もしも学校の椅子がトイレの椅子だったら

五月萌

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70 冬休みの宿題

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「ただいま」
僕は家につき、自室まで眠気と戦いながら上がった。
(学校が始まるまで今日を入れて7日だ。貴重な休みを大切にしよう)

そう思いながらもベッドの上で時間を費やした。眠っているのか起きているのかわからないが、うだうだしているうちに夜になった。

「たいちゃん、今日は鍋だよ」
「はいはい」

僕は腹の虫がなり、反射的に起こされた。鍋を食べて、歯を磨くと、風呂にも入らずベッドに横になった。




お昼に起きるとメールが着ていた。
葉阿戸からだった。
僕はメガネもかけずにメールを開く。

『おはよう、昨日はごめん。明日姉さんはたいに関しては関わらないそうだよ! ハッキングされてるのにもう少し早く気づけばよかった……! 姉弟の仲は両親が取り持ってくれたよ』
『葉阿戸のせいじゃないよ! また学校の部活で話そう』

僕は夢中にケータイを打つ。

『わかりました』

数分後、そう返ってきた。
僕はぼんやりしながら葉阿戸のことを考える。
(僕のここを葉阿戸が握ったんだな)

完全に1人で興奮していた。そして、トイレに駆け込んだ。
ジャー!
ビュルル

「うぅ」

便器の中にあれが放たれた。
ケータイの中で葉阿戸が笑っている。

「ああ、もう」

僕は座りながら、拝むようにうずくまった。

「たいちゃん、おトイレ?」

約5分後、扉を挟んで母が聞いた。

「そうだけど、なんだよ?」
「いや、父さんが1階のおトイレ占領してるの、早く出てくれないかしら?」
「あー、はいはい」

僕は立ち上がると水を流した。ズボンを履きながら、トイレから出る。

「どいて」

母が内股で現れて、僕をトイレの外へと追いやった。
僕は下の階まで降りた。

「父さん、帰ってるんだ」
「正月だしな」

トイレから出た父とすれ違う。大きな背中があった。加齢臭がする。全体的に白髪が目立っている。
朝ご飯を食べて、2階の自室に戻った。

「勉強しよう」

僕は近頃、勉強を怠っている気がした。
(去年は色々あったな)
文化祭や持久走大会など様々あったが。1番は葉阿戸との出会い。最も出会い方は情けなかったが、会えて良かった。
葉阿戸と言えば、忘れてはならない人がいる。そう、明日多里少も僕が成長できる一貫になってくれた。

「心頭滅却すればまた火も涼し」

僕は気持ちを切り替えて勉学に励んだ。
ルーズリーフに数式を書き込む。
パリ、ボリボリ。
机の引き出しに隠しておいたコンソメポテトを勉強のお供にする。
(これで計画通り、とでも言ってみたいものだ)


数学の宿題の最後の証明問題を解いていると、電話がかかってきた。茂丸からだった。

『茂丸、何の用?』
『頼む、一生のお願い、数学の宿題、写させてくれ』
『あんた、それくらいで一生のお願い使うなよ。写すのはいいけど、テストで対応できないぞ』
『細けえことは気にするな! テスト前に勉強すればいいだろ?』
『好きにしてくれ、で、どこで勉強するんだ?』
『たいの家じゃ、だめ?』
『可愛く言ってもだめだよ、ハンバーガー屋で落ち合おう』
「栄養が偏るし、太るぞ?」
『だったら自分でやれ』
『わ、分かったから切らないでくれ。じゃあ、1時間後に集合な、だいじょぶそ?』
『構わないよ。ところで僕が数学の宿題を終わらせたのがよく分かったな?』
『虫の知らせってやつだな、でも』

僕は長くなりそうだったので、茂丸の言いかけている言葉を無視して電話を切った。そして、下に行き、シャワーを浴び、髭を剃った。その後、プリントなど勉強道具をリュックにしまい、防寒対策をして家を出た。
外はまだまだ寒い。風は穏やかだ。すんだ青い空の元、整備されている道をゆく。
飲食店はお昼時のためか、どこも混んでいる。
僕は自転車を駐輪場に停めるとケータイにイヤホンを通して曲を聞く。

(この曲は、僕の好きな”THE BOOM””星のラブレター”だ。ジャンルはランダムだ)

店に入り、少し立ちながら待った。そうしてなんとか席は確保でき、注文しに行った。

「アイスコーヒー下さい」
「はい、140円です」
「ガムシロ、ミルクなしで」

僕はブラックコーヒーを受け取り、席に着くと、先程の証明問題を証明させた。

「おーい」
「おう、茂丸!」
「それがプリントか、ありがとう」

茂丸の頬にあざができているので、僕は戸惑った。

「えっと、そう」
「あ、もちろん、ただとは言わない。マッ◯シェイク買ってくるよ」
「茂丸は本当にそれが好きだな」
「明日姉さんさ、たいのことが心配だったようだよ」
「そう言えば、なんか怖くて着信履歴を見てなかったな」

僕はケータイを取り出す。
着信履歴は58件。全部明日多里少からだ。メールは着ていない。

「怒ってた?」
「この顔を見ろよ。俺達で楽しみましょうって乳揉んだら、エルボーされたよ」
「ふふっ」
「あーひでえ、笑い事じゃねえぞ」

茂丸は荷物を置き、財布だけを持って、目の前からいなくなった。
僕も茂丸もその日は勉強を頑張った。
英語のプリントは2人で(主に僕が)解いていった。
夜になる頃には宿題は完璧に終わって、テスト勉強をしていた。

「来月はチョコもらうぞ!」
「おおー、頑張れ」
「お前も頑張るんだよ、葉阿戸からさ、もらえることを祈って乾杯!」
「うるせえなあ」
「とか言いながらぁ、おっぱいドリンク飲みやがって」
「マッ◯シェイクを変な名前で呼ぶんじゃねえ。牛さんのミルクだからな、失礼だぞ」

僕は茂丸を置いて、帰り支度をし、すぐに店を出ていった。
(夜は冷え込むな)

「待って」
「待たない」

僕は茂丸を好き勝手にしすぎているらしい。最近気がついた。
茂丸は僕と並列で並ぶ。

「明日姉さんとはどうなったんだ?」
「あんたに話してどうなるんだよ」
「その様子だと、さては破局したな」
「だったら何だよ」
「はい! オッパッピー! いえーい!」
「心の声と表向きの声が逆になってるぞ」
「あ、大変だったな、そりゃ」
「じゃあ、僕こっちだから」

僕は明日多里少のことを思い出す。
(肌の質感、男のとは全然違ったな、あーあ、でもしょうがない)

家につき、毎日のルーティーンをこなし、寝床につく。

それから何日も学校が始まるまで、家で過ごした。何時間も勉強に時間を捧げた。

そして新学期が始まる――。

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