
「ご飯できたよ」との母の声にふと閃く。
「そうだ、ここの文章だ」
僕は順調に問題を解いていった。
「たいちゃんー」
夕飯時を過ぎても降りてこないためか、母の声が遠くで聞こえている。
僕はしばらくしてから、1階にご飯を食べに行った。食べる夕飯は冷たかったが、英語の小冊子に書いてある単語を覚えるのに夢中で、気遣う暇はなかった。
その後も必死になって勉強をし、0時を回ってから、睡眠をとることにした。
◇
日曜日。えなの家にて。
「「「お邪魔します」」」
僕達3人は玄関から中に入っていった。
だだっ広い家の中にローテーブルがぽつんと置かれている。
隅には人集りができている。
「こんにちは!」と見知った人物が人垣から出てきた。
「あれー!? 何でいちがここに?」
僕は思わぬ遭遇に歓喜した。
そこにはいちの姿があった。
「ごめんねうちがいて、実は知世さんから誘われて。うちも好きなんだ、このゲーム」
「いや、いちがいるのは嬉しいよ。ところで、おい、葉阿戸、おい。なんだよこのゲームのオフ会の集まり。こんなローテーブルで勉強するのか? できないだろ。騙したな」
僕は唖然としながら葉阿戸に問いただす。
「今日は日頃の日常を忘れて、パーティーしようぜ?」
葉阿戸は僕の肩に手をおいた。
「来週の月曜日からテストでしょうが! 皆、何考えてるんだよ!」
僕は帰る気マンマンで振り返り、玄関のドアを開ける。
「ご注文、お待たせしました!」
ウーバーイーツのお兄さんと鉢合わせた。
「三文字さんですか?」
「あ、えっと」
「そうです」
葉阿戸の声が後ろから聞こえる。同時に何かを受け取った。
「皆ー、ピザ来たよ! たいもおいで」
葉阿戸は2つのピザをローテーブルにのせて開くと、チーズのいい香りが広がった。
「これ食べたら帰るぞ?」
「はい、ビンゴ大会のシート」
「はい?」
「ピザ食いながらやるんだよ!」
葉阿戸は四角い箱を手に取ると、隅にいる皆に向かって「皆ービンゴシート持った?」と言った。
えなはタキシード姿で集まりの中から押されて出てきた。
老若男女の皆がこちらに向かって歩いてくる。知っている顔が何人かいた。
「いもさんとはわたんとゴリさん!? なんで?」
「さっきいちが言っただろ? 皆、オンラインゲーム好きなんだって。今日するのは格ゲーだけど」
葉阿戸はにこやかに答える。
「「お久しぶりです」」
いもさんとはわたんが小さな口を動かす。
「ど、どうも」
「はじめまして」
「どど、どうも」
僕に話しかけて来たのは、スタイル抜群の女性だった。えなの見せたケータイの女性だった。実際に会うと大人の色気がムンムン漂っている。
「剣持芽亜里です」
「僕は蟻音たい、です」
「あーしこりすぎてちんこ痛え」
茂丸が僕と芽亜里の間に割って入った。
「ば、ばか、茂丸、女子がいるのに下ネタやめろよ」
「俺様は独自のルールを貫くだけだ」
「カッコつけてるけど、しょうもないよ。あれー? 知世さんは?」
僕はあたりを見回す。
いちが知世と話していた。問題集を開いているので、おそらく古典を教えているのだろう。
「ビンゴで4番目までの当たりの人が格ゲーして、優勝者はこれらの豪華賞品をプレゼント! 負けても残念賞があるよ」
葉阿戸は僕らに説明する。
横にあるのはカタログギフト、アンティークの壁掛け時計、有名菓子店の数量限定のフルーツサンド。
「皆、ビンゴ大会スタート! まず真ん中を開けてくれ!」
葉阿戸は老若男女を引き連れて、ビンゴ大会を開催した。
「~~~~」
次々と数字の紙を出す葉阿戸に、僕は意に介することもなく勉強を始めた。ピザを食べながらだ。ローテーブルでは勉強がやりにくいが仕方ない。方程式を解きながら、時々、葉阿戸に目をやった。
「「ビンゴ!」」
えなといちが同時に声を上げた。
「後二人! 次、35」
「私、ビンゴだ」
「あたしも」
一斉にビンゴになったのは知世と芽亜里だった。
「……、どうするよ?」
葉阿戸が珍しく冷や汗をかいている。
「葉阿戸! これはタッグ制にした方が良いぞ」
茂丸のナイスなアドバイスのパスが決まった。
「そうだよな。じゃあ、えな君と芽亜里ちゃんは仲間で。いち君とゴリさんが仲間で」
「意義なし!」といちは威勢良い。
「ねえ、なんの勉強してるの?」
イケメンの男性が僕に声をかけてきた。
「数学を少々」
僕は愛想笑いで返す。
「ここ、間違ってるよ」
彼は僕のケアレスミスを指摘した。
その笑顔に、僕は驚きと恥ずかしさでいっぱいになる。上気した。
「たい、何の話?」
葉阿戸に見つかる。
「指摘されたんだ……! 普通じゃありえない……! 凡ミス……! 羞恥……!」
「急にどうした」
「たいのことはほっとこうぜ」
茂丸はそう言うと、ゲームのあるテレビまで歩いていった。
葉阿戸も続く。
「させさせ!」
「いっけー!」
「やったか?」
ゲームは白熱しているようだ。
「……お邪魔しました」
僕は誰にも見つからないように、静かにえなの家を後にした。
照らし合わせたかのように雨が降ってきた。
傘もカッパもないので、急いで家路につく。
気づけば雨に打たれて、15分ほど経過していた。そして家にたどり着いた。
防水性の皮のリュックなのでなんとか教科書類は雨に濡れずに済んだ。
「おかえり! 早かったね、楽しかった?」
「ただいま、勉強するから」
僕はさっさと2階に行こうとするも、腕を掴まれた。
「お風呂入りなさいよ。たいちゃん。ずぶ濡れじゃない。勉強もいいけど」
「はいはい」
僕は浴室に向かった。その時、ケータイの電話がなる。
(葉阿戸だろうな)
電話を無視して、お風呂に入った。
その後もテスト勉強に追われてケータイを見ることはなかった。
「去年はかすりもしなかったんだろ?」
「葉阿戸の写真は特別賞を獲ったらしいよ」
「今年はどの写真にする?」
視聴覚室で写真部の各々が話している。
「この葉阿戸どや?」
「「「ああ、可愛い、葉阿戸しか勝たん」」」
「「「じゃあこの葉阿戸で」」」
僕が少し前に撮った、アリスのコスプレをした葉阿戸を推していると、それに便乗してくる人でせめぎ合っていた。
当の本人は机に突っ伏して寝ている。
僕は葉阿戸を見やった。肌が白い。そして首の後ろにほくろがあるのがわかった。
(あの時、ほくろ探ししたいって言ってたけど、本気かな?)
その時、視聴覚室に伊祖が入ってきた。
「職員会議で遅れてすまない」
「先生、今年の写真どうしますか? 日余さんのは決まったんですけど」
部長が伊祖に話しかける。
「”美術部と桜”でいいんじゃない?」
横から口を挟んだのは葉阿戸だった。
眠りから覚めたようだ。八重歯のある口を開いてあくびをする。
「ふぁ、失礼」
葉阿戸は口元にハンカチを当てた。
「日余さんが言うなら」
「「「同感です」」」
皆は葉阿戸の下僕かと言わんばかりに頷く。
伊祖は反対の人がいないとわかると、写真をプリントし始めた。そして、ひとりひとりの写真を提出させられた。
その後、今日の部活動は終わった。
「学期末テストのぉ、勉強会する人ぉ~!」
茂丸が自転車置き場で声を張り上げ、右手を挙げる。
「茂丸とするわけ無いだろ。この赤点常習犯」
「今回、世界史探究に絞って勉強するから大丈夫」
「何が大丈夫だよ、1つでも赤点とったらどうするんだよ。張り出されるんだぞ。なあ、葉阿戸」
僕はぼんやりしている葉阿戸に話を振る。
「……ん? 何?」
「だからさ、勉強会」
ブーブー。
僕の声はケータイの音に阻まれた。
「あ、ごめん、電話だ、……もしもし?」
葉阿戸が電話に出ると、僕は手持ち無沙汰になる。
電話で何かコソコソと話していた。
「えな君、俺に考えがある」
「えな君?」
僕は葉阿戸に向け、素っ頓狂な声を出す。
「……皆来るんだね? ……それじゃ。日曜日、皆で勉強会しようって」
葉阿戸は電話を切って、僕らに向き直った。
「えぇー!?」
「えな君の家でやるんだ。女子も来るって!」
「女子! そりゃいいな」
「僕は反対だ。集中できそうにないから」
「じゃあ、お泊まり会に変更する? どっちかだな、たいは行くことが前提として」
「はあ……、わかったよ、勉強会なら参加する」
僕は息で曇ったメガネを拭いた。
どうすることもできないようだ。
冷たい風が吹く。同時に枯れ葉が宙を舞う。グラウンドでは竜巻が土煙をたてて、その場に留まっている。
「女の子は可愛い子いるんだろうな?」と茂丸。
僕は呆れて何も言えずにいた。
しばらく世界が止まったかのようだった。
「……姉さんに言うぞ?」
葉阿戸はどすの利いた声でそう言うと、ゆっくりと自転車を転がす。
「誠に申し訳ありません」
「でもまあ、そのあたりは気にしないでいいよ」
「と、いうと?」
茂丸が横目で含み笑いをする。
「多分だけど、主婦とかOLとか大学生とか来るよ。ゲーム仲間を呼ぶって」
「まさかのオフ会かよ」
僕は口が勝手に動く。
「皆で勉強するから安心してよ」
「保健体育の?」
「あんたは少し黙れ」
僕らは話しながら校門の前まで来た。
「日曜日の13時から18時までだから。昼のうちに、たいと茂丸は俺が迎えに行くよ」
「おうよ、じゃな」
「「またな」」
僕は葉阿戸と同じ方向に自転車を走らせる。
「何人くらい来るの?」
「14人くらいかな」
「はあ? そんなに来て家は平気なのか? つうか、もっと早く言ってくれよ!」
「人が多いほうが楽しいじゃん」
葉阿戸は悪びれもせず答えた。
「それに、えな君の家は100坪くらいらしいようだよ」
「ふうん、お金持ちなんだ」
「だけど君は俺の彼氏なんだから、なびくなよ」
「ふーい」
僕は生返事をした。
「もし何かあったら隠さず言えよ」
「そういえば、冬休みの年末年始、空いてる? 実は~~~~」
僕は和矢からもらった温泉宿のチケットの話をした。現地は金沢方面だ。
「まじ!? ……年越し、最高すぎるな」
「茂丸と明日姉さんにももう承諾をもらってるけどいい?」
「うん、いいよ、部屋割りは?」
「1部屋だよ。老舗旅館らしい。温泉もあるよ」
「べらぼうめ! 金沢行くのに、温泉なかったら大変だろ」
葉阿戸に怒られた僕は少しむくれる。
あっという間に、分岐地点に着き、別れた。
僕は家に帰った。
(葉阿戸にほくろ探しの話するの忘れた)
「たいちゃん、おかえりなさい」
「ただいま」
「再来週テストあるんでしょう? 今日はカツよ」
「なんでもいいよ。できたら言って」
僕は2階への階段に足をかける。
「もう! 興味なさそうに!」
「あるよ、どーも!」
僕は母の声に反発するように言うと、部屋のドアを開けて閉める。そしてその足で勉強を始めた。現代文の文章問題で、作者の気持ちを答えなさいという問題に躓いて、30分経過した。
「ご飯できたよ」との母の声にふと閃く。
「そうだ、ここの文章だ」
僕は順調に問題を解いていった。
「たいちゃんー」
夕飯時を過ぎても降りてこないためか、母の声が遠くで聞こえている。
僕はしばらくしてから、1階にご飯を食べに行った。食べる夕飯は冷たかったが、英語の小冊子に書いてある単語を覚えるのに夢中で、気遣う暇はなかった。
その後も必死になって勉強をし、0時を回ってから、睡眠をとることにした。
◇
日曜日。えなの家にて。
「「「お邪魔します」」」
僕達3人は玄関から中に入っていった。
だだっ広い家の中にローテーブルがぽつんと置かれている。
隅には人集りができている。
「こんにちは!」と見知った人物が人垣から出てきた。
「あれー!? 何でいちがここに?」
僕は思わぬ遭遇に歓喜した。
そこにはいちの姿があった。
「ごめんねうちがいて、実は知世さんから誘われて。うちも好きなんだ、このゲーム」
「いや、いちがいるのは嬉しいよ。ところで、おい、葉阿戸、おい。なんだよこのゲームのオフ会の集まり。こんなローテーブルで勉強するのか? できないだろ。騙したな」
僕は唖然としながら葉阿戸に問いただす。
「今日は日頃の日常を忘れて、パーティーしようぜ?」
葉阿戸は僕の肩に手をおいた。
「来週の月曜日からテストでしょうが! 皆、何考えてるんだよ!」
僕は帰る気マンマンで振り返り、玄関のドアを開ける。
「ご注文、お待たせしました!」
ウーバーイーツのお兄さんと鉢合わせた。
「三文字さんですか?」
「あ、えっと」
「そうです」
葉阿戸の声が後ろから聞こえる。同時に何かを受け取った。
「皆ー、ピザ来たよ! たいもおいで」
葉阿戸は2つのピザをローテーブルにのせて開くと、チーズのいい香りが広がった。
「これ食べたら帰るぞ?」
「はい、ビンゴ大会のシート」
「はい?」
「ピザ食いながらやるんだよ!」
葉阿戸は四角い箱を手に取ると、隅にいる皆に向かって「皆ービンゴシート持った?」と言った。
えなはタキシード姿で集まりの中から押されて出てきた。
老若男女の皆がこちらに向かって歩いてくる。知っている顔が何人かいた。
「いもさんとはわたんとゴリさん!? なんで?」
「さっきいちが言っただろ? 皆、オンラインゲーム好きなんだって。今日するのは格ゲーだけど」
葉阿戸はにこやかに答える。
「「お久しぶりです」」
いもさんとはわたんが小さな口を動かす。
「ど、どうも」
「はじめまして」
「どど、どうも」
僕に話しかけて来たのは、スタイル抜群の女性だった。えなの見せたケータイの女性だった。実際に会うと大人の色気がムンムン漂っている。
「剣持芽亜里です」
「僕は蟻音たい、です」
「あーしこりすぎてちんこ痛え」
茂丸が僕と芽亜里の間に割って入った。
「ば、ばか、茂丸、女子がいるのに下ネタやめろよ」
「俺様は独自のルールを貫くだけだ」
「カッコつけてるけど、しょうもないよ。あれー? 知世さんは?」
僕はあたりを見回す。
いちが知世と話していた。問題集を開いているので、おそらく古典を教えているのだろう。
「ビンゴで4番目までの当たりの人が格ゲーして、優勝者はこれらの豪華賞品をプレゼント! 負けても残念賞があるよ」
葉阿戸は僕らに説明する。
横にあるのはカタログギフト、アンティークの壁掛け時計、有名菓子店の数量限定のフルーツサンド。
「皆、ビンゴ大会スタート! まず真ん中を開けてくれ!」
葉阿戸は老若男女を引き連れて、ビンゴ大会を開催した。
「~~~~」
次々と数字の紙を出す葉阿戸に、僕は意に介することもなく勉強を始めた。ピザを食べながらだ。ローテーブルでは勉強がやりにくいが仕方ない。方程式を解きながら、時々、葉阿戸に目をやった。
「「ビンゴ!」」
えなといちが同時に声を上げた。
「後二人! 次、35」
「私、ビンゴだ」
「あたしも」
一斉にビンゴになったのは知世と芽亜里だった。
「……、どうするよ?」
葉阿戸が珍しく冷や汗をかいている。
「葉阿戸! これはタッグ制にした方が良いぞ」
茂丸のナイスなアドバイスのパスが決まった。
「そうだよな。じゃあ、えな君と芽亜里ちゃんは仲間で。いち君とゴリさんが仲間で」
「意義なし!」といちは威勢良い。
「ねえ、なんの勉強してるの?」
イケメンの男性が僕に声をかけてきた。
「数学を少々」
僕は愛想笑いで返す。
「ここ、間違ってるよ」
彼は僕のケアレスミスを指摘した。
その笑顔に、僕は驚きと恥ずかしさでいっぱいになる。上気した。
「たい、何の話?」
葉阿戸に見つかる。
「指摘されたんだ……! 普通じゃありえない……! 凡ミス……! 羞恥……!」
「急にどうした」
「たいのことはほっとこうぜ」
茂丸はそう言うと、ゲームのあるテレビまで歩いていった。
葉阿戸も続く。
「させさせ!」
「いっけー!」
「やったか?」
ゲームは白熱しているようだ。
「……お邪魔しました」
僕は誰にも見つからないように、静かにえなの家を後にした。
照らし合わせたかのように雨が降ってきた。
傘もカッパもないので、急いで家路につく。
気づけば雨に打たれて、15分ほど経過していた。そして家にたどり着いた。
防水性の皮のリュックなのでなんとか教科書類は雨に濡れずに済んだ。
「おかえり! 早かったね、楽しかった?」
「ただいま、勉強するから」
僕はさっさと2階に行こうとするも、腕を掴まれた。
「お風呂入りなさいよ。たいちゃん。ずぶ濡れじゃない。勉強もいいけど」
「はいはい」
僕は浴室に向かった。その時、ケータイの電話がなる。
(葉阿戸だろうな)
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その後もテスト勉強に追われてケータイを見ることはなかった。
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